情報
お爺さんが正気に戻った後、俺はお爺さんに案内されてお店の奥に連れて来られていた。
そこでは、鍛冶場であると同時に、研究室の様な場所であった。
何冊もの本が積み重ねてあり、何も書かれていない本のページを捲ると、そこには様々な魔法陣や魔術式が書かれている。
「ふむふむ…この魔術式の考えは新しいな」
お爺さんがブツブツと魔導剣を見ながら独り言を呟く。
俺は乱雑に置かれている本の中から一冊を取って、
「すみません、これ読んでも良いですか?」
お爺さんに許可を取ろうとする。
「良いぞ~」
お爺さんは俺の方を見ないでそう言う。
本当に良いのだろうか?
まぁ、許可は得たから大丈夫か…。
俺はそう思って本を読んでみる。
「魔法、かつては世界の全ての者が使えていたと言われている魔法だが、時代が過ぎていくと共に使えなくなっていった。その代わりに魔術、魔導の技術が発展していった。魔法よりも扱うのは難しいが、便利であることに変わりは無い。魔術は術式や魔法陣を様々な所に描いて贄を消費して発動させる。そして、その魔術が発展して出来たのが魔導である。魔導は魔術式や魔法陣を書いた物に魔石と言う贄を使って、特定の属性の魔法を使える様になった。その技術を開発したのがバルナルド・ヴィリヴァである。彼のお陰で、更なる発展を遂げていったが、天然で取れる魔石は掘り尽くしてしまった故に、魔導という技術が潰えてしまうと危惧された。だが、長年隠居生活をしていて公の場に姿を現さなかったバルナルド・ヴィリヴァが姿を現すと、天然の魔石の代理になる人工的な魔石の製造方法を発表した。それは魔獣を殺すと出てくる死石という石に、世界で数人しか残っていない魔法使いが魔法を注ぐ事で人工的な魔石が出来るという事だ。またしても、バルナルド・ヴィリヴァのお陰で魔石の問題も無くなった」
俺はそこまで読んで、一度本から目を離す。
この本から分かる事は、バルナルド・ヴィリヴァがどれだけ偉大な事をしていたのかが分かる。
そして、魔石は魔導を使う上での生贄の役割を持っているって事。
だが、その天然の魔石が無くなった所為で、魔導自体が衰退していく可能性があった。
しかしそこに新しい技術、人工的な魔石が作れる事がわかったのか…。
おそらく、長年隠居していた時に向こうの世界に行ってたんではないだろうか…。
そうでないと、魔法が使えなくなってきていた世界で魔法を使うという考えは出来ないだろう。
そうしていると、
「おほぅ!この握りやすくした柄!」
お爺さんが魔導剣を握って興奮している。
それからもお爺さんは魔導剣を色々弄っては興奮していた。
俺はそれまでお爺さんに許可を得てから積まれている本を読んでいた。
そうして過ごしていると、
「ただいまー」
お店の方からヨハナさんの声が聞こえた。
「爺、どう?」
ヨハナさんがこちらに来ると、お爺さんに声を掛ける。
だが、声を掛けられたお爺さんは、
「むむぅ…。何なんだこの魔術式は…」
どんなに時間が経っても魔導剣を見つめて独り言を呟いている。
すると、
「…ずっとこんな感じ?」
ヨハナさんが俺にそう聞いてくる。
何だろう、話しかけられたの久しぶりな気がする。
「そうですね」
俺がそう言うと、ヨハナさんはお爺さんの傍に行き、
「爺ぃぃッ!!」
大声でお爺さんを呼んだ。
いきなりの耳元での大きい声でお爺さんはビックリして耳を押さえている。
「ぐおぉ…鼓膜がぁ‥」
お爺さんの鼓膜が心配だ…。
それからお爺さんの耳が治るまで待ってから、何故か話し合い的な感じになってしまった。
「お願いだ!この魔導剣を少しの間だけ貸してくれないか!」
お爺さんは俺にそう言って頭を下げてくる。
魔導剣を貸すのは別に良いが、こちらも何か情報が欲しい…。
「…わかりました。ですが、その代わりにここにある本を何冊か借りたいです」
「そんな事で良いならいくらでも持って行ってくれ!」
俺の交換条件を快諾してくれて良かった。
俺がそう思った瞬間、
「つまり、少しの間ここに留まるって事?」
ヨハナさんが俺の事を見てそう聞いてくる。
「そうなりますね」
俺が苦笑いしながらそう言うと、
「爺、この人に予備の魔導剣を売って。お金は私が払うから」
ヨハナさんが俺の事をチラリと見て、お爺さんにそう言う。
「金は要らん。それよりも価値がある物を貸してもらうんだ。何でも持っていけ」
すると、ヨハナさんの言葉を聞いたお爺さんが俺に笑ってそう言ってくる。
「ありがとうございます」
俺がそう言った瞬間、お店の方ですみませんと言う声が聞こえた。
お客さんだろう…、聞いた事がある様な声だった気がするが…。
すると、
「ローラントだ!」
ヨハナさんの顔がパァッと輝いてお店の方に走って行く。
これはもう、確定だろうな。
そう思っていると、
「…あの男か」
お爺さんの嫌そうな声が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「ん?いや、ヨハナが好いているあの男が気に入らないだけだ」
お爺さんはそう言うと、今まで興奮しながら握っていた魔導剣を机の上に置いて、机の上に置いてある瓶を掴んで中身をグビッと飲む。
親心と言うものだろうか。
俺がそう思っていると、
「そういえばまだ互いの名前も知らないな。この店の名前にも書いてあるが、ヴァレオだ」
お爺さん…ヴァレオさんがそう言ってくる。
「シュウです。旅をしていてヨハナさんと知り合い?になりました」
俺とヨハナさんの関係って何だ?
そう思いながらヴァレオさんに自己紹介をする。
「ふむ。君は安心出来るな」
俺の事を見ていたヴァレオさんがそう言う。
「ありがとうございます?」
何が安心できるんだろう?
「ヨハナや町の者達はあの男を信頼している様だが、あの男の纏う空気が信用出来ない」
俺が考えていると、ヴァレオさんが瓶の中身を飲みながらそう言う。
「纏う空気ですか?」
「そうだ。あの男からは野心と欲望の匂いがプンプンする」
俺の問いにヴァレオさんはそう答えると、更に瓶を傾ける。
そして、お店の方ではヨハナさんとローラントさんの笑い声が聞こえる。
読んで下さってありがとうございます!
感想を書いて下さった方、ありがとうございます!
ブックマークして下さった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをして下さると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで教えて下さい。
よろしくお願いします。




