甘い濃密な香り
アルの衝撃の言葉を聞いてから少しして、俺は思考能力が回復した。
「いないって…。もしかして元の世界に帰って行ったって事?」
俺がそう聞くとアルは頷いて、
「おそらくそうだろうな。シュウとあの男が消えた瞬間、レイカ達の足元に魔法陣が現れて一瞬で消えちまったからな」
そう説明してくれる。
「でも、何で俺は帰れなかったんだろ?」
俺がそう言うと、
「…シュウ、帰りたいの…」
リーシャが少し怒った様子で俺にそう聞いてくる。
アルも少し顔が怒っている。
「違う違う!そういう意味で言ったんじゃないよ!」
俺がそう言うと、リーシャとアルが少しだけ笑う。
「まぁ、可能性があるとしたら2つだな」
アルが指を立てて俺に言ってくる。
「2つ?」
「あぁ。1つはあの時シュウは魔法の力が効かなくなってたんだろ?だから、魔法陣の力も効かなくなっていた可能性がある」
アルの言葉を聞いて、俺は頷く。
確かにその可能性は否定できない。
「そしてもう1つは、シュウが生と死の狭間にいたからだ。シュウが死んでいる扱いになってたら、魔法陣が反応しなくても仕方ない」
アルの説明に、俺はもう一度頷く。
どの可能性もあり得るからな。
そう思っていると、俺もある可能性を考え付く。
「俺がここに来る時に、本当だったら俺はここに来れなかったと思うんだ。魔法陣が俺の足元には現れなかったんだけど、周りにいた他の勇者の魔法陣がくっ付いて大きな魔法陣になったんだ。それに巻き込まれて俺はここに来たんだけど、もしかしたらそれが原因かもしれない」
俺がそう言うと、アルが考える様な素振をする。
すると、
「そんな事考えなくても良いわよ。それよりも今は、今後についての話し合いと、ルリィやティアさん達にシュウが帰ってきた事を言わないと。皆、シュウがいなくなっちゃった所為で心に深い傷が出来ちゃったんだから…。シュウ?しっかりと謝らないといけないわよ」
リーシャがそう言う。
その言葉を聞いて、俺は早く皆に会わないと…、と焦り始める。
「リーシャ、皆どこにいるの?」
俺がそう聞くと、
「皆、ティアの自室に集まってるぞ」
アルが答えてくれる。
ティアの自室って広いには広いが、何人も入れるほどでは無かった様な気がする…。
俺はそう思いながらも、立ち上がる。
すると、俺にぴったりとくっ付くリーシャとアル。
まるでもう逃がさない、離れないと言う様に‥。
俺は何も言わないで、城へ歩き出す。
城の中に入ると、騎士の人達が羨ましそうな目で俺達を見てきて、メイドさん達はニヤニヤ笑っている人もいれば、目をキラキラさせている人もいる。
リーシャとアルの2人がいる時点で注目されるのはわかっていたが、やっぱり少し恥ずかしい…。
周りの視線に刺されながらも、城の中を歩いていき、以前に訪れたティアの自室の部屋に入るための壁の前まで来た。
すると、
「ここを触ればいいんだぞ」
アルがそう言って壁に触れると、壁が動き出す。
「よく知ってたね」
俺がそう言うと、
「教えてもらったからな」
アルは笑ってそう返す。
俺達は少し体をずらして奥の廊下を進んでいく。
そして3つ目の扉の前で立ち止まり、扉をノックする。
すると、
「…どうぞ」
部屋の中からティアの声が聞こえた。
だがその声は、酷く辛そうで、声を出すのもやっとなんではないかと思ってしまう程だ。
俺はゆっくりと扉を開ける。
すると、皆が揃っていた。
皆が下を向き、俺を見る事すらしない。
見ると、コレットさんは寝てしまっている。
これは…謝るくらいじゃ済まないな…。
俺は皆の様子を見てそう思いながら、扉の近くに座っているエルミールさんの肩をポンポンと叩く。
すると、
「何でしょう…。私は今、動くのすら嫌…なん…」
エルミールさんが頭をゆっくりと上げながらそう言っていると、俺の事を見た瞬間に言葉が止まる。
「…え…嘘…」
エルミールさんがそう小さく呟くと、顔を赤く染める。
どうしたんだろう?
まぁ、今言うべきことは…。
「遅れて、ごめんなさい」
俺がそう言った瞬間、皆が頭を上げて俺の方を見てくる。
正直に言うと、少し怖い…。
泣いていたのだろう皆の充血した瞳が、ただ感情も無く瞳の光も無いいくつもの眼差しが、俺の事をジーと見ている。
しかも、さっきまで気持ち良さそうに寝ていたコレットさんまで起きている…。
「あの…、皆?遅れ…」
俺が話そうとした瞬間、皆が一斉に俺に飛び込んで来た!?
「ごはぁ…」
「シュウさんッ…」
「ご主人様…グス…」
「あぁ…久しぶりのシュウさん…」
「何やってたのよ…」
「シュウ君…馬鹿…」
「旦那様…やっと…」
俺は腹に突撃をされて空気を吐き出すが、皆はそんな事どうでも良いように俺の様々な所を触って俺の存在を確認し、抱き付いてくる。
「ま、待って!そこは触らないで!」
誰の手かはわからないが、色々とマズイ所を触ったり揉んだり握ったりしてくる!?
というか皆が抱き付いている所為で、皆の女性の甘い匂いが脳に衝撃を与えてくる…。
その濃密な女の香りに、頭がクラクラしてきた瞬間、皆が一斉に俺から離れる…。
俺は息を整えながら起き上がり、どうしたんだろうと思いながら皆を見る。
すると皆、顔を真っ赤に染めて僅かに震えている。
「ど、どうしたの皆?」
俺がそう言った瞬間、
「「「「「「湯浴みしてきます!!」」」」」」
皆が一斉に走り出して部屋から出て行ってしまった…。
ティアの部屋に残された俺とリーシャとアル。
「あ~…。皆シュウがいなくなった事に絶望して、湯浴みとか行く頻度が少なくなってたからな」
アルはそう言いながら、部屋から出ようとする。
そして、リーシャもアルに続いて部屋から出ようとする。
「2人も…そうだったの?」
俺がそう聞くと、アルが俺の方を向く。
その顔はアルにしては珍しく、顔を赤く染めて少し緊張している様だった。
すると、
「シュウ、今日は寝かさないわ」
リーシャがそう言ってきた。
という事は…そういう事?
俺がそう思った瞬間、
「皆の相手もしないと…ね?」
リーシャはそう言ってアルを連れて部屋から出て行ってしまった…。
俺、今日死なないよ…ね?
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