贖罪
…ここは…、どこだ…。
俺は…どうなったんだっけ‥。
…そうだ、ディデリクさんにリザベルトさんとエルネットさんの事を頼まれたんだ…。
後、アキベカさんからアルベールさんに伝言も…。
「ッ!?」
そこまで思い出して、俺は慌てて起き上がる!
というか、横になっていたのか…。
ここはどこなんだ?
俺はそう思いながら周りの見回すと、そこは少し前までいた場所だった。
夜空の様な真っ黒な世界に、光り輝く星の様なモノ。
ここは神レクシシュ様のいる場所だ。
俺がそう思っていると、
「起きたかの?」
後ろから声を掛けられた。
声のした方を見ると、レクシシュ様が俺の事を見下ろしている。
「レクシシュ様」
俺がそう言うと、
「うむ、わしの事を理解しているのなら安心じゃな」
レクシシュ様が微笑んで、指を鳴らす。
すると一瞬で周りの景色が変わり、前に来たときと同じ部屋になる。
そして、レクシシュ様が歩いて自身の机の方へ歩いていく。
俺は立ち上がり、レクシシュ様の後ろを付いて行く。
俺の先を歩いていたレクシシュ様が机のところに行き椅子に座ると、ある事に気が付いた。
それは、レクシシュ様の机の脇の方に1つの扉が出来ている。
前に来たときは無かったのに。
そして、もう1つ。
「レクシシュ様、セエレさんはどうしたんですか?」
レクシシュ様の補佐をしていたセエレさんの姿が見当たらない。
すると、俺の質問を聞いたレクシシュ様は顔を引き攣らせながら、机の脇の方に佇んでいる扉を見る。
どうやら、セエレさんは扉の向こうにいる様だ。
「シュウよ、お主が生と死の狭間にいるとは思わなかったのじゃ」
レクシシュ様が俺にそう言ってくる。
「俺も…。まさか死にかけていたとは…」
俺がそう言うと、
「あそこに用が無かったら、シュウを引き上げる事は出来なかったんじゃぞ」
レクシシュ様がズズゥ~と音を立てながら飲み物を飲む。
「ありがとうございます。でも、あそこに行って良かったと思いました。思わぬ出会いがあったんです」
「あそこにいたのは、魔族とその者に喰われた者達の魂じゃったな」
「はい。あの人達が、俺の事を救ってくれようとして下さったんです」
「ふむ。何かとても大事な想いがあったんじゃろうな」
レクシシュ様の言葉を聞いて、俺はディデリクさんとアキベカさんの伝言を思い出す。
「とても…大切な想いでした」
「…そうか」
俺の言葉に、レクシシュ様が短く答える。
その声は優しく、母の様な母性を感じさせる安心する声だった。
そして、俺はある事を思う。
「レクシシュ様、あそこに用があると言っていましたが、どんな用事だったんですか?」
俺がそう聞くと、
「ん?あぁ、あそこにいた魔族を回収したんじゃ」
レクシシュ様がそう言った。
あそこにいた魔族って…。
「ガレスの事ですか?」
「そうじゃ。それが…」
レクシシュ様が何かを言おうとした瞬間、扉が開いた。
そして、中から出てきたのは何故か満足そうなセエレさんだった。
「シュウさん、目が覚めたんですね。良かった」
扉から現れたセエレさんは、俺の事を見てそう言ってくれる。
「お久しぶりですセエレさん」
俺がセエレさんにそう言うとセエレさんは俺に微笑んで、レクシシュ様の方を向く。
「レクシシュ様、今までお世話になりました」
セエレさんはそう言って、レクシシュ様に頭を下げる。
「それで良いのか?」
「はい。お約束を守ってもらっただけで十分です」
セエレさんがそう言うと、レクシシュ様が一度息を吐く。
「仕方がないのぅ」
レクシシュ様はそう言うと、指を鳴らす。
するとセエレさんが出てきた扉が消え、そこにはガレスが立っていた。
「さぁ、ガレス。レクシシュ様にお礼を言いなさい」
セエレさんがガレスにそう言うと、ガレスは片膝を床に付けて頭を下げる。
え、どういう事?
セエレさんって何者?
あのガレスを従わせるなんて…。
俺がそう思っていると、
「シュウさん、隠していて申し訳ありません。実は私は、魔族だったのです」
セエレさんが俺の方を向いてそう言ってくる。
「そうだったんですか。でも角とかは?」
「あぁ。私の魔法で消したんです」
俺の質問にセエレさんがそう答える。
「聞いても…良いですか?」
俺がおそるおそる声を出すと、
「どうぞ」
セエレさんは微笑みながらそう言ってくれる。
「あの、セエレさんの魔法って、どんな魔法なんですか?俺の修行の時は使って無かったですよね?」
「はい。私の魔法は下手に使ってしまうと、自分自身すら殺してしまう死の魔法なんです。故にそう簡単に使わないんですよ。そしてその魔法の名前は、消失魔法」
俺の質問にセエレさんが答えた瞬間、俺はガレスを見る。
俺は知っている。
ガレスが消失魔法を使えるのを。
もしかして…。
俺がそう思った瞬間、
「シュウさんの考えで合っています。ガレスは死体の私の血を舐めて、私の体も取り込んだんです」
セエレさんが微笑みながらそう言う。
気のせいかもしれないが、セエレさんの頬が赤いように見える。
「あの…セエレさんとガレスの関係って、もしかして…」
「恋仲…の一歩手前でしょうか。恋仲になる前に私が死んでしまったので」
そう言った。
知り合いどころの話じゃなかった
つまり、ガレスは死んでしまったセエレさんの為に人類に復讐をするつもりだったのか。
「すみませんでしたシュウさん。本当なら私が彼を止めなくてはいけなかったのに、私はここから出る事は出来ないので…」
セエレさんはそう言って俺に頭を下げてくる!
「いやいや、頭を上げて下さい!俺もガレスに強くは言えません。俺だって大切な人が亡くなったら、何をするか分かりません」
俺の言葉を聞いたセエレさんは頭を上げて、
「大丈夫ですよ。シュウさん。貴方には支えてくれる人が沢山います」
そう言ってくれる。
その言葉を聞いた俺は、皆の顔を思い出す。
皆の顔を想い浮かべると、自然と頬が緩む。
「ありがとうございます。そうかもしれません。俺がおかしくなっても、皆が殴ってでも止めてくれそうです」
俺がそう言うと、セエレさんは頷く。
そして、
「レクシシュ様、お願いします」
セエレさんはレクシシュ様の方を向きそう言った。
すると、
「承知したのじゃ」
レクシシュ様はそう言って、指を鳴らす。
その瞬間、セエレさんとガレスの足元から黒い手が出てくる。
「どういう事…ですか」
俺がそう呟くと、
「ガレスは罪を犯しました。でもそれは私の事を想っての事、だからガレスと一緒に私もガレスの罪の贖罪をします」
セエレさんがそう言う。
「すまない…」
ガレスが呟く。
「良いのよガレス。貴方を愛したその日から、私はどんな事があっても貴方を見捨てたりしないわ」
「…ありがとう」
セエレさんの言葉に、涙声になっている大魔王ガレスの言葉が聞こえた瞬間、2人は黒い手によって姿を消した。
「…シュウ、お主もそろそろ戻れ」
俺が複雑な感情に動けないでいると、レクシシュ様がそう言う。
その声は、今までレクシシュ様が出してきた声とは全く違うものだ。
その声を聞いた瞬間、俺は早くここからいなくなった方が良いと察する。
「…はい。お願いします」
「また…会いに来るんじゃぞ。…茶菓子は忘れるなよ」
「いっぱい持って来ます」
俺がレクシシュ様の言葉にそう返した瞬間、一瞬で景色が変わる。
「馬鹿者が…」
1人になった空間で、レクシシュは涙を流す。
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