生と死の狭間
俺は目の前に立っている男性を見る。
やはりエルフだけあって、顔立ちが整っている。
優しい顔をしているが、それに加えて何かを背負った意志を感じさせる眼をしていて、思わず息を飲む。
男性の姿はやや薄く、すでに死んでいるという事だろう…。
俺がそう思っていると、
「君がシュウ君だね」
エルフの男性が俺に声を掛けてくる。
「は、はい。何で俺の名前を…」
「俺は死者だからね。安寧の地から見させてもらったよ」
俺の質問にそう答えてくれる。
すると、
「おっと、俺も名乗らないとね。俺の名前はディデリク。リザベルトとエルネットが世話になっているね」
自己紹介をしてくれた。
…え?
「そう固まらなくても大丈夫だ。別に怒ってはいないからね。俺が情けなかっただけなんだから」
俺にそう言って、肩をポンポン叩いてくれるディデリクさん。
「寧ろお礼を言いたいよ。君のおかげで2人は明るくなった。感謝している」
俺にそう言って、頭を下げてくるディデリクさん!
「あ、頭を上げて下さい!俺は何も出来てないです。リザベルトさんとエルネットさんには与えて貰ってばかりです。俺は何も返せていない。約束も守れないで…」
無事に戻ると約束したのに…。
皆を悲しませてしまったかもしれない…。
俺がそう思っていると、
「大丈夫だよ。俺達は君を元の居場所に戻すためにここまで来たんだから」
ディデリクさんがそう言うと、更に光の玉がガレスの体から出てくる。
「人の子よ。其方はまだ終わる時ではない」
ディデリクさんの隣に光の玉が来ると、また光り輝く。
ディデリクさんの時と同じように少ししてから目を開けると、無表情の男性が立っている。
青い長髪に、青白い肌…。
この人は、人ではない…。
男性を見た瞬間にそう思うと、
「アキベカ、もう少し感情を出せと言ってるだろう?シュウ君が怖がっている」
ディデリクさんが男性にそう言う。
「難しい事を言うな」
少しだけ顔をしかめる男性。
その隣にいるディデリクさんは、少しため息をつくと、
「シュウ君、彼はアキベカ。確か仲間に精霊の男性がいるね?」
俺にそう聞いてくる。
「はい。アルベールさんですよね」
俺がそう言うと、
「彼はその人の友だった者だよ。いや、親かな」
ディデリクさんは少し笑いながらそう言った。
つまりアルベールさんと前に少しだけ話した、アルベールさんの師でもあり、親でもあり、友だと言っていた人か…。
「それより早くしないといけないよ」
俺がアキベカさんを見ていると、後ろから女性の声が聞こえてきた!
慌てて後ろを見ると、綺麗な人が立っていた。
エルフの様に尖った耳、褐色した肌をまるで見せているかの様な大胆な服装。
髪は銀色なのだが、前髪の一房だけ金色に輝いている。
「彼女はナーテ。ダークエルフなんだ」
「初めまして」
俺が頭を下げながら挨拶すると、頭を撫でられる。
「よろしく。それより早くしないと、死者の呼び声でこのまま死んでしまう」
「おっとそうだね。では、始めようか」
ナーテさんの言葉を聞いて、ディデリクさんとアキベカさんが俺に手を向ける。
「あの…これは…」
俺が戸惑いながらそう言うと、
「安心して欲しい。これは君を生者の世界に戻すだけだから」
ディデリクさんがそう言う。
つまり、このまま生き返る?
「人の子よ。伝言を伝えて欲しい。アルベールに、其方は其方の生き方をしろ…と」
俺がそう思っていると、アキベカさんがそう言ってくる。
「わかりました。伝えておきます」
俺がそう言うと、
「俺はシュウ君に伝言だ」
ディデリクさんが俺にそう言ってくる。
「はい」
「リザベルトとエルネットを幸せにしてくれ。死んでしまった俺にはもう出来ないが、まだ生きている君に、リザベルトとエルネットが愛している君になら頼む事が出来る。頼む」
「…必ず」
俺がそう返すと、ディデリクさんは笑う。
「ほれ、じゃあ頑張れよ。ここにいた時間以上に時間が経ってるからな」
え?
ナーテさんがそう言った瞬間、俺の体が光り輝く!
そして、その光で視界が奪われる。
途端に体が引き上げられるような感覚を感じた…。
「これで大丈夫だろう」
柊がいなくなった空間で、ディデリクが声を出す。
「…私達の魔法に、何かが介入した」
アキベカが、自分達の魔法に何か異物が入り込んだのを感じ取ってそう言う。
「えぇ、感じた。でもあれは死者でも生者でもない、それ以上の感じがした」
アキベカの言葉にナーテがそう返すと、
「負の感情は感じ取れなかった。大丈夫だろう」
ディデリクがそう返して、後ろを向く。
自分達を喰らい、魔法の力を奪ったガレスの方を。
だがディデリクが見たのは、ただ一面に広がる闇だけだった。
「…いない」
ディデリクの言葉にアキベカとナーテも辺りを見回すが、ガレスの姿はどこにも無かった。
「逃がした?」
ナーテが首を傾げながらそう声を出す。
「そう簡単に逃げられない」
ナーテの言葉にアキベカがそう言うと、
「何もないこの空間で、隠れる所も無いしな」
ディデリクが、キョロキョロしながらそう言う。
それから少しの間、3人はガレスの姿を探すが見つける事は出来なかった。
そして、
「…時間だ」
アキベカはそう呟くと、光の粒子となって消えてしまう。
「私も」
ナーテも徐々に薄くなっていく。
「では、同じだな。俺も消えてきている」
ディデリクの言葉を聞いたナーテがディデリクを事を見ると、彼もナーテと同じように消えかけている。
「また、いつか」
「えぇ、またいつかに…」
2人がそう言うと、ほぼ同時に2人は光の粒子となって消えてしまった。
3人が消えてしまった生と死の狭間には、もう誰もいない…。
ただ聞こえるのは、彷徨う者を呼ぶ死者の声だけ…。
そこには…誰もいない。
読んで下さってありがとうございます!
感想を書いて下さった方、ありがとうございます!
ブックマークして下さった方、ありがとうございます!
評価や感想、ブックマークをして下さると嬉しいです。
誤字脱字がありましたら、感想などで教えて下さい。
よろしくお願いします。




