魂の剣
俺がリーシャにそう言うと、リーシャが笑って答えてくれる。
しかし、少しだけリーシャの表情が曇る。
「でも魔法を使うのに少し時間が掛かるわ。それまで…」
「それなら気にするなリーシャ。オレが護ってやるよ」
リーシャの肩に手を置いてアルがそう言う。
リーシャがアルに頷くと、
「シュウの事はレイカが護ってやれ。頼むぞ」
アルが怜華さんにそう言う。
「わかりました。任せて下さい」
怜華がそう言うと、リーシャとアルが頷き一気に駆け出して怜華さんの支配領域から外に出る!
すると、
「我が身に宿りし光よ、其れは命の煌きなり」
リーシャが詠唱を始める。
今までリーシャは魔法を放つ際には無詠唱だった。
つまり、これから使う魔法はリーシャでも魔法詠唱をしなければいけない魔法という事か…。
俺はリーシャの事を見ながらそう思うと、ゆっくりと動き出す。
「数億の命が在る扉、その先に在るのは光と闇」
俺は今、魔素が使えない…。
それでも諦めてはいけない。
大切な皆を、リーシャを護るためならどんな事だってする。
「奏でる優しい鐘の音、憎悪に塗れた深淵の声」
俺はリーシャの詠唱を聞きながら歩く。
そして、怜華さんの支配領域を出ようとすると、
「…怜華さん」
怜華さんが俺の後ろに付いて来たために支配領域から出る事が無い。
「いつでも一緒にいるわ柊ちゃん。柊ちゃんがいれば地獄だって天国になるわ」
俺にそう言ってくれる怜華さん。
「ありがとう怜華さん」
俺がそう言うと、怜華さんは微笑む。
すると、
「オラァァッ!」
アルの声が聞こえてそちらを見ると、リーシャに迫っている魔光をアルが防いでいる。
アルは腕を魔神の腕にして、ガレスの魔法を耐えているのだ。
「大いなる空、偉大な大地」
俺は左手を胸に当てる。
今、一番必要なのは力だ。
あのガレスを一瞬で消滅させられるような力が…。
「無限に続く世界、永久に聞こえる生者の歓声、永久に聞かされる死者の悲鳴」
手のひらが熱くなって来た。
帰るんだ、皆が待っている家に…。
「汝の選択は光か闇か」
リーシャの詠唱が終わりそうだ。
「我が想いに具現せよ、欲望に答え形を成せ」
俺は詠唱をしながら、左手を握る。
確かな感触があり、それを掴むと痛みが走る。
斬れてしまったようで、手から血が出るのを感じる。
そして、
「汝は許されなき存在、歌を紡がれ無限の闇へと堕ちよ。縛封呪体ッ!!」
リーシャが魔法を放つ!
リーシャの周りに形成された魔法陣から何百、何千もの鎖や黒い手が飛び出す!
「魔光!」
ガレスもリーシャの放った魔法に攻撃を仕掛けるが、魔法同士がぶつかった瞬間にガレスの魔法が消滅する!
それと同時にガレスの背後に形成されていた魔法陣が消滅する!
「く…消し‥」
そして、ガレスが白い右腕を前に突き出した瞬間、リーシャの魔法に襲われる。
ガレスはおそらく消失魔法でリーシャの魔法を消し飛ばしたかったのだろう。
やがてリーシャの魔法が治まると、そこにいたのは鎖や黒い手に捕まったガレスだ。
だが、少しずつだが鎖や手が剥がれていくのが見える。
これが絶好の機会だ!
「アル!俺を投げ飛ばしてくれ!」
俺がそう大声で言うと、アルが俺の元に来てくれる。
そして、
「しっかりしろよ。変な事考えるんじゃねえぞ」
アルが俺の体を抱きしめてそう言う。
「うん。ありがとう」
俺がそう言った瞬間、物凄い勢いでアルに投げ飛ばされる!
そして、ガレスの目の前で止まる。
ガレスは俺の事を見て少しだけ笑う。
「俺に取り込まれに来たのか」
ガレスが俺にそう言ってくる。
俺はガレスの言葉を無視して、
「魂の剣よ!」
そう叫び左手の胸から離すと、前にも見た俺の魂の剣が握られている。
そして、
「これで終わりだァァッッ!!」
左手に握られた魂の剣を振り切った瞬間、全てが真っ暗になる。
「…?」
見えるは、闇の中で動かした左手と体。
魂の剣も握っていない。
辺りは全て闇に覆われて、今自分がどういう状態なのかもわからない。
足元に踏む感触が無いから、空中を浮いているのか…。
手を伸ばしても何にも触れる事が出来ない。
俺が剣を振った瞬間、どうなったんだ…。
俺がそう思っていると、少し離れた所に人影が見えた。
「あの、すみません!」
俺が大きな声を出すと、人影が俺に気づいたのか振り返る。
その瞬間、人影の顔が見えた。
「…ガレス」
俺がそう呟くと、ガレスが近づいてくる。
慌てて攻撃しようとするが、魔素が使えない。
そうして近くに来たガレスを見て、俺は違和感を覚える。
姿は魔神を取り込む前の姿をしているが、纏っている雰囲気が違う。
言うなれば、狂気を感じないのだ。
「…負けるとは…思わなかった」
ガレスが声を出す。
「俺は最強の力を手に入れて、人類を滅ぼすつもりだったというのに」
そう言うガレスに、
「…何で人類を滅ぼすなんて考えたんだ」
俺はそう質問する。
「俺には愛する女がいた。何の力も無い俺の事を見捨てずに、寄り添ってくれた」
俺の質問に答えるガレス。
「だが、彼女は人に殺された!魔族ではあったが、人を襲わず静かに生きていた彼女を…」
ガレスの言葉を聞いて、俺は少しだけ近心感が湧き上がる。
俺も皆がそんな状況になったら、ガレスの様になっていたかもしれない。
俺がそう思っていると、
「だが、俺の復讐もここで終わりだ。貴様に負けてしまった。大人しく、彼女の元に…いや、今さら彼女に顔向けできないな」
ガレスがそう言う。
そういえば、
「ここは…どこなんだ?」
俺は周りをキョロキョロ見回しながらガレスに聞く。
すると、
「ここは生と死の狭間だ。貴様の攻撃で俺と貴様は一瞬で消滅した」
ガレスがそう説明してくる。
という事は…。
「俺も死んだって事か」
俺がそう呟くと、
「死んだというよりも、死にかけていると言った方が正しい」
ガレスがそう言ってくる。
「じゃあ、ガレス死にかけているという事か?」
「そうだ。ただ、俺の場合は少し状況が違う」
俺の質問にガレスが答えた瞬間、彼の体から光の玉が出てくる。
それは俺の周りを飛び、光り輝く!
あまりの光に目を閉じる。
少しして目を開けると、目の前にエルフの男性が立っていた。
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