叩く音
木がアルの蹴りを痛がって、ピョンピョンしている姿はとても…現実離れをしていて、シュールな光景だ。
そうして跳ねている木を見ていると、アルが大爆笑をしている。
「何笑ってるの!お尻が凄く痛いんだから!」
木が笑っているアルに怒っている。
アルの蹴った所がお尻だったのか…。
そう思っていると、木?の形が変わってくる。
少しして、女性の姿になったのだが、所々が木のままなのだ…。
「ん?誰あんた?」
女性が俺に聞いてくる。
「あのシュウって言います。よろしくお願いします」
俺が簡潔に挨拶をすると、女性は笑顔で、
「アルとはどんな関係なの?」
そう聞いてきた。
「オレとシュウの関係か?そんなの…」
アルはそう言って、言葉が詰まる。
そんなアルを見て、女性は不思議そうな顔をしている。
俺もアルを見る、アルは何か困っているというか、混乱している。
「結構深い関係です。異性として」
俺がアルの代わりにそう言うと、アルは俺の言葉に同調して、
「そうなんだぜ!」
そう言う。
すると、女性が意外そうな顔をしている。
「アルに…雄が出来ただと!?」
そして、そんな事を言う女性。
雄って…。
「ふふん!どうだ!凄いだろ!」
アルも大きな胸を張ってそう言う。
すると、
「受粉したのか!」
アルに向かって興奮的に聞く女性。
受粉…あっ…。
「受粉?…んなッ!そ、そんな事する訳無いだろ!まだ早いんだよ!」
アルも受粉の意味に気づいたのか、女性に追い打ちで蹴り飛ばす。
「痛い!割れる!薪のように割れる!」
その後も、アルと女性は2人で楽しそうに話していた。
やがて、アルが2人の光景を見て笑っている俺に気づいて、慌てて話を元に戻していた。
「ンンッ!こいつはフォル。樹木の精霊というか…何て説明すればいいんだ?」
アルがそう言ってフォルさんを見ると、
「古い樹が自我を持って動き出したんだよ~」
フォルさんはそう言って、自分の肩から生えている枝をポキッと折り、俺に渡してくる。
「これからよろしくね」
「あ、ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします」
俺がそう言うと、満足そうな表情でアルの顔を見る。
「それで、何の用があってここに来たの?しかも、睡眠の邪魔するなんて」
フォルさんにそう言われたアルは、思い出した!みたいな顔をして、
「そうだったそうだった!なぁフォル、ここに身樹はないか?」
フォルさんにそう聞くと、彼女の顔が豹変して、俺とアルに少し敵意を向けてくる。
「あれは渡せないわ。いくらあんたの頼みでも」
フォルさんはそう言うと、地面に座る。
「流石に、立っているのは疲れる」
「どうしてもダメか?」
アルは座っているフォルさんにそう食い下がるが、彼女は何も言わずに首を横に振るう。
「…わかったよ。行くぞシュウ」
「あ、うん」
アルはそう言って、俺を連れて歩き出す。
そうして歩いていると、アルが止まる。
「すまねぇなシュウ。あいつは頑固だから、一度言ったら聞かなくてな」
「ううん。フォルさんにも何か事情があったんだよ。気にしないで」
俺がそう言うと、アルは考え込む。
「どうしたのアル?」
「いやな。何かあったのかなと思ってよ」
俺の質問に、そう答えるアル。
おそらく、先程のフォルさんの事を言ってるんだろう。
「そう言えばアル。身樹というのは何?」
俺が聞くとアルは、
「身樹って言うのは、持ち主が致命傷を受けた時に一度だけその傷を身代わりしてくれるものだ」
そう説明してくれる。
それは、凄いな。
「なるほど。だからそれがあれば良い物なんだね」
「あぁ。それがあれば、家に残していく奴らの安心に繋がると思ってよ」
アルも、色々と皆の事を考えてくれているんだな。
嬉しく思いながらアルを見ていると、アルは俺の視線に気づいて顔を赤く染める。
「オレだって、皆の事大切なんだぞ」
アルが俺にそう言ってくる。
「ありがとう。アル」
「…あぁ」
その後、俺とアルは次の目的の為にまた、空中を走っている。
「今度はどこに行くの、アル?」
走りながら、隣にいるアルに声を掛けると、
「ん?次はサンテールに行くんだ」
「サンテール?」
「そう、霊峰サンテールだ。もう少ししたら見えてくるぞ」
「そこでは、何をするの?」
俺がそう聞くと、アルは俺の事を見て、
「もう1人の頑固者に、頼んでおいた物を取りに行くんだよ」
そう言った。
それから少しして、とても大きい山に着いた。
まさに霊峰と呼ばれるのにふさわしい山だ。
「さ、行くぞ」
アルがそう言って、山を登って…行かない…。
「アル、山を登るんじゃないの?」
アルは、山の麓にある洞窟に入ろうとしている。
「ん?あぁ、あのジジイはこっちにいるんだよ」
アルはそう言って、洞窟の奥へ行ってしまう。
俺も付いて行くと、自然に出来た洞窟ではなく、人工的に作られた物に見える。
松明などは無いが、道が整備されていてとても歩きやすい。
すると、金属を叩いている様なカーン…カーンという音が聞こえてきた。
洞窟を進むにつれて音は大きくなり、次第に少しだけ明かりが見えた。
その瞬間、何かが俺達の方に飛んで来た!
慌てて魔拳を作り、それを掴むと、
「金槌?」
結構重量がある金槌が、俺の魔拳の中に納まっている。
すると、
「誰だ、儂の工房に来たのは」
年配の人の声が聞こえた。
すると、
「おいおい危ないだろジジイ!」
アルが大きな声でそう言う。
洞窟内にアルの声が響き渡ると、
「お前か…だが足音は2つあった。誰を連れて来た?」
そう返ってくる声。
「オレの信頼している奴だよ。大丈夫だ」
アルがそう言うと、
「…わかった。こちらに来い」
そう返ってきて、また金属の叩く音が聞こえ始める。
アルが先に歩き、俺が付いて行くと、声の主が炎の前で小柄なおじいさんが金槌で真っ赤になった物を叩いている。
「そこに置いてある」
おじいさんがそう言って、指さした方向に、何個もの腕輪らしき物が置かれている。
「ありがとうよ、ジジイ。だが悪いな。もう2つ追加してくれねえか?」
アルがそう言った瞬間、赤い物を叩くのを止めるおじいさん。
そして、
「報酬は?」
そう聞いてくる。
その言葉にアルは、
「良い酒があるぜ」
そう答えた。
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