目尻の光
ヤニックとアルベールさんの戦いを見て、俺も依頼の魔物を探す。
そうしていると、魔物を見つけた。
まるで大きい土人形の様な魔物だ。
「あれは、泥人、体全体が泥で出来ていて剣での攻撃はあまり効かないですよ」
アルベールさんがそう説明してくれる。
「なんなら俺がやってやろうか?」
俺に胸を張ってそう言ってくるヤニック。
「大丈夫」
俺はそう言って、魔物の方へ歩き出す。
すると、魔物が俺の事に気が付いて雄叫びを上げる。
俺は冷静に魔素を圧縮していく。
するとリーシャが、
『シュウ、魔法を使う?』
俺に聞いてくる。
そうだ、元々リーシャとの相性も確かめるのもしないといけなかったんだ!
俺はそう思って、
『そうだね。あいつに弱点か効きにくい属性魔法って何?』
そうリーシャに聞くと、
『火魔法とか苦手よ。乾燥したら動けなくなっちゃうし』
リーシャがそう答えてくれる。
どうしようか…。
『仕方ない。リーシャは魔法を使って。リーシャの魔法に合わせてみるよ』
『わかったわ』
右腕を泥人に向けると、泥人が俺に向かって泥を吐いてきた!
『火槍!』
リーシャが魔法を使った瞬間、右腕から炎が一直線に放たれる!
それと同時に俺は魔視を発動し、魔素を操作する。
より魔法の威力を上げる為に、魔素の濃度を上げつつ魔素を更に操る。
すると、リーシャの火魔法が2つに分かれる!
一方の炎はそのまま泥人に、もう一方の炎は泥人の後ろに回す。
そして、両方の炎が泥人に当たり、泥人が爆ぜる!
泥をまき散らし、跡形も無く吹き飛んだ。
『…凄いわ。あんなに威力を上げる事が出来るのね。しかも2つに分かれたわ』
リーシャも驚いている。
『どれもリーシャだったら出来るかもしれないけど、これは誰のどんな魔法にも使う事が出来るから、そこが重要なんだよ』
『普通の人達の魔法すら、威力を底上げする事が出来るわね』
『そういう事。これから戦う皆の為に、消費するMPは極力少ない方が良いしね』
俺とリーシャがそう話していると、
「何だよ今の魔法!」
「素晴らしかったですね」
ヤニックとアルベールさんが俺の元に来る。
ヤニックはやや興奮していて、アルベールさんは人の姿だったら拍手をしている様な感じだ、今はフワフワ浮いているだけで、表情とかわからないけど…。
その後、ヤニックが対抗してきてどちらが魔物を多く狩れるか勝負だ!
と言ってきたが、ほとんどヤニックが魔物を狩ってしまった…。
完全に早い者勝ちになってしまっていた。
加速魔法の精度が上がり、それにアルベールさんの魔法の支援で凄く強くなっている。
俺がヤニックに、
「ここまで魔法の精度が上がってるって事は、相当な訓練だったんじゃないか?」
そう聞いてみると、
「…大変だった。餓死寸前になったり谷底に落とされたり、挙句の果ては精霊の森の精霊や動物達が一斉に襲って来たり…」
ヤニックが遠い目をして空を見る。
ヤニックの横顔を見ると、目尻が微かに光る…。
あのヤニックがここまでなる様な事があったのか…。
「色々と…お疲れ様です」
目尻を光らせるヤニックに、俺はそう言うしか出来なかった…。
その後、俺はリーシャと魔法の連携について話し合い、ヤニックとアルベールさんが魔物狩りに勤しんでいた。
依頼の魔物も全てヤニックが片付けてしまい、ギルドに帰ってからはヤニックが魔物を狩ってきた事に他の冒険者達が驚いていた。
俺は唯一倒した泥人の報酬金を受け取り、家に帰ろうとすると、
「おいシュウ!飲みに行こうぜ!俺が奢ってやるからよ!」
ヤニックが俺にそう言ってくる。
「誘ってくれてありがとう。でも今日は大人しく帰るよ。今度俺から誘うからさ」
「仕方ねえな!また今度な!行くぞ野郎共!いざ酒場へ!!」
俺がそう言って断ると、ヤニックが周りの冒険者を連れてギルドから出ていった。
俺も後に続き、ギルドから出て行くと、
『転移』
リーシャが魔法を使う。
一瞬で景色が変わり、辺りを見ると木々が生えている。
森のようだが、どこの森なのだろう?
俺がそう思っていると、リーシャが人の姿に戻る。
「リーシャ、ここは?」
俺がそう聞くと、
「ここはヤンクイユの森。サンレアン王国から少し離れた大きい森よ」
リーシャは、俺の左腕に抱き付きながらそう言ってくる。
「この森は、どういう所なの?」
「ここは…新婚夫婦が来ると、永遠に傍を離れないという言い伝えがあるのよ」
俺の質問にそう答えるリーシャ。
今は夕方だが、オレンジ色の光が木々を照らしている姿は、幻想的な美しさだ。
「ごめんね。最近長い時間2人っきりになれなかったからね」
俺がそう言うと、リーシャは首を振るう。
「毎日楽しいわ。だって、私に夫がいて、更に友達もいるなんて考えた事も無かったもの。全部シュウのおかげよ」
俺にそう言ってくるリーシャ。
「それを言うなら今の幸せがあるのは、命を助けてくれたリーシャのおかげだよ」
俺がそう言うと、リーシャが腕に抱き付いてくる力を強める。
「ねえシュウ、魔神を倒したら、シュウはどうするの?」
俺はその問いに、少し考える。
母さんと父さんには、しっかりと挨拶をしたいと思っている。
だが、前の世界に戻ってから、再びこの世界に帰って来れるとは思えない…。
そんなに都合良くは無いはずだ…。
「俺はこっちに残るよ」
俺がそう言うと、
「じゃあ、レイカさん達が戻ってしまったらどうするの?」
リーシャが更に聞いてくる。
「怜華さんや秋沙姉が前の世界が良いというのはわかるんだ。色々と便利だしね。でも、何て言うか…怜華さん達は、俺の判断に任せる様な気がするんだ。俺が残るなら、自分も残る!って…。まだ短い期間だけど、皆と正面から向き合ったら、なんかそんな気がするんだ。俺の妄想なのかもしれないけど」
俺がそう言うと、リーシャは苦笑いをする。
「そ、そうね。皆そんな感じだわ。ごめんなさいシュウ。少し弱気になってたわ」
「ううん。リーシャだって不安になる時があるのを知れて良かった。これからは我慢しないで、話してくれると嬉しいな」
「うん!」
俺とリーシャは少しの間森の中で互いの体をくっ付けていて、夜になりそうになるのと同時にリーシャの魔法で家に帰った。
少し皆に疑われた…、ご休憩してきたのかと…。
「いいかよく聞けリーシャ。このままだったらシュウやレイカ達、他の勇者達は魔神を殺した瞬間、強制的に元の世界に帰っちまう」
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