魔人化
俺が一気に加速して、アルの懐に入ろうとするが、
「甘いぞシュウ!」
アルの腕に行く手を阻まれる。
だが、地面ごと魔素を操り自分の立っている場所を上に動かす。
アルは、突然の立場の変化に驚いた表情をする。
地面を蹴り、アルの懐に入ろうとするが、
「チッ!」
アルは脚で地面を砕き、体勢をワザと崩す。
その所為で俺の攻撃はアルの腕に当たり、防がれてしまう。
俺は一度アルから距離を取る。
「面白い動きするようになったなシュウ」
「頑張ったからね」
アルの言葉にそう返すと、今度はアルの方から仕掛けてくる!
腕を伸ばして一気に攻撃をしてくる!
試しにさっきと同じように地面を動かしてアルの伸びてきた腕の邪魔をする。
だが、流石にただの地面ではアルの動きを止める事が出来ない。
アルの地面の壁の真ん中を突き破り、俺に迫ってくる!
俺は魔素を圧縮して、魔素の分厚い壁を作り出す。
アルの腕は魔素の壁に当たり、勢いを失う。
その間に俺は、
「魔拳」
魔素を圧縮して魔拳を作り、アルの腕を掴み引っ張る。
だが、
「おっと、そう簡単に捕まらねえよ」
アルの腕が一瞬で元の状態に戻ってしまい、俺の掴んでいたアルの腕もすでに元に戻っている。
そして、アルが一瞬で俺の懐に入ってくる!
迎え撃つしかない!
俺はそう思い、魔拳でアルの猛攻を防いでいく。
だが、アルの攻撃は強く速い。
少しずつ攻撃が俺の体に当たっていく。
一旦距離を取らないと、あの技を使う事も出来ない。
俺はそう思い、アルの攻撃の防ぎながらアルの動きを観察する。
そして、一瞬の隙を突いてアルから距離を取る。
「どうしたシュウ?防戦じゃねえか」
アルがそう言ってくる。
だが、今からは…俺の猛攻だ。
俺はそう思いながら、魔素を圧縮して俺自身の体の中に浸透させる。
皮膚に、筋肉に、骨に、内臓に、血管に、全てを魔素で満たしていく。
これが修行の成果である。
「魔人化」
アルの体の魔素の動きと、真海ちゃんが魔族化した時の状態を見て思いついた技だ。
魔素を纏うだけでは、僅かな身体能力しか向上しなかったが、魔人化によって魔素を纏うだけでは得られなかった身体能力と反射神経を得る事が出来た。
だが、まだこの技は未完成だ。
魔素を体に浸透させるのに、意識を集中させなければいけない。
下手に魔素の扱いを間違えると、死ぬ可能性もある。
もっとこの力を洗練させないといけない。
そう思っていると、
「面白いな」
アルがそう言って腕を伸ばしてくる。
だが、先程まではギリギリ視認していた速さであったのだが、魔人化している状態なら普通に見える。
むしろ少しゆっくりとしているとも感じる。
俺はアルの腕を捕まえ、一瞬でアルの懐に入る。
アルは俺の変化に驚いた表情をしている。
俺はアルの腕を掴んでいる方の腕ではない方に、魔素を集中させる。
「鋼魔拳」
今までの魔拳から更に上から魔素を圧縮して作り出したこの魔拳は、強度を増している。
俺はアルの体に向かって、鋼魔拳を一気に突き出す!
流石にアルの体を傷つける訳にはいかないので寸止めにしたが、それでも轟音が響き、草原の地面が抉れて土がむき出しになっている。
アルは放心しているのか、ボーっとしていたが、ハッとして自分の体を触り出す。
「寸止めしたから、傷は無いよ」
俺がアルにそう言うと、アルは安心した様に息を吐く。
「木っ端微塵にされたかと思ったぜ」
アルが苦笑しながら俺にそう言ってくる。
「アルの事を傷つける訳無いよ。大切な人だからね」
俺がアルにそう言うと、アルの顔が少し赤くなる。
「あ、あはは。でも強くなったじゃねえ。俺が反応出来ない速さになっちまうなんてな」
アルが笑いながら、俺の頭に手を置いて撫でてくる。
俺にとってアルは師匠の様な存在だ。
彼女に認めてもらえるのはすごく嬉しい。
「こんなに危ねえと思ったのは、リーシャと殺し合いをした時以来かもな。でもまさか、自分から魔族の一歩手前まで体を変化させるなんてな」
俺の頭を撫でながらそう言ってくる。
「修行している内に、濃い魔素への耐性が俺にある事に気づいたのが大きいかな。それが分からなかったらこんな事思いつかなかったと思うしね」
俺がそう言うと、アルは俺の頭から手を放して、耳元に顔を近づけてくる。
「でも、リーシャの事も考えてやるんだぞ。リーシャ、シュウの右腕になってシュウの傍に居るのが、今のリーシャの幸せなんだからよ」
アルが俺にそう忠告してくる。
「うん。リーシャにもお世話になりっぱなしだったけど、これからはリーシャに頼り切らない様にしていくから」
「そうか。なら、アレを宥められるかな?」
アルの言葉に、俺が疑問に思っていると、
「シュウ~!アルに近づき過ぎよ!」
「柊ちゃん!私もくっ付きたいわ!」
リーシャと怜華さんが、俺とアルを見ながら怒気を纏いながら近づいてくる…。
「無限に続く時間、閉ざされた扉、今求めるのは淫虐」
怜華さんが魔法の詠唱を始めてしまった!
しかも少しヤバそう…。
「淫祀牢」
怜華さんの魔法が発動する!
だが、魔法の現象が完成する前に俺は周りの魔素を霧散させる。
そうした事で、魔法は消える。
すると、
「面白い魔法だな。空間を作り出す魔法で、しかもその空間内では絶対の支配者か。おいリーシャ!もしかしてリーシャも使えるんじゃねえか?」
アルが怜華さんの魔法を分析して、リーシャにそう言う。
すると、リーシャと怜華さんがあと3歩くらいの所で止まる。
そして、何やら2人でコソコソ話し始めてしまった。
「アル、リーシャがもし怜華さんの魔法が使えたら、大変な事になるんじゃないかな?」
俺の隣に立っているアルにそう言うと、
「まぁな。でも被害者は多分シュウだけだと思うぜ」
アルが笑いながらそう答える。
「何でそう思うの?」
俺がアルに更に質問すると、
「だってほれ」
アルが指差す。
俺はアルの指差した方向を見て、背筋がゾクッとする。
リーシャと怜華さんの事をじっと見ている皆の姿が見えた。
「でも、俺には魔素を霧散させれば大丈…」
「涙目で迫れたら断れないだろう?」
アルに笑いながらそう言おうとしたら、アルに言葉を遮られてそう言われてしまった…。
そして、
「淫祀牢!」
リーシャの魔法で、辺り一帯がリーシャの支配領域になってしまった…。
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