競争
修行を開始してから20日が経過した。
俺の能力も最初に比べれば遥かに強くなってきている。
俺はそう思いながら、一度魔素を解除する。
体の疲労感はまだ残るが、最初に比べればそれもマシになったほうだ。
「ふぅ…」
俺が息を吐くと、
「シュウさん」
声を掛けられた…。
声でセエレさんなのは理解するが、相変わらず気配を消しているのか、いつの間にか背後を取られてしまう。
俺は後ろを振り返り、
「どうしたんですかセエレさん?」
そう聞くと、セエレさんはニコッと笑い、
「お迎えが来ましたよ」
俺にそう言ってくる。
つまり、リーシャが来てくれたのか。
俺がそう思っていると、
「嬉しそうですね。目が光っています」
セエレさんがクスクス笑う。
リーシャに会えるのは凄く嬉しいが、そんなに顔に出ていたのか?
少し恥ずかしいな…、そう思っていると、
「さ、行きましょう」
「…わかりました」
セエレさんが歩き出す。
俺も彼女に付いていき、扉を目指す。
「結構遠くまで来てたんですね俺」
「そうですね。歩くのが大変です」
俺がそう言うと、セエレさんが笑いながら答えてくれる。
すると、
「シュウさん、競争しましょうか?」
俺の方を向いてニッコリと笑いながら聞いてくる。
「…いいですよ」
俺もそう答える。
実はセエレさんとは何回かこの修行をしている間に競争をした事がある。
だが、全てセエレさんが圧勝するのだ。
最後に彼女に勝ちたい…。
俺がそう思っていると、
「ではいつも通りに」
セエレさんがそう言って地面に落ちている石を拾う。
スタートの合図は、セエレさんが拾った石を投げて地面に落ちた瞬間だ。
俺とセエレさんは互いに立ち止まる。
そして、
「行きますよ」
「どうぞ」
セエレさんが石を俺に見せてくる。
俺がどうぞとそう言った瞬間、セエレさんが石を空中に投げる。
俺は魔素を足に集中させて纏わせる。
セエレさんはいつもと変わらない様子だ。
そして、石が地面に落ちた!
その瞬間、地面を蹴り一気に駆け出す俺とセエレさん。
ほぼ同時に出た事で俺の隣を走っているセエレさん。
彼女は余裕そうだ。
息を切らせないで、笑顔で走っている…。
セエレさんは未だに謎が多い。
俺がそう思いながら走っていると、
「シュウさん、行きますよ」
隣を走っているセエレさんが、そう声を掛けてくる。
その瞬間、空気が吸えなくなる!
マズイ…。
俺はそう判断して、飛び跳ねて空中を蹴る!
セエレさんの魔法がどういうものかは知らないが、空気が吸えなくなるのはキツイ。
前の競争の時に同じ事をされて、酸欠で倒れたが今は成長してとっさに動く事が出来た。
少し高い位置まで空気を操る事は出来ないらしく、セエレさんは空中を走っている俺の事を見ながら駆けている。
そして、俺もセエレさんが通るであろう位置を確認して、魔素を操る。
地面ごと魔素を動かして、セエレさんの目の前に土の障害物を何個も出す。
だが、セエレさんは硬度が増している土の障害物を避けようとはせずに、前に手を出して土の障害物を破壊していく。
彼女は曲がったり、スピードを落とす事はしない。
常に同じ速さか、更に速くなる。
あっさりと俺の妨害を破壊して、彼女が更に仕掛けてくる!
だがその前に、彼女の周りの魔素を霧散させる。
セエレさんは魔法が使えなくなっていることを察し、即座に加速する!
どうやら魔素がある所に駆け抜けたいんだろう。
俺も彼女に距離を離されない様に、加速する。
そうしている内に、草原に小さくポツンと立っている扉が見えた。
ラストスパートだ…。
俺がそう思った瞬間、今まで真っ直ぐに走っていたセエレさんが一瞬で俺の目の前に来る!
「これが最後の試練ですよ」
俺にそう言ってくるセエレさん。
言葉を発するのと同時に、手を前に出す。
魔視を発動して魔素の反応を見ると、氷魔法を使うようだ。
セエレさんが属性魔法を使うのは初めて見る。
どんな魔法を使うか見てみたいと思ったが、油断は出来ない。
俺はそう思い、魔素の反応を窺う。
今までは魔素を霧散させる事で魔法を使わせないようにしていたが、タイミングを合わせて魔素を濃縮する事で、魔法を暴発させる事が出来る。
そしてセエレさんが魔法を使った瞬間、俺はセエレさんの周りにあった魔素を濃くさせる。
すると、
「なッ!いつの間にこんな事が出来る様に」
セエレさんの腕ごと凍らせる事に成功した。
このまま駆け抜ければ、勝てる!
俺はセエレさんを追い越そうと駆け出す!
「くっ…負けません!」
後ろからセエレさんの声が聞こえる。
あの人の速さなら俺の事を追い越す事が出来る!
脚にだけこの力を使おう…。
俺はそう思い、脚に魔素を使い一気に加速する!
セエレさんも追って来ているようだが、この力の前では俺の方が有利だ。
その後、爆発的な加速をした俺はセエレさんに勝つ事が出来た。
セエレさんは悔しそうにしていたが、安心したような表情をしていた。
そして、扉を開けるとそこには、
「…シュウ~」
俺が入って来た瞬間、俺にべったりとくっ付いてくるリーシャ。
「おぉ~!良い顔つきになったじゃねえか」
俺の事を見て、ガハハと大声で笑うアル。
そして、
「お菓子を…下さいなのじゃ」
何故か半泣きのレクシシュ様…。
その後リーシャが落ち着くまでくっ付いていた。
レクシシュ様はアルと何か勝負をして、お菓子を全てアルに食べられてしまったらしい。
だから半泣きだったらしい。
「気をつけるんじゃぞ」
「お気をつけて」
「お世話になりました」
それからすぐに俺達は帰る事になり、レクシシュ様とセエレさんに見送りをされている。
俺は腰を折って2人にお礼を言う。
「頑張るんじゃぞ若者」
「無理をなさらないで下さいね」
「はい!ありがとうございました」
俺がそう言うと、リーシャとアルが俺に触れる。
「またな2人共!」
「今度はお茶菓子でも持ってくるわ」
アルとリーシャがそう言うと、
「アルは来るなッ!リーシャは来ても良いぞ」
「楽しみにしています」
2人がそう言う。
「転移!」
リーシャが転移魔法を使い、景色が変わる。
シュウ、リーシャ、アルが消えた後、レクシシュは追加のお菓子を出して口に放り込む。
「んぐんぐ…セエレ、どうじゃ?シュウは勝てそうか?」
「勝算は十分あります。頑張って欲しいです」
「シュウが勝てば、セエレの目的も達成じゃな」
レクシシュがそう言うと、セエレは笑顔で、
「そうですね。早く会いたい…何十年も待ったんです」
そう言った。
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