自由
結城さんを拘束すると、彼女は俺の拘束から抜け出そうと動こうとする。
俺の集中力が持つ間は、彼女を押さえてられるが、このままでは意味がない…。
俺がそう思っていると、結城さんの瞳の色が赤くなる。
どうすればいいんだ…。
結城さんを助ける方法がわからない…。
俺は魔視を発動する。
結城さんを見ると、結城さんの体全体に濃い魔素が浸透している…。
単純な濃い魔素を吸収しただけではない。
完全に体に適して、くっついてしまっている…。
これじゃあ、簡単には剥がす事が出来ない…。
1つ方法がある…。
俺の魔力を注いで、彼女をもう一度眠らせる事だ。
だが、それをしても大丈夫なのか…。
俺が不安に思っていると、結城さんの体の様子が変わっていく。
このまま俺がうだうだしている内に、結城さんが戻れなくなってしまう!
俺はそう思い、彼女拘束を少し緩める。
拘束が緩んだ事がわかったのか、結城さんが暴れようとしてくる!
俺は慌てないで、ゆっくり彼女に近づく。
そして、彼女の腕に触れた瞬間、俺の魔力を結城さんに注ぎ込んだ!
だが、何故か引っ張られるような感覚がして、俺は目の前が真っ暗になった…。
そして、俺は目を覚ます!
いつの間に寝ていたんだ?
結城さんに魔力を送る時に、自分の意識を保ってられるくらいには魔力を残しておいたのに。
俺はそう思いつつ立ち上がると、ここがさっきまでいた部屋とは違う事に気がつく。
辺りを見回すと、元の世界と今の世界がグチャグチャに混ざってしまっている…。
例えば、今目の前にはサンレアン王国の城の一室の光景が見えるが、その中にテレビ、マンガ本が置かれている。
後ろを向くと、おそらく結城さんの部屋なのだろう一室には回復薬や剣が置かれている。
「…頑張らないと」
微かに結城さんの声が聞こえた。
俺は辺りをキョロキョロと見渡すが、結城さんの姿が見えない…。
「私が頑張って、皆の均衡を保たないと」
更にそう聞こえてくる。
結城さんの言葉に、周りの景色が変わる。
怜華さん達勇者とサンレアン王国のティアやコレットさん達が景色に現れる。
だが、触れようと思って近づいてみると、距離が縮まない…。
「先輩を助けないと、皆が壊れちゃう」
背景に、俺の姿も現れる。
「結城さん!どこにいるの!?」
俺は大声で結城さんの事を呼ぶ!
だが、声はただ辺りに響き渡るだけ…。
声はするのに、姿が見えない…。
どうすれば良いんだ?
早くしないと、完全に魔族になってしまう…。
俺がそう思った瞬間、
「真海、お前は病院を受け継ぐ為に、しっかりと勉学に励みなさい」
渋い男性の声が聞こえてそちらを向くと、背景の一部に結城さんと渋い男性が向かい合っている姿が見える。
「わかりました。お父様」
結城さんが男性に頭を下げる。
どうやら、親子の会話のようだ…。
結城さんの家が、病院だというのは春乃が少し言っていたので知っている。
「…頑張らないと。全部、皆、頑張らないと」
何かを我慢している様な結城さんの声がする。
そうしていると足音が聞こえてくる。
音がする方向へ振り返ると、俯きながら結城さんが歩いてくる…。
いつもの結城さんではなく、夢の中で支配権がある魔族の様な姿をした結城さんが、ゆっくり歩を進めて歩いてくる。
「ここは、私の夢の中。先輩は、帰って下さい」
俺にそう言ってくる結城さん。
「結城さん!そんな奴と手を組んじゃダメだ!」
俺がそう言うと、結城さんが止まる。
「わかってますよ。そんな事は…。でも、自由になれるんですよ」
俺にそう言ってくる結城さん。
「自由…」
「そうです。誰にも気を遣わず、誰の目も気にしないで、好き勝手に出来るんですよ。親の言いなりで、将来を決めなくても良い。私が心の底から欲しかったものです」
俺の呟きに、そう返してくる結城さん。
「辛かったですよ。皆の期待に応えようと努力して、期待に応えて見せると、出来て当たり前の様な扱いをされて更に期待が高くなる。それでも努力して、努力して努力して努力して!頑張ったんです。でも、もう疲れました…。もう、どうでもいい。私は自由になりたいんです」
そう言って頭を上げる結城さん。
その表情は、晴れやかであり、どこか辛そうだった…。
「今まで、無理をしてでも頑張りましたよ。皆に心配させない様に、笑顔で、元気に振る舞ってました。でも、それが凄く疲れるんです」
そう言ってくる結城さんは、剣を取り出す。
毒々しい色をした剣を…。
「私が回復魔法を使えるのは、病院での事が関係していると思いました。こんな魔法欲しくなかった…。異世界に来てまで家の事を思い出したくなかった!」
そう言って、剣を構える結城さん。
「…先輩、剣を出して下さい。先輩は私の自由の邪魔になるんです。もしくは、ここから出て行ってください」
「俺はここから出て行かないよ。結城さんの自由の邪魔をする」
俺がそう言うと、一気に間合いを詰めてくる!
俺は魔素を操り、体の防御に専念する。
「先輩の所為で、私は春乃達のお世話が大変だったんです!皆先輩を助けようと周りに目も暮れず、周りの人が迷惑そうにしているのを仲裁してたんです!」
俺はそう言われて、彼女に迷惑を掛けた事に申し訳ない気持ちになる…。
俺は体に纏わせていた魔素を霧散させる。
瞬間、俺の腹に貫通する結城さんの剣。
「いい気味です」
結城さんは俺にそう言って、剣を腹から抜き取る。
あぁ、彼女の怒りを受け止めたいと思ったのに、スキルの所為でほとんど痛みが無い…。
少しムズムズするくらいだ…。
「帰って下さい」
俺にそう言ってくる結城さん。
だが、俺は彼女には悪いが、春乃の友達でいてもらいたいと思っている。
完全に俺の我儘なのは理解している。
結城さんの事を考えるなら、彼女の自由を応援するべきなんだろう。
「結城さん、俺には君の気持ちがわからない」
俺がそう言うと、結城さんは顔を険しくして、
「当り前じゃないですか!先輩が私の事なんてわかる訳無いです!」
そう叫んでくる。
俺には彼女の気持ちも、苦労もわからない…。
何故なら、俺は期待されていると思ってなかったから…。
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