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初代勇者を腕に  作者: 雪羅
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風邪

怜華と同じように、秋沙も夢を見ている。


私は目をゆっくりと開ける。

目の前には何もなく、ただ真っ暗な空間がどこまでも続いている様。

だが、この空間は嫌いじゃない。

私はゆっくりと立ち上がる。


「…修行って言ってたけど、誰もいない」


私はそう言いながら、少し歩き始める。

少し歩いても、周りの真っ暗は変わらず、どうすればいいのかわからない…。

一度立ち止まる。

すると、目の前に柊が現れる。


「…柊、ここはどこ?」


私が柊に声を掛けると、


「姉さん、姉さんは何でここにいるの?」


柊がそう聞いてくる。


「何でって…修行をするために」


私がそう言うと、柊が私に近づいてくる。


「姉さんは、何で俺の事が好きなの?」


柊の言葉に私は顔が熱くなる。

柊がそう言ってくるとは思わなかった。


「…私が柊の事を好きになったのは…」


私はそう言いながら、昔の事を思いだす。

父さんが再婚すると言って、紹介された人の後ろに柊はいた。

私は再婚に対して特に何とも思わなかった。

私は昔から、感情表現が苦手だった。

周りからは、暗い子とか冷たい子とか思われていただろう。

だから、初対面の柊にも、


「…よろしく」


そう言って私は口を閉じた。

こう思うと、本当に可愛げの無い子供だった。

すると柊は、


「よ、よろしくお願い…します」


私にそう挨拶してきた。

春乃は最初はキョトンとしていたが、話がわかってきたようで、とても喜んでいたのを覚えている。

それからはトントン拍子に話が進み、私の家に母と弟が来た。

最初は環境に慣れず大変だったが、少し日数が経過すると違和感もなく過ごす事が出来た。

だが、弟の柊との会話は相変わらず少なく、柊も少し私に対して気まずそうにしていた。

それから更に少しして、私達の関係は変わる事になる。

その時、私は風邪を引いてしまった。

咳が出て、熱が出て、食欲も無く、寝ても咳で起きてしまい、寝不足になっていて、子供ながら苦しかった記憶がある。

父さんと母さんは仕事があったが、母さんは仕事を休むと言っていた。

だが私は、迷惑になりたくなく、


「…大丈夫。仕事に行って」


母さんにそう言った。

母さんも仕事が大事な時期だったのは知っていたから、気を遣ってそう言ったのだ。

何度も母さんに大丈夫なのか?と聞かれても私は大丈夫、仕事に行ってとしか返さなかった。

やがて、母さんの方が折れて、色々と私の準備をして家を出た。

父さんも会社に行ったし、柊や春乃も学園に行っているので、今家にいるのは私1人だ。

少し静かな家の中に私1人。

少し寂しいと思うと同時に、どこか落ち着いている自分がいた。

それから少しの間、私は起きていたが、布団の中にいる内に眠くなってきて、私はそのまま寝てしまった。

どれくらい眠ったのだろうか…少し体が怠い…。

そう思っていると、私の部屋の扉が開く音がした。

どんなに寝ても、今の時間はお昼頃だろう。

そんな時間に帰って来る人なんていない…。

私は風邪の所為で、心が弱くなっていた。

泥棒や強盗の類が、家に侵入してきたんじゃないかと思い、泣きそうになる。

足音がして、私の側で止まる。

私は必死に寝たふりをしていると、額に乗せてあったタオルが取られる…。

そして、新しい冷たいタオルが額に乗せられた。

私は目を瞑りながら、戸惑う。

だが、意を決して目を開くと、


「あっ…ごめんなさいお姉ちゃん。起こしちゃった?」


柊が私の顔を覗いていた。

だが、柊は学園で授業のはずだ…、まだ帰って来る時間ではない。


「どうして…柊がいるの?」


私がそう質問すると、柊は苦笑いをして、


「早退してきちゃった」


そう言った。


「早退って…何で?」


私が更に質問すると、


「お姉ちゃんが心配で居ても立っても居られなくて…。体調どう?」


柊がそう言いながら、私のベッドの側に座る。


「少し…怠い。あと…」


私が続きを言おうとすると、


ぐぅ


私のお腹から音が鳴る…。

私は恥ずかしくなり、布団を頭まで被ってしまう。


「少し待っててね」


柊はそう言って、部屋から出て行った。

少しして、また階段を上がる足音がして、部屋の扉が開かれる。

柊の手にはお盆があり、その上には土鍋が置かれていた。


「…柊、どうしたのそれ」


私がそう聞くと、柊は、


「お母さんが作っておいてくれたみたいだよ。少しだけ温め直したからすぐに食べられると思うよ」


そう言いながら土鍋を開けて、木製のスプーンで中を掬う。


「はいお姉ちゃん。あ~ん」


スプーンを私の口元に出しながら、そう言ってくる柊。


「…え?」

「僕も昔、お母さんにこうしてもらったんだ。だからお姉ちゃんにも」


柊はそう言って更に近づけてくる。

私はおそるおそる口を開くと、柊がそっと口にお粥を入れてくれる。

温かさは熱くも無く、冷た過ぎないくらいでちょうどいい。

それから柊にお粥を食べさせてもらっていくうちに、少し悪戯心が出てしまった。


「…柊、ふ~ってしてから食べさせて」


私は柊にそう言った。

柊はキョトンとしながら、


「もしかして熱かった??」


私にそう聞いてくるが、私は首を振るう。


「ただ、そうして欲しいなって思って」


私がそう言うと、柊はすでに冷めているお粥に息を吹く。


「ふ~…はい、お姉ちゃん」


私は柊にそうして食べさせてもらい、お粥を完食する事が出来た。

それから私は、満腹感と柊のおかげで睡魔が襲ってきて、眠りに着いた。

次に目を覚ました時は、体の回復しており少し横になり過ぎていた所為で鈍ってしまっていた。

すでに夜で、皆も帰ってきている時間帯だったから、私は階段を下りてリビングに行こうとすると、


「柊、どうして学校を早退したの?嘘まで吐いて」


母さんの声が聞こえた。


「…お姉ちゃんが心配で…」

「ありがとう柊、でもこれからは学校に嘘を吐いちゃダメだぞ」


柊の声が聞こえて、柊に優しく話しかける父さんの声を聞こえた。

柊が、嘘を吐いてまで帰って来るまで私が心配だったのかと思うと、


「…ふふ…」


自然と嬉しくなり、心が温かくなる。

それから私は、柊の事を大事にしてきた。

実の弟の様に…。

でも親友の怜華と仲良くしている所を見て、胸が痛くなった。

そして本当の気持ちに気づいた。

私は柊の事を弟ではなく、異性として柊の事が好きなんだと。


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