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初代勇者を腕に  作者: 雪羅
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拘束の高み

私は自分の事を見てくる偽者の私を見る。

だが、目を凝らせば、少しだけいつもの私とは違う外見をしている。

髪の間から僅かにしか見えないが、あれは角だろう。


「どうしたの?そんなに驚いて」

「貴女はいったい何者?何故私の姿をしているの?」


偽者の私が笑いながら聞いてくる。

私がそう問うと、偽者は笑いながら、


「今あなたが見ている私は、これからなるであろう自分。私と手を組んで強くなりましょう」


そう言って手を伸ばしてくる偽者の私。

強くなれるなら、私は何でもするつもりだ。

だが、目の前に立っている偽者の私は信用できない。

私の事を馬鹿にしている様な、そんな顔をしている。


「残念だけれど、今の貴女は信用できないわ」


私がそう言うと、偽者の私は手を引っ込める。


「じゃあ、どうすれば信用してくれるの?」

「…貴女は何故、強くなりたいの?」


私に質問してくる偽者に、私は質問返しをする。


「…私は強くなって、柊ちゃんの隣にいるあの女を倒すの。そして、私が柊ちゃんの隣に寄り添うの」


私の質問にそう答える偽者。


「…そう、なら、やはり貴女と手を組むことはできないわ」


私は偽者にそう言う。


「ッ!?何故!」


私の返事に驚き、大きな声を出す偽者。

何故と言われたが、簡単な事。


「私は柊ちゃんを幸せにしたいと思っているわ。でも、少ししか見てないけどわかったの。柊ちゃんがリリアーナさんの事を大事にしているのを。本当に好きで、愛しているのを。だから、今の答えに私は貴女を信用できない。私は柊ちゃんの幸せを壊したくないわ、それが例え、私が柊ちゃんの隣にいられなくても」


私がそう言うと、偽者は驚愕の表情で、


「ありえない!私がそんな事考えるなんてありえない!」


そう叫んでくる。

確かに、そうね。

本当は柊ちゃんの隣にずっといたいわ。

でも、それで柊ちゃんが悲しむ事になったら、私は自分で自分を許せない。

たまに暴走してしまう事もあるけど、私は柊ちゃんに幸せになって欲しいと思っているわ。


「私は柊ちゃんの幸せの護るために強くなりたいの。私の全てを捧げてね」


私がそう言うと、偽者は動きを止める。

そして、


「あは…じゃあもう、力尽くでやるしか無い様ね」


不気味に笑いながら、剣を出してくる偽者。


「抗って見せるわ。柊ちゃんの為にも」


私も偽者と同じように剣を取り出す。

臨戦態勢で見つめ合う私と偽者。

出来れば先制攻撃を仕掛けたいが、向こうがどんな攻撃をしてくるかわからない以上、迂闊に近づくのは得策ではない。

すると、


「拘束せよ!」


偽者が拘束魔法を使い、鎖を私の方へ伸ばしてくる!


「拘束!!」


私も拘束魔法で鎖を呼び出し、偽者に向かって伸ばす!


金属の衝突音がし、擦れる音が響き渡る。


「命の源、我が手に集まれ!集水しゅうすい!!」


私はその間に、あまり練習しなかった水魔法を使う。

剣から水を発生させて、偽者に飛ばす!

だが、


「そんなモノ効かないわ!」


偽者はそう言って、鎖で壁を作り防御する。

やはり、偽者は私よりも鎖の扱いも同じくらいかそれ以上…。

私がそう思っていると、


「これを見ても、そんな事が言えるの?」


そう言って剣を振るう。

すると、周りの景色が変わる!

そこには柊ちゃんとリリアーナさんが仲良く寄り添っている。

瞬間、頭の中が暗く沈む。

あそこは私の居場所なのに…。

奪われた…。

殺したい…。

柊ちゃんを…捕まえて縛りたい…。


「その気持ちに素直になりなさい。そうすれば、確実に貴女の隣には柊ちゃんがいるわ」


私にそう言ってくる偽者。

駄目、偽者の言葉に惑わされてはいけない。

そう思うが、感情を制御する事が出来ない…。

そして、


「貴女は一生、この光景を見る事が耐えられるの?」


偽者がそう言った瞬間、私の中で何かが弾けた。


「…いやよ」


私は呟く。

今なお2人で寄り添っている姿を見て、私は思う。

柊ちゃんの隣にいたい。

リリアーナさんを倒したい。

でも、柊ちゃんを、柊ちゃんが大切にしている全てを、私は護りたい…。


「捕まえちゃえばいいのよ!柊ちゃんを!この女を殺して!」


そう言ってくる偽者に私は笑う。

違う。

柊ちゃんを捕まえるだけじゃ、リリアーナさんが取り戻しに来る。

拘束なんかしても意味は無い…。


「…監禁しないと」


そう言った瞬間、見えていた光景がユラユラと揺らいでいく。


「な、何?」


拘束なんかしても、逃げられちゃう…。

助けにきたリリアーナさんすら捕まえる力…。

それは…、


「無限に続く時間、閉ざされた扉、行きつく先は生か死か」

「な、何よその魔法!拘束魔法にそんな詠唱は無いわ!」

無限監娯苦むげんかんごく


全てを捕まえ、逃がさない力。

外からの攻撃を跳ね除け、内を護る。

それは、檻。

私が魔法を使うと、今まで見えていた光景が全て黒に塗りつぶされる。


「何の魔法だったのかしら?私はそんな魔法は使えなかったはずよ」


偽者がそう言ってくる。

そして、


「でも、そんな事関係ない!ここでは私の方が有利なんだから!拘束!」


そう言って魔法を使うが、鎖は出てこない。

その様子に偽者は、


「どうなってるのよ!」


そう言って魔法を使うが、鎖は一切出てこない。

なぜなら、


「ここは檻の中。そして、檻の持ち主であり、貴女を捕まえたのは私。勝手に動ける訳無いでしょ?」


ここは、私の魔法が作った空間。

支配権は、私にある。


「そんな事ありえない!ここは夢の中!私の領域なん…!?」


偽者の口を閉じる。

ここでの支配者は、私なのだから、勝手に話す事すら許さない。


「残念だけれど、もう貴女と話している暇はないわ。この魔法で柊ちゃん監禁するんだから」


私がそう言うと、斬りかかろうとしてくる偽者。

だが、


「貴女は…死よ」


私がそう言った瞬間、偽者が倒れる。

それに近づいて見ると、安らかな顔をしている自分の死に顔が見えた。


「変な気分ね。自分そっくりの死に顔なんて…」


そう思っていると、何故だか急に眠くなってくる…。

これで良かったのかはわからない。

でもこれでもう1歩、前に進めそうな気がする。

私は最愛の柊ちゃんと打倒リリアーナさんの顔を思い出しながら、意識を手放した。


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