過去
意識を失った怜華は、夢を見ていた。
私は目を覚ます。
ここは…、そうだ、アルネウスさんに触れられて、体に何かを注がれたら、体が苦しくなって…。
そう思いながら立ち上がる。
真っ暗な空間に私だけがポツンと立っている。
少し歩いてみるが、周りの景色は変わらず真っ暗で、私は途方に暮れる。
「どうすれば良いのかしら?」
私がそう呟いた瞬間、真っ暗だった景色が変わり今いる世界ではない、前の世界の風景になる。
ここは小さい頃に遊んでいた公園。
「どうしたの秋沙?」
そう声が聞こえて後ろを振り返ると、ベンチに座っている小さい頃の自分とこれまた小さい頃の秋沙が座っている。
「…新しいお母さんと住むことになったの」
「再婚したんだもん。何か問題があるの?」
「…弟が出来たの」
小さい頃の秋沙はそう言って、何とも言えない顔をする。
「そうなの…いくつ?流石に再婚したばかりだから赤ちゃんではないのよね?」
「…そう。1つ年下」
「…気まずい?」
「…正直、環境が変わると大変。お母さんは優しいし普通なんだけど、弟ってどう接すればいいのかわからない。春乃とは全然違う」
そう話す2人を見ながら、私は思い出す。
秋沙は柊ちゃんとどう接すればいいのかわからなくて、悩んでいた。
そして、私はこう言うんだ。
「その子に会ってみたい」
この一言が原因で、私は色々な面で変わってしまう。
そう思っていると、周りの風景が変わる。
見ると、ここは秋沙達の家の前。
あぁ…、懐かしい。
「…柊君、私の親友の怜華。挨拶して」
「…こ、こんにちは。柊と言います」
少しビクビクしている柊ちゃん…じゅるり…。
ハッ!いけない…。
「こんにちは。東桜寺怜華って言います。よろしくね」
そう言って小さい柊ちゃんに挨拶する小さい私。
この時はまだ、親友の弟としか見ていなかった。
けど、それはある出来事で変わる。
私がそう思うと、またも周りの景色が変わる。
それはまだ東桜寺学園初等部の時、登校した時の事だ。
「怜華様。おはようございます」
「おはよう」
学園の皆が、東桜寺学園の創設者の直系である私に敬語で話してくる。
年上だろうが年下だろうが、生徒だろうが先生だろうが…。
唯一、秋沙だけが私に普通に話しかけてくれた。
そして、
「あっ!怜華お姉ちゃんおはよう!!」
まだこの学園に溶け込んでいない柊ちゃんが小さい私に挨拶する。
「え?あ…お、おはよう」
この時、とても驚いた。
本当に自分に挨拶してきたのかと思った。
敬語で話しかけられるのが普通だった私に、お姉ちゃんと親しみを込めた呼び方をしてくれた。
この時、確かこう思ったのだ。
この子だけが私を特別扱いしないで、普通に接してくれるのではないのかと。
秋沙は元々あんな感じだから、どんな人にもクールな話し方をするから特にそう思わなかった。
それから少しずつ柊ちゃんに会うたびに話すようになっていった。
いつしか、柊ちゃんの事を親友の弟以上に見ていた。
他の人から見たら単純な理由に聞こえるかもしれないが、私にとっては大きな事だ。
自分の事を東桜寺家の私ではなく、姉の友達の怜華と見てくれる方が、私は嬉しい。
それからも、怜華お姉ちゃんと親しみを込めて呼んでくれている柊ちゃんに私は恋心を抱いていた。
だが、それと同時に親友である秋沙にも変化があった。
それは私と秋沙が中等部1年、柊ちゃんが初等部の6年生の時に起こった。
私が当時の事を思いだすと、周りの風景が変わる。
久しぶりに行った公園。
「…怜華は柊の事をどう思っている?」
少し大人びてきた秋沙が成長している私に問う。
「…好き。異性として柊ちゃんの事が好き」
私は顔を赤くしながら秋沙に言う。
秋沙はそれを聞いて、苦笑いをする。
「…実は私もそうなんだ」
秋沙がそう言う。
だが、別に驚いたりしない。
どうしてだか、やっぱり…と思っていた。
「でも…」
秋沙が続ける。
「…柊は私の事を異性として見てくれていない」
辛そうな、悔しそうな表情でそう言う秋沙。
親友の辛そうな顔を見たくない。
当時の私がそう思った瞬間、ある考えが浮かんだ。
私が柊ちゃんと結婚して、秋沙と一緒に暮らせばいいんではないか?
「秋沙、私が柊ちゃんと結婚する。そうしたら一緒に暮らそう」
今思えば、凄い事を言っているわ。
その光景を見ながら、苦笑いする私。
そして、2人である約束をした。
「どちらかでも良い。柊ちゃんと結婚する事が出来たら、皆で暮らして生きていこう」
そう約束してから少し後に、春乃ちゃんも加わった。
2人は少し暴走してしまい、柊ちゃんと距離を置くようになってしまったが、私は昔と変わらず柊ちゃんに話しかける。
変わったと言えば、柊ちゃんが少し距離を取ろうとする事だ。
だが、そう簡単に逃がさない。
1歩距離を置かれたら2歩縮める。
そうやってここまで来たのに…。
景色が変わり、異世界での景色になる。
ここはサンレアン王国の城、大広間だ。
異世界に飛ばされて、勇者に持ち上げられて…。
そして…、あの日。
柊ちゃんが私の前からいなくなってしまった。
もしかしたら…もう一生会えないのかもしれない…。
そう考えると何もする気が起きなかった。
だが、生徒会の書記である結城さんが、まだ可能性があるかもしれないと言った時、私は決めた。
柊ちゃんが生きていれば、もう二度と一生離さない。
でも最悪の時は、私も死のうと…。
それからずっと訓練し励み、私はどんどん強くなってきた。
その後、柊ちゃんは生きて私の前に現れてくれた。
ただ…。
あの女…、リリアーナさんと結婚していた。
柊ちゃんの隣に寄り添う姿に嫉妬する。
そこは私の場所なのに!
そう思って暴走してしまって柊ちゃんに迷惑もかけてしまった。
リリアーナさんと柊ちゃんを賭けて勝負をしたけど、全く勝てなかった。
私はもっと強くなりたい。
そう思った瞬間、
「じゃあ、もっと強くなれる方法を教えてあげるわ」
後ろから自分の声が聞こえる。
私は声がした方向に慌てて振り向くと、そこには私に微笑んでいる私がいた。
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