リリアーナ・シャル・ティオレット
寒い。
そう思って目が覚めた。
俺は何してたっけ?
そうだ、春乃を助けてダンジョンのそこまで落ちたんだ。
それから女の子に助けられて…彼女は!?
俺は水から出るとある事に気づく、傷が治っている。
切り傷なんかは後も残っていないが、唯一治っていないところがある。
魔王のドラゴンの口に噛み千切られた右腕だ、肘から先がない。
仕方ない。俺の右手で春乃の命が救えたんだから。
暗闇に目が慣れ始め辺りを見まわすと壁に扉が付いているのが見えた。
そこに歩いていき、俺は扉の前に立ち呼びかけてみる。
「すみませ~ん」
……返事がない。
留守なのか?でもこんな所に住んでいるのだろうか。
ここはダンジョンの多分最下層だろう。
つまり、この付近に出てくる魔物はほとんどが強い。
だが、よくよく考えてみるとレデリックさんでも苦戦した魔王を片手で倒していた。
そうなると、俺を助けてくれた彼女は相当な実力者だろう。
死ぬ気だったんだ。早いか遅いかだ!
俺は意を決して扉を開ける、右手が無くなっているから左手を使うが少しぎこちない。
「し、失礼しま~す」
扉を開けて中に入りながら挨拶をする。
中を見ると完全に部屋になっている。
机と椅子にベッドがあり本棚もある。
だが、気になる点が1つある。
それは、机に広がっている様々な木の実だ。
見た目が鮮やかな色をしていたり、逆に地味なのと色々だ。
1つ手に取ってみる。匂いはフルーティーな良い香りがする。
「ふぁ~…よく寝た…」
突然の声に驚き木の実を落としそうになる。
どこから声が?と思っているとベッドに助けてくれた女の子が上半身を起こし体を伸ばしていた。
さっき見た時はベッドに人なんかいなかったのに何で?と思っていると、彼女はベッドから立ち上がる。
「ん?」
彼女は俺に気がつく。
「あ、あの勝手に入ってすみません!」
「ふぁ~、良いわよ。あなた、泉に浸かってた人でしょ?傷の具合はどうなの?」
「だ、大丈夫です。腕は治らなかったですけど…」
「あの泉の水はどんな傷でも治せるから、千切れた方の腕があればくっついていたわよ」
「腕、喰われました…」
「なら無理ね。あの水は治すことはできても、再生することはできないから」
女の子はそう言うと椅子に座る。
「それで、どんな目的があってこんな所に来たの?」
「その、ダンジョンを攻略するのに進んでいたら、君が倒した奴に遭遇して襲われて…仲間を助けるためにダンジョンの道を崩して一緒に落ちたという感じで目的とかは特に…」
「そういうことだったのね、だからあんなに弱いのにここまで来れたのね」
彼女は納得したように何度も頷く。
「弱いって、あいつ自称だったけど魔王名乗ってたんですけど…」
「えぇ、あの男は正真正銘の魔王だったわ。確認したしね」
「どうやって?」
「私のスキルの力よ」
なるほど、そんなスキルがあるのか。
「あなたもよく生きていたわね。平民が魔王と戦うなんて聞いたことないわ」
「無我夢中だったからそこまで考えてなかったんですけど」
…ん?何で俺が平民だって知ってるんだ?
「何で?って顔してるけど今私がスキルを使ってあなたのステータスを見たからよ。シュウ・ハヤマ君」
「名前もわかるんですか?」
「名前どころかあなたのスキルもわかるわよ」
「凄いですね」
「勝手に見てごめんなさい。私も名乗るわ」
彼女は立ち上がると俺に手を出す。
「リリアーナ・シャル・ティオレットよ」
「シュウ・ハヤマです」
握手をする。
「よろしくね」
「よろしく」
「それでシュウ。これからどうするの?」
「戻りたいって言いたいんですけど、結局戻ったところで俺なんか役に立たないしなぁ」
「役?誰の役に立ちたいの?」
「勇者の」
「私?なら手伝って欲しい事とか頼もうかしら」
「いや、リリアーナさんじゃなくて勇者ですよ」
「だから私でしょ」
「え??」
勇者って先輩達だよね。
この世界に勇者が現れないから先輩達がこの世界に呼ばれたんだよね?
「リリアーナさんが勇者?」
「そうよ。正確には元勇者だけど」
元??どういうことだ?
「あ、あの…リリアーナさんって何代目の勇者なんですか?」
俺はおそるおそる聞いてみる。
「初めての勇者よ」
初めてって事はつまり…
ティアと語り合ったあの…
「初代勇者ぁぁ!!!」
「そうよ」
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