修行
翌日、俺とリーシャはルリィに起こされて、準備を始める。
今日から忙しくなりそうだ。
そう思いながら、防具を着けてリーシャ達が準備が終わるのを待つ。
その後、リーシャとルリィの支度も終わり、俺達は部屋を出る。
ちなみにリーシャは、今は人の姿で歩いている。
城の皆は、特にリーシャを気にする事なく、俺達に挨拶してくる。
何だか、自分が偉くなったような気分になり、落ち着かない。
城を歩いて行き、食堂に行くとアルが豪快にパンを齧っている姿が見えた。
俺はアルのいる場所に歩いて行く。
すると、アルが俺達に気が付き、
「お~!おはよう3人共!」
アルがそう言ってくる。
「おはようアル」
俺がそう言うと、リーシャとルリィもアルに挨拶する。
それから一旦朝食を取りに行き、またアルの所に帰る。
「今日から大変だから、たくさん食っとけよ」
アルがそう言うと、ルリィが頑張って食べ進める。
その光景を見て、俺とリーシャが笑っていると、
「おはよう柊ちゃん」
先輩がパンを持って俺の所にやって来る。
「おはようございます先輩」
俺がそう返すと、先輩が不服そうにしている。
「どうしたんですか?」
「柊ちゃんは皆の事を名前で呼んでいるのに、私は何で先輩なの?」
先輩はそう言って、俺の肩を突いてくる。
「先輩って呼び方に慣れちゃったんですよね」
俺が苦笑いをしながらそう答えると、
「これからは名前を呼んで欲しいわ」
そう言ってくる。
「な、名前ですか…」
「そうよ。怜華って呼んで」
「…れ、怜華…さん」
俺が先輩の名前を言うと、先輩は目をトロンとさせて、俺の手を掴み、
「部屋に行きましょう」
そう言ってきた。
「させないわよ」
リーシャがそう言って、俺に抱き付く。
背中に当たる柔らかい感触にドキッとすると、
「朝から騒がしいですよ」
声を掛けられる。
声の方向に視線を送ると、そこにはエルミールさんが立っていた。
冷たい眼差しで俺を見ている…。
「エルミールさん、おはようございます」
俺は前から先輩に、後ろからリーシャに引っ張られながら、エルミールさんに挨拶する。
「シュウさん、随分と…楽しそうですね」
エルミールさんが先輩、リーシャ、俺と視線を移してそう言ってくる。
「楽しい訳じゃないんですが…」
俺がそう言うと、
「ふぁ~おはよう」
春乃が目を擦りながら俺達の所に来た。
「おはよう春乃」
俺が春乃にそう言うと、
「リリアーナさん、何してるんですか?」
俺の背中にピッタリと張り付いているリーシャにそう聞く。
「気にしないで欲しいわ」
春乃の質問にリーシャがそう答えると、春乃の目から光が無くなる…。
嫌な予感が…。
「そうですか~。私も朝ご飯取ってこよっと」
春乃がそう言って朝食を取りに行く。
春乃のあの様子は気になるが、ここで騒がないで良かった…。
「…柊、おはよう…」
「おはよう姉さん。どうしたの?寝不足?」
俺が春乃の様子を気にしていると、姉さんが目を擦りながら俺達の所に来た。
手には、スープの入ったお椀。
「しっかり眠れなかったの?」
「色々準備する事があったから」
準備って今日から始まる修行の事かな?
俺がそう思っていると、姉さんが俺の食べている物を見て、
「…柊、それじゃあ足りないでしょ?これも食べて」
姉さんが食べていたスープを俺に差し出してくる。
「…ほら、あーん」
「ね、姉さん?」
「口開けて」
俺の口にスプーンを当ててくる姉さん。
仕方なく、俺は口を開けると姉さんがスプーンを口の中に入れてくる。
「我慢よ…我慢するのよ」
リーシャの声が聞こえてくる。
俺は心の中でリーシャに謝りながら、スープを飲む。
何だろう…少し苦い気がする…。
「ンッ!!」
か、体が痺れる!!
俺が体を感知した瞬間、
「お姉ちゃんナイス!今のうちに!」
春乃の声が聞こえる。
が、
「天聖治癒!」
俺の後ろにくっ付いているリーシャが回復魔法を使ってくれて、俺の体の異常は無くなった。
慌てて、体を動かすがどこも問題はないようだ。
「…失敗」
俺の様子を見て、姉さんがそう呟く。
「姉さん?」
「…何?」
俺が姉さんに声を掛けると、俺から目を逸らしながら返事をする姉さん。
「今度は何混ぜたの?」
「…黙秘」
姉さんはそう言って黙る。
その後、どんなに姉さんに問いただしても白状する事は無く、朝食は終わり、皆で城の訓練場に来た。
アルがエルミールさんに頼んで、今日は貸切になっている。
いつもは訓練をしている騎士の人達で騒がしいが、今日は静かだ。
「よし!じゃあ始めるぞ!ま、修行って言っても、別にそこまでキツイわけじゃねえしな」
アルがそう言うが、俺は心の中でそんな事は無い!とツッコミを入れてしまう。
意外に最初の方は厳しかったぞ。
「アルネウスさん、どのような事をすれば良いんですか?」
せんぱ…怜華さんがアルに質問する。
「簡単だ。シュウと同じ事をしてもらう」
怜華さんの質問にそう返すアル。
その言葉を聞いた瞬間、俺は大変な事になりそうだ…。
そう思ってしまう。
つまり、あの魔力を注ぎ込むのもやられるのか…。
俺は過去の自分の苦しみを思い出して、怜華さん達もあれを味わうのか…と心配すると、
「だが、勇者達は既にMPの量は大丈夫だろ。だから、すぐに始めるぞ」
そう言って、アルは怜華さんの体に触れる。
なるほど…、前の俺は弱すぎてMPが足りなかったのね…。
少しショックを受けていると、怜華さんが倒れかける!
俺は慌てて怜華さんの傍に駆け、怜華さんが倒れきる前に支える。
「アル…、もしかしてこれって夢の中で戦うアレ?」
俺が怜華さんの様子を見て、アルにそう聞く。
すると、
「あぁ、負けたら魔族になる。だが、すでにそれは説明してある。皆やる気だ」
そう言った。
見ると、姉さんも春乃も結城さんも真剣な表情で俺に支えられている怜華さんを見ている。
その後、他の3人もアルに触れられて、意識を失った。
俺は4人を横にして、見守る。
今の俺には、これしか出来ない…。
自分の役立たなさに、少し落ち込んでいると、
「シュウ、お前は4人が起きたら頭と体温を確認しろ。角が生えて無かったら大丈夫だ」
アルが俺の隣に来てそう言ってくる。
「俺はこの修行をしたけど、次はどんな事をするの?」
アルにそう聞くと、
「内緒だ。この4人が起きたら、お前もすぐに修行してもらう」
「…わかった」
俺はアルの言葉にそう返して、怜華さん達の様子を見る。
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