捕食者
姉さんの言葉にその場にいたほぼ全員が固まる。
「でもぉ~、秋沙ちゅわんぅ~。私が捕まえた男の子達は皆死んじゃうか、逃げちゃうのよんぅ~?」
「…大丈夫。そう簡単に死なない位頑丈だし、拘束したまま引き渡すから一生逃げられない」
俺達が固まっている間も、姉さんとエロイーズさんの話は進む。
「んじゅわぁ、少し見せてねんぇ~?」
エロイーズさんが先輩に捕まっている獅子原に近づく。
「あ…」
「レぇロぉ~」
「ひぃっ…」
エロイーズさんが獅子原の顔を舐める。
顔を舐められた獅子原はあまりの恐怖に悲鳴を上げる。
エロイーズさんは、本当に人間なのか?
捕食者が獲物を品定めしているみたいだ…。
俺がそう思っていると、
「あらん?こっちの男の子も良いわねんぅ~?」
エロイーズさんが俺の事を見てくる。
怖い…。
だが、
「いくらエロイーズさんでも柊はダメ」
姉さんが、エロイーズさんの肩に手を置き止める。
その間にも、エロイーズと俺の間に先輩と春乃が割り込む。
「残念ねぇ~んぅ。じゃあ、この男の子はもらっていくわねぇ~ん」
エロイーズさんはそう言って、獅子原を担ぐ。
「う、うわっ!」
担がれた獅子原は担がれた勢いに声を出す。
手足を先輩の鎖で縛られて、身動きが取れない状態に魔力まで使えないとなると、いくら獅子原でも簡単に逃げる事なんて出来ないだろう。
「行くわよぉ~ん!早く帰って子作りしましょうねぇ~ん!」
エロイーズさんが粘っこく獅子原にそう言うと、
「た、助けて下さい!怜華さん!」
獅子原が先輩に助けを求める。
だが、
「結婚おめでとう獅子原君。良い家庭を作ってね」
先輩は笑顔で獅子原を見送る。
獅子原はその言葉に、顔を青くしながら、
「秋沙先輩!どうしてこんな事するんですか!紹介するなら可愛い子がいいです!」
姉さんにそう言う。
あいつ、自分がどういう状態か理解してるのか?
俺がそう思っていると、
「…大丈夫。エロイーズさんは凄い」
姉さんが獅子原に手を振る。
完全に見送るつもりだ。
そうこうしている内に獅子原は、エロイーズさんに連れて行かれどんどん遠くなっていく。
「何回も愛し合ったじゃないですか!恋人の俺にどうしてこんな事をするんですか!!」
大きい声で、先輩達にそう言う獅子原。
すると、
「獅子原せんぱ~い!私達にそんな記憶は無いんですけど、一体いつどこでそんな事したんですか~!」
結城さんが大声で獅子原に質問する。
そして帰って来た答えは、
「何回も夢で会ったじゃないか~!それだけ俺の事を愛してたんだろ~!」
まさかの返答に、俺も含めた全員が固まってしまった…。
つまり獅子原は、自身の夢で先輩達と交際をしていたって事か?
俺が周りを見ると、全員呆れている。
だが、姉さんだけ様子が違った。
「どうしたの姉さん?」
俺がそう聞くと、
「…少しだけ、わかる気がする。私も夢で色々すると、それが本当なんじゃないかと思ってしまう」
姉さんがそう言った。
姉さんがそう言うという事は、頭が悪い俺には理解できない話なんだろう…。
「もしかして秋沙の性癖って?」
「…元は夢が原因」
先輩が姉さんと話しているが、俺は何だか言い表せない感情が心に残る。
先輩達があんな男と付き合ってなくて良かったと思うと同時に、俺はあんなのに馬鹿にされていたのかと思いながら、城に戻った。
それから先輩が他の勇者に獅子原は愛する人と結婚した、彼が抜けた穴は自分達が埋めると言った。
女子達はイケメン勇者、獅子原がいなくなった事に絶望していたが、男子達も獅子原がいなくなった事に残念そうにしていたが、少しだけ嬉しそうでもあった。
ちなみに、勇者達が先輩達は獅子原と結婚しないのかと質問されていたが、先輩が嘘涙目になって、
「私達は振られてしまったわ。でも、彼の幸せを願いましょ?」
勇者達にそう言った。
勇者達の信頼と好感度を上げて、先輩は微笑み、先輩以外の生徒会メンバーは笑いを堪えているようだった。
あの状況を見て、幸せにはなれそうにないし、先輩も意外に腹黒なのかもしれない。
その後、パーティーは夜まで続いた。
俺は少し外の空気を吸いたいと思い、城から外に出る。
色々あったが、これから少しでも皆の役に立てると良いなと思いながら空を見る。
『シュウ』
星空を見ていると、リーシャが声を掛けてくる。
『どうしたのリーシャ?』
『なんか色々あり過ぎて頭が混乱しているわ』
『確かに。俺も先輩達が獅子原と実は付き合ってないっていうのを知って、驚いたし』
『私はシュウがいきなり捕まった事の方が驚いたわ。しかも…キスしちゃうし』
そう言ったリーシャの声は、不満そうだ。
『それは、ごめんなさい。まさかあんな事になるなんて思わなくて』
俺が謝ると、
『あれは仕方ないわ。わかってる、でも絶対に今度は油断しないわ!』
リーシャはそう言って、やる気を出す。
俺も気をつけないとな…。
リーシャに嫌な思いはさせたくない。
俺がリーシャと話しながらそう思っていると、
「柊ちゃん」
後ろから声を掛けられる。
俺が振り返ると先輩が立っていた。
「どうしたんですか?」
俺がそう聞くと、先輩は俺に隣に来て、
「柊ちゃんと話がしたかったの」
俺にそう言った。
「…ごめんね」
先輩が呟く。
「謝らないで下さい。先輩は何も悪くないです」
俺が先輩にそう言うと、先輩は首を振る。
「私が悪いのよ。柊ちゃんを護れなかったから、柊ちゃんはたくさん怖い思いをしたし辛い経験をしたと思うわ。私は自分の力で何でもできると思っていた。でもその油断の結果、大切な柊ちゃんが死んでしまうかもしれない事になったの。自分の命より大切な柊ちゃんがいなくなってしまう。そう考えたら凄く怖かったわ。でも…柊ちゃんは生きていた。ありがとう柊ちゃん、生きていてくれて」
先輩は俺にそう言ってくる。
「心配かけました。でも…」
「だから…」
俺が先輩に話そうとしたら、先輩が遮ってしまった。
「だから、これからは柊ちゃんはここにいて欲しいの。私の部屋に。ずっと…ずっとずっと。一歩も外に出ないで欲しいの。生活面は大丈夫だから!ギルドでお金を稼いでくるし、柊ちゃんの言う事何でも聞くから!一生外には出ないで。一緒に暮らしましょ?柊ちゃんは何もしなくていいの。ただ、子供のお世話は任せちゃう事になるわ」
俺の事を見ながらそう言う先輩。
見ると、先輩の瞳はドロドロと濁っている。
頬は赤くなり、息が荒い。
「す、すみません先輩。それは出来ません」
俺は先輩にそう言うと、先輩の雰囲気が変わる。
ドロドロと濁っているのは変わらないが、目つきが鋭くなっている。
「何で柊ちゃん?」
完全に先輩が怒っている…。
俺は先輩にリーシャの事を話そうと口を開いた瞬間、
「シュウ様!お客様が見えています」
騎士の人が走りながら、俺にそう言ってきた。
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