出会い
魔王を閉じ込めてから皆で必死に走る。
息が苦しいが今はそんな事で止まることができない。
一度立ち止まれば後ろから来ている魔王に殺される事は確実だ。
ただ、前を走っている春乃はもう限界そうだ。元々運動が苦手でしかも坂道を上っているんだ。
そう考えながら走っていたら、
「待ちやがれぇぇ~~!!!」
と、ダンジョン内に怒号が響いた。
完全に怒ってる、当たり前だが。
「すぐそこまで来ているぞ!」
レデリックさんが皆に言うが、皆リアクションしている暇なんてない。
今はただ、出口に向かって走るしかない。
そして、ついに縦穴の道まで着いた。
あと少しだ!
皆で危ない道を走り抜けようとした時、
「きゃぁ!」
春乃が転んでしまった!
「春乃!」
「はぁ…はぁ…だ、大丈夫だから皆先に行って!」
春乃はそう言うがもう動けないようで立ち上がらない。
すぐに春乃を助けようと走ろうとした瞬間、
「見つけたぜぇ~!よくも俺を焼いてくれたなぁ~!!」
魔王が追いついてしまった!
魔王はふわりと跳ぶと春乃のすぐ後ろに着地した。
「まずは、1人目だぁぁ!」
そう言うと魔王の左腕が変化していき、ドラゴンの頭になった。
どういうことだ?
「俺は勇者の力を吸収して更に強くなってやる!」
多分、魔王のスキルにそういうスキルがあるのだろう。
「死ねぇ!」
魔王のドラゴンの口を開いた。
このままじゃ春乃が!
「やめろ~!!」
走る!
春乃を助ける一心で疲れ果てた体を動かす。
春乃にあの腕を触れさせてはならない!
何としてでも止める!
春乃と魔王の間に体を挟み魔王の左腕、ドラゴンの口に自分の右腕を入れる。
「なっ!」
魔王も予測出来なかったであろう。
間抜けな声を上げる。
ドラゴンの口が閉じる。
瞬間、右腕に今まで感じたことがない程の激痛が走った!
「ぐあぁぁっ!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!!!!
だが、右腕の感覚はある。
動け!
痛みを堪えてドラゴンの口内を弄り、握りやすい牙を掴む。
絶対にこの手を離さない!
痛みに汗が吹き出る。腕からも血がだくだくと出ていくのを感じる。
「お、お兄ちゃ…」
「春乃…!行け!」
「で…でもお兄ちゃんが!」
「俺の事なんか気にするな!」
春乃にレデリックさんの方へ行けと顔を振ると、チラリとレデリックさんと姉さんの姿が見える。
レデリックさんは驚愕しているらしく目は見開かれ口が半開きになっている。
姉さんは両手で口元を覆っている。痛みによる幻覚じゃなければ目が涙ぐんでいた。
「このガキがぁ!」
魔王の怒号が聞こえ、目を向けると魔王は右手に大斧を出し、振りかぶっていた。
俺も負けじと左手に剣を出すが、力で負け大斧の刃が左肩を傷つける。
「ぐっ!」
「死ねぇ!」
このままじゃ負ける。
春乃は?
見ると春乃は俺の姿を見て泣いている。
そんなことしている暇はない。
「は…春乃!頼む!言う事を聞いてくれ」
「お兄ちゃん!一緒に帰ろ!また、皆で話したりしよ!」
「…それは…無理だ」
春乃達を助けるにはこれしかない。
「じゃあ、私も一緒に残る!」
「…春乃、俺は兄として妹のお前を守りたいんだ…駄目な俺でもそれくらいできないとな、姉さんと先輩にも伝えてくれ…ぐっ…迷惑かけてすみません、ありがとうございましたって…」
「ぅう…」
春乃はよろつきながらも立ち上がり、レデリックさん達の方へ歩いていく。
嫌われていると思っていたが泣いてくれるとは思わなかった。
「待てぇ!逃がさねぇぞ!!」
「お前の相手は俺だ!」
もう右手の感覚は無い。
顔を横に向け春乃を見る。
あと少しだ、頑張れ!
あと、もう一歩!
着いた!
「レデリックさん!!!!!」
俺は右足を上げて地面を思いっきり踏む。
「……ッ!!」
気付いてくれたようだ。
レデリックさんの顔には苦渋の色があった。
悩むことなんてない。
これが最善なんだ。
レデリックさんがハルバードを振り上げ地面に突き立てる。
「すまない!!!」
爆発音がし足元が崩れ始める。
「な、お前!俺様共々落ちるつもりか!?」
「一緒に底まで行こうぜ…」
「馬鹿かお前!他人の為に死ぬのか!」
他人じゃない、家族だ…。
浮遊感の中聞こえるのは元道の岩などの落ちる音、そして誰かの泣き声だった。
魔王と一緒に奈落に落ちながらも戦いは続いている。
魔王は俺を引き離そうとしているが、俺は絶対に離さない。
流石に魔王も高い所から落ちるのは生きていたとしても、ダメージはあるだろうし何より上に戻るのに時間が掛かる、そうすれば皆が助かる。
「がははは!なんだ簡単じゃないか!!」
絶対に離さないと思っていたら魔王が突然笑い出す。
「何がだ?」
「お前の腕、喰いちぎってやる!!」
魔王がニヤリと笑うと、ドラゴンの口が閉じる。
噛まれた時より痛くはないが少し痛く不快感がする。
神経が死んだのかな。
そんな事を思っていたら魔王が左腕、ドラゴンの頭を引いた。
それと同時に右腕に激痛!!
「あぁぁぁぁっ!!!!!」
見ると右腕は肘から先が無くなっていた!
「じゃあな!クソガキ!」
魔王はそう言って俺を蹴り飛ばす。
そして、背中が地面に衝突したのか激しい痛みが走り続いて息ができなくなる!
だが、落ちた場所は水の中らしく体が水に浸かり体が濡れる。
結構な高さから落ちたにもかかわらず俺は生きているようだ。
「チッ!結局、底まで落ちちまったのかよ!」
少しして魔王が轟音を立てながら着地する。
俺の出来る事は済んだ。
「よくも俺様の邪魔してくれたな!あと少しで勇者の力を手に入れられたってのによ!」
魔王が俺の方に来ながら言ってくるが、俺はもう身動きが取れず奴の言葉を聞いてるだけだ。
反抗もできないし逃げることもできない。
俺は静かに目を閉じる。
さくっと死ねたら良いけどと思いながら魔王の足音に耳を傾けていると、
「うるさいわね。誰よ私の家の庭で騒いでるの」
唐突に綺麗な声が聞こえた。
「あぁ!何だ女!」
「うるさいって言ってるのに…」
目を開けて見ると、長い銀髪が見えた。
「邪魔するんならテメェから殺してやる!」
そう言って魔王は大斧を出し女の子に斬りかかる。
逃げて!と思った瞬間、女の子は右手を振る動作をすると魔王の動きが止まる。
「な…何だ…と」
そう言うと、魔王の体が横に真っ二つに割れた。
は?
「汚いわね。火よ」
俺と同じ魔法を使ったのに火が圧倒的に強く魔王の死体を一瞬で燃やし尽くした。
彼女は俺の方を見る。
この暗い空間なのにキラキラと光る長い銀髪に整った顔、目は空のように青い。
「そこにいれば傷は治るから」
彼女はそう言ってどこかへ行ってしまった。
俺は彼女の声を聞いて緊張が解けたのか、目を閉じ意識を手放した。
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