未練
リザベルトさんが俺が起きているか確認するためか、俺の顔を覗き込んでくる。
すると、リザベルトさんからお酒の匂いがする。
「シュウ君~?起きてるの~?」
完全に酔っぱらってる…。
「リザベルトさん?どうかしたんですか」
俺はリザベルトさんにそう聞く。
「シュウ君起きてる~!」
俺が起きてると気づくと、俺の頬を優しく撫でてくるリザベルトさん。
その後、どうにかして起き上がる。
見ると、酒瓶なのか、リザベルトさんの隣には瓶が置いてある。
俺は家の中を探し、水を見つけると彼女に渡す。
「ありがとう」
リザベルトさんは俺にお礼を言って一気に水を飲み干す。
「お酒の飲み過ぎは体に毒ですよ」
俺がそう言うと、
「自分でもダメだと思ってるのよ。でもお酒を飲んでから寝ないと、上手く寝られないの」
リザベルトさんは顔を伏せながら俺にそう言ってくる。
「…そうですか」
俺は彼女が何故眠れないのか、多分だがわかる。
俺の反応に、
「未練がましい女でしょ?」
リザベルトさんは俺の考えている事を察したのか、苦笑しながら俺に言ってくる。
だが、俺には未練がましいとは思えない…。
俺だってリーシャが死んでしまったら…、彼女の様に眠れなくなってしまうだろう。
もしかしたら、生きることを諦めるかもしれない程だ。
だが、リザベルトさんは村の皆の為に、諦める訳にはいかないのだろう。
「俺は、そんな風には思えません」
リザベルトさんが普段は明るく振る舞うのは、長として弱っている所を見せないようにしているのと、寂しさを紛らわせるためだと思う…。
「夢にね…夫が現れるの。家族との、村の皆との楽しい日々の思い出、ディデリクと一緒に過ごした日々を寝ている間、見てしまうの。ディデリクは死んでなかった。現実の方が夢だったんだって思ってしまうわ。そして、起きてしまえば辛くなってしまう。…最初は眠る事すら怖かったわ。でも眠らないと村の皆に心配をかけてしまう。だから、お酒を飲んで深く、あの幸せだった日々を見ない様に眠るようになったわ」
そう言いながら、リザベルトさんは瓶を撫でている。
「辛いですよね…」
「…そうね…。もうあの人に会えないと思ってしまうと、後悔しかないわ…。あの時こうしとけば良かった、あの時言えば良かったなんて思ってしまうわ…。もう遅いけどね」
俺はリザベルトさんを見る。
彼女は苦笑しているが、その表情が無理をしているものだとわかる。
彼女の瞳には、涙が今にも溢れそうな程溜まっている。
「…溜め過ぎない方が良いですよ」
俺がそう言うと、リザベルトさんは首を振る。
「私はこの村の長よ。弱い所を見せる訳にはいかないわ」
俺はリザベルトさんの様子を見て、このままじゃ彼女は壊れてしまう…。
そう思う。
『リーシャ、起きてる?』
『…すぅ…』
…リーシャは起きているだろう。
だが、俺の考えている事に黙っていてくれるようだ。
本当、リーシャには感謝してもしきれない。
俺はリーシャに感謝をして、
「リザベルトさん?」
「…なにかしキャッ!」
俺はリザベルトさんを抱きしめる。
少し苦しいかもしれないけど、強く抱きしめる。
「ど、どうしたのシュウ君!?」
リザベルトさんが俺にそう聞いてくる。
「俺はエルフでもないですし、村の住民でもないです。俺には、弱い所を見せても良いんじゃないですか?」
俺がそう言うと、俺の腕の中で少し動いていたリザベルトさんが動かなくなる。
「…良いのかしら?」
「…はい」
俺がそう返事をすると、徐々にリザベルトの泣き声が聞こえてくる。
それからしばらく、俺はリザベルトさんを抱きしめていた。
外に聞こえない様に、しっかりと。
その後、落ち着いたリザベルトさんを離す。
「「……」」
少し…気まずい。
リザベルトさんは、俺に背を向けている。
俺はどうしよう…と思いながら、視線を泳がせる。
すると、俺はこちらを見ている人影に気がついた。
人影はゆっくりと家の中に入って来る。
どうやらお母さんが心配だったようだ。
俺がそう思った瞬間、
「…母上」
リザベルトさんに声を掛けるエルネットさん。
すると、声を掛けられたリザベルトさんがビクッとする。
「…エルネット?」
リザベルトさんがそう言った瞬間、エルネットさんがリザベルトさんに抱き付く。
「母上、母上だけに問題を押し付けてしまい申し訳ありません」
リザベルトさんに抱き付きながら、エルネットさんは涙声でそう言う。
「良いのよ。私が皆を導かないと」
「父上の事も…、母上は普通にしていて、母上がこんなにも思い詰めているとは思っていませんでした」
「良いのエルネット。貴女だって辛いはずなのに…。弱い母でごめんなさい」
リザベルトさんが、エルネットさんの頭を撫でながらそう言う。
それからは親子の本音での話が続いた。
互いに無理をしないで、辛かったら辛いと…。
嬉しいなら嬉しいと…。
もっと話そうという事になった。
最初は涙声だった2人だが、話が終わる頃には互いに笑い合って良い感じだ。
これで…リザベルトさんとエルネットさんは大丈夫だろう。
俺がそう思っていると、2人が俺の方を向いてくる。
どうしたんだ?
そう思っていると、2人が頭を下げる。
「どうしたんですか!頭を上げて下さい!」
俺は、突然頭を下げた2人に慌ててそう言う。
すると、
「ありがとうシュウ君」
「…感謝」
俺にそう言ってくるリザベルトさんとエルネットさん。
「俺は何にもしてませんよ」
俺がそう言うと、2人は顔を見合わせて俺から少し離れる。
「これは…、どうしましょうか?」
「…拘束?」
「それはダメよ」
何やらコソコソ話して俺の方をチラッと見る2人。
その後、何やら話し合っている2人を見ながら俺は欠伸した事で、2人は家に戻って行った。
俺はまた横になる。
『…リーシャ』
『…何?』
『さっきはありがとう』
『良いわよ。ただ、私も少し覚悟しないといけないわね』
『どういう事?』
『シュウには教えられないわよ』
『そんな~…』
リーシャと話しながら、俺はいつの間にか眠りに着いた。
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