元凶
俺は今、気絶している男達をどうやって運ぶかを考えている。
すると、
「シュウさん、私が縛る縄を持っています」
エルミールさんがメイド服のスカートから縄を取り出す。
「ありがとうございます」
俺はエルミールさんにお礼を言って、縄を受け取る。
ほのかに暖かいのは気のせいだろう…。
俺は倒れている3人の男達を縄でキツく縛り、またエルミールさんを抱こうとした瞬間、
「貴方は、火魔法しか使えないのではなかったですか?」
エルミールさんが俺にそう言ってくる。
「それは…」
「…言えない事ですか?」
「…そうですね」
「私にも、言えない事があります。お互い様でしょう」
「エルミールさんにも言えない事が?」
「私にもありますよ」
そんな会話をしてから、俺はエルミールさんを抱き、縄を掴んでから空中に飛ぶ。
エルミールさん1人だけだったら軽かったのに、大の大人3人も運ぶと意外に重くなるんだな…。
そう思いながら、俺はヴァランス帝国まで駆ける。
やがて、ヴァランス帝国が見えてきた。
俺は、一旦下りる。
「ここからは歩いて行きます」
「…わかりました」
エルミールさんにそう言って歩き出す。
そうしてヴァランス帝国に辿り着く。
「ん?お前は確か…」
門番の人が俺を見て、話しかけてくる。
見ると、俺が初めてここに来た時の人と一緒の人だ。
だが、門番の人が俺の隣を歩いているエルミールさんを見てから、俺達の後ろを見て、
「な!そいつらは!」
大きな声を出す。
「すみません。入れて貰えませんか?」
俺は、出来るだけ笑顔で言う。
「あ…あぁ」
「どうも」
門番の許可が貰えたので、ヴァランス帝国に入国する。
前に来た時と変わらず、ここはサンレアン王国の様に賑わっている。
だが、サンレアン王国の方が皆幸せそうだ。
ここは、様々な欲望が渦巻いている。
暗い感情を持っている人もいる。
今日でこの国は根本から生まれ変わるかもな…。
そう思いながら、俺はヴァランス帝国の城下町を歩き出す。
皆、俺の事を見ている。
「完全に目立ってしまっていますよ」
隣を歩くエルミールさんが顔を近づけてそう言ってくる。
「それでいいんですよ。ヴァランス帝国の王をズタボロにするために国の人達の目は必要です」
「…そういうものですか」
俺の発言にエルミールさんが首を傾げながらそう反応する。
やがて、ヴァランス帝国の城に辿り着く。
門番は皆、怪しい俺を見ても止めもしない。
「よほど余裕なのか…」
「あの王はそういう人です」
俺とエルミールさんは、城の中に入っていく。
中を見ると、最悪だった…。
働いている人は皆、首輪を着けている…。
つまり、奴隷だ。
『最悪ね。魔王城ですら、もう少しまともだったわよ』
リーシャの声も嫌悪感を孕んでいる。
俺は城の中を進んでいく。
すると、
「おやおやおやおや~!そこにいるのはサンレアン王国のメイドではないですか~!」
城に響く大きな声。
見ると、上にヴァランス帝国の王が立っていた。
「お久しぶりです。メオン・ヴァランス様」
「その冷めた顔は、どうしたら歪むのだ?快楽を孕んだ顔を見たいものだ」
俺はエルミールさんの姿を、ヴァランス帝国の王から見えなくするためにエルミールさんの前に立つ。
「ん?何だ男?私は男を見る趣味などない。そこをどけ」
「退く訳にいかないんですよ。貴方には聞きたい事があるんです」
「聞きたい事だと?」
「はい。サンレアン王国に情報を流す者が現れたんですよ」
俺がそう言うと、ヴァランス帝国の王は表情が少し変化した。
「それが?」
「貴方が送ったんじゃないですか?」
「何故私がそんな事をする?」
ヴァランス帝国の王が、笑いながら俺に聞いてくる。
「サンレアン王国にいる勇者を捕まえ奴隷にする。そう書いてありましたよ」
俺はそう言いながら、屋敷で取ってきたグシャグシャの紙を広げる。
「奴隷制度は、ここヴァランス帝国でしか正当化されていない。他の国で奴隷の子を見つけたが、あれは完全に国絡みの問題ではない。だが、この手紙には戦争と書いてあり、国が関わっている」
「…チッ!使えない家畜め」
ヴァランス帝国の王は舌打ちをしながら、俺を見てくる。
「仕方ない」
そう言うと、ヴァランス帝国の王は手を上げる。
すると、城の奥から騎士や武器を持った奴隷が出てくる。
「男は殺せ。女は生け捕りにしろ。私が楽しむ」
そう言って完全に傍観するつもりなのか、奴隷に椅子を持って来させて椅子に座る。
「良いんですか。そんな優雅にしていて」
俺がヴァランス帝国の王にそう言うと、
「ふん!家畜に恐れる必要など無い」
鼻で笑ってそう言うヴァランス帝国の王。
「家畜…家畜ですか」
「あぁそうだ。私以外は皆家畜よ!」
「じゃあ、家畜にズタボロにされる貴方は、餌か何かですか?」
「私が家畜風情に?何を馬鹿の事を!」
俺の言葉に怒ったのか、俺に怒鳴ってくる。
「じゃあ、始めますか」
俺がそう呟くと、
『幻惑』
リーシャが魔法を使ってくれる。
この男に最も有利な格好は、
「な…な」
この格好…。
エルフの姿だ。
「き、ききき、貴様は!」
「お久しぶりです」
俺がそう言うと、王は椅子を倒すほど勢いよく立ち上がる。
「な…なぜ…」
「懲りて無い様なので、お説教しにきました。物理的に」
俺がそう言うと、奥から出てきた騎士が、数歩下がる。
「エ、エルフにもう手は出していない!契約は守っている!」
「そうですね。でも…勇者に手を出した」
「な、何故勇者を」
「それを知る必要は無いです。さ、始めますか」
俺がそう言った瞬間、王は逃げようと走り出す。
俺は、魔素を纏って空中を走る!
すぐに追いつき、
「魔拳」
服を掴んで、空中に放り投げる。
「がはっ…」
地面に落とされて、声を出す王。
俺はその傍らに下りて、王の体に触れる。
「ぐ…な、何を」
恐怖で引き攣っている顔で、俺を見ながら聞いてくる。
『解呪』
リーシャが一度、前回の契約を解除する。
そして、もう一度違う契約を結ばなくてはいけない。
「ヴァランス帝国の王。もうお前を好きにはさせない。お前は今後全ての人に危害を与えられないようにする」
俺がそう言うと、ヴァランス帝国の王は絶望的な表情をした。
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