正体
男は、突然現れた皆に呆然としている。
そして、皆もヴィクトルさんだと思っていた人が、全くの別人だということに驚いているようだ。
「さあどうします?これで貴方の正体は皆に知られてしまいましたね」
「ぐ…」
「あぁ、それと貴方の影に潜んでいる人も出てきた方が良いですよ?」
「ッ!そこまで知っているのか」
「はい」
俺がそう言うと、陰からにゅるっと出てくる人型のモノ。
それはどんどん人としての色が出てくる。
やがて、少し若い男の姿になる。
「まさか見つかるとは思わなかったすね」
どこか余裕そうに言いながら笑う男。
「大人しく投降することを進めますが?」
「冗談を言わないで欲しいっすね。正体がばれたからには、殺すか逃げるかの二択っすよ」
「この場合は、殺すだがな!」
ヴィクトルさんに変装していた男が、剣を取り出す。
この人数差で戦う事を選ぶって事は、戦闘に自信があるだけか馬鹿の二択だろう…。
「ハァァ!!ブヘッ!?!?」
男が俺に向かって斬りかかろうとした瞬間!
ティシール様の蹴りで変な声を出して、地に伏せる男…。
そうだよ…、ティシール様がここにいるじゃないか。
あの人の前では少し戦闘に自信がある程度じゃダメだよな…。
そう思っていたが、
『シュウ!もう1人が逃げるわ!!』
リーシャの言葉に、余裕そうだった男を探す!
見ると、既に影の様に真っ黒になっている!
俺は慌てて、魔素を操り男の体に付いている魔素を霧散させて、魔法を解除する。
「あんたですか?魔法を使えなくさせてくるのは!」
「だからどうした!魔拳!」
俺はそう言って、男までの距離を駆け抜け殴ろうとすると、男は笑いながら、
「残念っすが、あんたと戦いたくはないんすよ!」
そう言って、何かを地面に投げる!
すると、煙が巻き上がる!
「キャア!」
「煙幕か!」
周りにいた人達から悲鳴が聞こえる。
マズい、視界が悪い…。
魔視を使用するが、魔素の反応は無く、あの男は魔法を使用しないでここから逃げるつもりなのか。
『シュウ!窓よ!』
俺が視界が悪い中、あの男の居場所を探していると、リーシャが教えてくれる。
『リーシャ!魔法を!援護する!』
『わかった!雷牙!』
右腕から雷が出てくる!
真っ直ぐとはいかないが、窓の方へ雷が伸びる。
その雷に俺は、魔素を操作して槍の姿に作る。
だが、今回は手には持つつもりではないので、リーシャが放った軌道のまま槍を伸ばし続ける!
『リーシャ、このままでいいの?』
『大丈夫よ!そのまま伸ばし続けて!』
リーシャにそう言われて、俺は更に言われた通り槍を伸ばし続ける!
すると、
「ギャァッ!!」
男の短い悲鳴が聞こえて、リーシャが魔法を止める。
俺は、声のした方向へ走り寄ると、腿から血が流れて倒れている男を見つける。
「く…、ズルいっすよ。人には魔法を使えなくするのに…、自分は魔法が使えるなんて…」
男が俺にそう言ってくる。
「否定しないけど、これでこの国の人に被害がなければ、俺はそれで十分だ」
「ヒヒ…、なかなかの愛国心っすね。俺にはわからないっす…。だが、俺も簡単に捕まる訳に行かないんすよ!」
男はそう言って、懐から小瓶を出す。
もしかして!
俺は男の体を魔素ごと固める。
ティシール様にしたのと同じものだ。
とりあえずコイツはこのままにしよう。
少しして、煙が晴れていく。
「大丈夫ですか?」
俺は、大広間にいる皆を見渡しながらそう言う。
ヴァレッド様が皆を見て、
「皆大丈夫そうだ」
そう言った。
ティシール様はヴィクトルさんに変装していた男の側にいた。
男は気絶している…と思う…。
殺してないよね?
俺がそう思っていると、ティシール様が男を軽く蹴る。
「グヘ…」
軽く蹴った様に見えるが、少し飛ばされて地面を転がる男が少し声を出す。
とりあえず、生きているようだ。
それからは、ヴァレッド様が皆を仕事に戻し、男2人は騎士に連れて行ってもらった。
この後、あの2人は尋問をするらしいが、情報は得られないと思うとエルミールさんが言っていた。
俺が捕まえた男が懐から出したのは、猛毒の液体だったらしく、死を覚悟した者は、何をされても口を割る事をしないらしい。
俺は今、ティアと話し合っている。
「あの2人はヴァランス帝国の奴らだ。ちょっと行ってくるよ」
「ヴァランス帝国の王は、色々な悪行に関わっています。闇の人達を敵に回すつもりですか?」
「俺なら大丈夫だよ」
「確かにシュウの力は信じてます。それに…」
ティアはそう言って、俺の右腕、リーシャを見る。
「ね?行ってくるね」
「…わかりました」
リーシャの許しが出たので、俺は出発しようと城を出る。
すると、
「私もご一緒できませんか?」
後ろから声を掛けられる。
振り返ると、エルミールさんが立っている。
ただ、いつものメイド服に少し防具を着けている。
「エルミールさんが?」
「はい。私も連れて行ってもらえませんか?」
「わかりました。じゃあ、俺の腕…。すみません」
俺はエルミールさんに近づいて、彼女の腰を抱く。
「!?何を!」
「すみません!すみません!」
俺は彼女に謝りながら、
『リーシャ、飛行魔法をお願い』
リーシャにお願いする。
『……飛空翔』
リーシャは低い声で魔法を使う。
リーシャの言いたい事はわかるが、俺は早くこの事を終わらせたいと思っている。
故に、今はこうする方が良い。
『リーシャ…』
『わかってるわよ。後で思いっきり抱きしめて』
『何回でも』
俺はリーシャにそう言って、空に飛び立つ!
「え!?な!これは!」
脇でエルミールさんの驚いている声が聞こえるが、今は悪いけど魔法に集中する。
エルミールさんを抱きながら、俺は空を駆ける。
まずは、ヴェルーズの近くの森だな。
そう思っている内に、見えてくる。
『リーシャ、人の気配はわかる?』
『わかるわ。隠れているようだけど、あの木が少し枯れている所よ』
俺はリーシャの指示に従って、森へ下りていく。
地面に下り立ち、俺は魔視を使用する。
『おぉ、皆魔法をいつでも使えるように準備している』
『さっさと生け捕りにしちゃいましょ』
『了解』
その後、魔素を払う事で、奴隷商人達は魔法を使う事が出来ず、あっさりと捕まえる事が出来た。
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