巣窟
ティシール様が起きた後、エルミールさんが水を持ってくると言って、席を立ちそれに続くようにコレットさんが城へ帰ってしまった。
今は、俺とティシール様とティアの3人だ。
「まだ薬が抜けきってないな…。眠い…」
そう言いながら目を擦るティシール様。
「お母様?何やら賭けをしていたと聞きましたが…」
「おぉ!そうだったな。レスティン、それでお前は私に何を望む?」
ティアがティシール様に質問して思い出したといった様子でそう言うティシール様。
「実は、今すぐに何かをして欲しいわけではないんです」
「どういう事だ?」
「実は、ティシール様に頼みたい事は、ある時になったら、どこかに人を集めて貰いたいんです」
「ある時とは?」
「それは…言えません」
俺がそう言うと、ティシール様は難しい顔をする。
「詳しくは話せないのか?」
「…はい」
まだ、この情報を伝える訳にはいかない。
俺がそう思っていると、
「…わかった。約束した事だ。守ろう」
ティシール様がそう言ってくれた。
「ありがとうございます」
俺はそう言いながら、頭を下げる。
これで後は、ヴィクトルさんをどうにか出来れば完璧だ。
俺が考えていると、
「お待たせしました」
エルミールさんが、水を持って来てくれた。
俺は立ち上がり、エルミールさんに近づいて、水を受け取り一気に飲み干す。
「すみません。じゃあ、俺はこれで失礼します。エルミールさん水ありがとうございます」
俺はそう言って、城の方へ走り出す。
これで大丈夫だろう。
後は、ヴィクトルさんの影に本当に内通者が入り込んでいるか確認できれば良いんだ。
すぐに確認できるか分からないけど、頑張ろう!
俺はそう思いながら、城を駆け抜け城門まで走った所で、
『シュウ!!あの男のいる場所知ってるの?』
リーシャの言葉に、急停止する。
門番の人が、俺の事を変な人を見る目で見てくるが、今は気にしないでおこう…。
『そうだよリーシャ!ヴィクトルさんがどこにいるか知らないよ!』
『どうしようかしら?適当に探すのは時間がかかって大変だし…』
『門番の人に聞いてみる?』
『ヴィクトルという名前は出さないようにね?』
『わかった』
俺はリーシャにそう言って、門番の人に近づく。
近づいてくる俺に少し警戒しているみたいで、顔が緊張で強張っている。
「すみません。少し聞きたい事があるんですが…」
「何だ?」
「魔法研究をしている所って、どこか分かります?」
俺がそう言うと、門番の人は少し安心したような顔で、
「なんだそんな事か。魔法研究所ならこの道をまっすぐ歩いていけば、左側に大きい屋敷があるからそこだよ」
門番の人が指差しながら教えてくれる。
「ありがとうございます」
俺は、門番の人にお礼を言って、教えてもらった道を歩いて行く。
やがて、左側に屋敷が見えた。
だが、ここでまた問題が発生する。
『どうしようリーシャ?このままじゃヴィクトルさんの監視が出来ない』
『そうね。シュウの魔視もあの男の位置を把握してないと意味無いものね…。そうだわシュウ、シュウの体に付いているあの男の幻覚魔法を払っちゃって』
『出来るかな?』
『シュウの魔素を操る能力なら出来るわ』
確かに姿を変える幻惑は、魔法の性質上、相手の体に魔法を纏わせて姿を別の者に見せる魔法だ。
それなら、俺の魔素を操る能力で払う事が出来るはず。
リーシャに言われた通り、俺は体に付いている魔法を魔素ごと払う。
意外にも簡単に払う事が出来る。
『払ったけど、これでどうするの?』
『もう一度、魔法をかけて貰うのよ。そうすればあの男のいる位置がわかるわ』
『なるほど!流石リーシャ!』
『ふふんっ!』
リーシャとそう話し合って、俺は屋敷の敷地に入る。
意外に騒がしいな…。
屋敷の敷地に入ると、意外に物音などが結構聞こえてくる。
科学者とか研究者って物静かにしているイメージなんだけど…。
俺はそう思いながら、屋敷の扉の前に立つ。
その瞬間、
「うおぉ~!新しい魔法ができたぞ~!早速試すぞぉ~!」
雄叫びを上げながら扉から勢いよく出てくる男性!
俺は咄嗟に避けるが、男性は俺を完全に無視して外に出て行ってしまった…。
俺が唖然としていると更に、
「遂にできたわぁ~!!若返りの魔法!!」
「ギャァァ!失敗した!」
屋敷の中から声がする。
俺、この中に入るのか?
『さ、行きましょうシュウ』
『う、うん』
俺は、リーシャに促されて、こそこそ屋敷の中に入る。
「お邪魔します」
挨拶は忘れない…。
中に入ると、普通の屋敷だ。
だが、屋敷の中はやはり騒がしい。
見ると、部屋の扉に名前が彫ってある。
つまり、この部屋ではない。
俺は部屋の扉を見ていく。
その際にどうしても扉に近づかなければいけないのだが、部屋の中からは不気味な声や叫び声で溢れている。
そうして屋敷の中を見ていくうちに、ヴィクトルと彫られた扉を見つけた。
俺は、緊張しながら扉を叩く。
すると、扉が開く。
「なんだい?扉を叩くなんて珍しい」
そう言いながら、扉を開けているヴィクトルさん。
だが、俺の顔を見た瞬間、顔が引きつる。
「あ、あれ?君は確か…」
「はい。この前魔法を掛けて貰ったんですけど、姿が戻ってしまって」
俺はそう言って、苦笑する。
すると、
「あぁ…そ、そうなのかい!じゃあ少し待ってもらえるかい?部屋が散らかってるからね!」
そう言って慌てた様子で扉を勢いよく閉めるヴィクトルさん。
『シュウ、部屋の中にあの男ともう一人いるわ』
リーシャが気配を察知したのか、俺にそう言ってくる。
俺は急いで魔視を使う。
すると、黒色の反応が確認できた。
やはり、彼が内通者…しかももう1人の内通者も確認できた。
こんなに早く分かる事が出来たのは大きい。
これなら、明日か明後日にでもこの2人を捕まえる事が出来る。
俺がそう思っていると、
「すみません。どうぞ入って下さい」
扉が開いて、ヴィクトルさんが部屋に入れてくれる。
「失礼します」
俺はそう言って中に入る。
部屋の中は確かに散らかっている。
ギリギリ動けるスペースしかない。
本や資料なのか紙が色々なところに散らばっている。
「ここに人が来るなんてなかなか無くてね」
そう言いながら、魔法の準備をするヴィクトルさん。
すると、
ドンドンドンドン!!!
扉が叩かれるというより殴る音がする。
「今日は、やけに人が来るね」
ヴィクトルさんはそう言いながら、俺の横を通り扉を開ける。
すると、先程外に出て行った男性が息を切らせながら立っている。
「どうし…」
「ヴィクトルさん!ちょっっと来てくれ!!!」
ヴィクトルさんが質問する前に、男性はヴィクトルさんの腕を掴んで引っ張って行ってしまった。
俺は部屋に残され、呆然とするが、
『シュウ、何か情報になる物がないか探しましょ?人が来たら知らせるわ』
リーシャがそう言ってくる。
『わかった。よろしく』
俺はリーシャにそう言って、部屋に散らかっている紙を見ていく。
すると手紙の様な紙がグチャグチャになっている。
手に取り、見やすい様に広げるとそこには、
「勇者を奴隷にするために、数人誘拐してこい」
そう書かれていた。
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