卑怯
俺のやったことは簡単だ。
魔拳は魔素を圧縮して作った腕、もしくはグローブの様な物だ。
それで、物や人を殴る事が出来る。
つまり、物体に触れる事が出来る。
それならば、魔素を圧縮した物で人を固めてしまえばいいのだ。
イメージ的には、果物ゼリーだ。
魔素を操る事が出来る俺にしかできない技。
「何をした?」
目の前でどうにか動こうとしているティシール様がそう言う。
「魔法です」
「こんな魔法、聞いた事がない」
「俺が作り出した魔法です。ティシール様の様な速い人と戦う為に今、思いつきました」
「戦闘中に何か考えていると思ったら、こういう事だったのか…」
そう言って何とか体を動かそうとするティシール様。
だが、魔素の圧縮により、体は完全に固定されている。
「それで、この後どうするのだ?私はまだ、意識を失っていないぞ?」
そうだった!
意識を失わせないといけないんだった!
俺は動きを止める技を作っただけじゃないか…。
「レスティン、お前は動けない相手を殴る様な奴には私には見えない。さあ、どうする?」
俺の事を見ながら、そう言ってくるティシール様。
すると、
『仕方ないわ。シュウ、これ使いなさい』
リーシャがそう言って、右手に何かを出す。
見ると、回復薬と同じ入れ物に入っているが、中身の色が違う。
回復薬は緑色の様な色だが、今手に持っている物の色は白い。
『リーシャこれは?』
『私が前に作った睡眠薬よ。効果は抜群よ!三日三晩は起きないはずよ』
『抜群過ぎない?せめて半日程度にできない?』
『じゃあ、その薬を半分くらい残せば良いと思うわ』
『わかった。ありがとうリーシャ』
俺は、固まっているティシール様に薬を飲ませようとする。
「なんだ?毒か?」
「違います。睡眠薬です」
俺がそう言った瞬間、開いていた口を閉じようとするティシール様。
慌てて俺は、ティシール様の口に魔素を圧縮した物で、ティシール様の口が閉じられないようにする。
「く、くひが…。あ…あにをした!?」
口が動かせない様にしたせいで、滑舌が悪くなるティシール様。
何だろう…、とてもいけない事をしている気になる…。
『シュウ、鬼畜ね…』
リーシャですら、少し引いている…。
だが、これはもう言い逃れできないほど絵面が悪い…。
二児の母親を拘束して口を開かせて、白い液体を流し込ませようとしている…。
これはマズイ…。
俺はそう思いながら、ティシール様の口に睡眠薬を半分ほど流し込む。
「んぐ…」
ティシール様が、少し苦しそうにする。
だが、薬の効果はすぐに出てきたようだ。
ティシール様は、意識が遠くなっているのか、何度も瞬きをしている。
「う…何だこの薬は…。物凄い眠気だ」
ティシール様ごと圧縮していた魔素を霧散させると、ティシール様は地面に膝を付く。
それからしばらくして、ティシール様は意識を手放した。
地面に倒れそうになったティシール様を、慌てて抱えて立ち上がり、ティア達がいる訓練場の隅に行くと、
「「「…………」」」
3人共、完全に引いていた…。
そりゃそうだ。
ティアは、気まずそうな目で俺を見ている。
コレットさんとエルミールさんは完全に目が死んでいる。
「その…レスティンさん?お母様は?」
「ティシール様は、今眠ってもらってます。少ししたら起きると思います」
俺がそう言って、ティシール様を下ろす。
「…最低」
コレットさんの呟きが聞こえた。
否定できない。
「まさか貴方が、あんなに卑怯だとは思えませんでした」
エルミールさんが俺に言ってくる…。
「…返す言葉もありません」
俺がそう言うと、
「レスティンさんは、どうしてお母様を眠らせたんですか?普通に戦う訳ではなく」
ティアが聞いてくる。
多分ティアは、リーシャが一緒にいるのを知っているから、こんな戦い方をした事に疑問を持っているのだろう。
「ティシール様と賭けをしたんですよ」
「賭け?」
「はい。意識を失ったら、条件を聞くという感じで」
「条件とは?」
俺がそう言うと、エルミールさんが聞いてくる。
「俺が意識を失ったら3つ、何でも言う事を聞くっていうのにしました。逆にティシール様が意識を失ったら俺の頼みを1つ聞いて欲しいって事にしました」
「なるほど。それで、貴方は何をティシール様に要求するつもりですか?」
「それは…。内緒です」
俺はまだ、この作戦を人に話さない方が良いかと思いごまかす。
すると、
「もしや、とんでもない事を要求するつもりですか?」
エルミールさんが俺を見ながらそう言うと、
「最低」
コレットさんが自分の体を抱きしめながら、冷めた目で俺を見る。
「お母様に手は出させませんよ!!」
ティアはそう言って、ティシール様をかばう様にする。
「俺はそんなことしませんよ」
俺が3人にそう言うと、
「つまり、ティアリス様かコレット様をお望みという事ですか?」
エルミールさんがそう言う。
「嫌よ!!私は絶対嫌!!!」
コレットさんが大きな声で拒絶してくる。
「コレット様、後々の事を考えるなら、自ら率先して行くべきだと思います」
「エルミール!?」
コレットさんがエルミールさんの事を信じられないといった様子で見る。
「それはダメですエルミール。妹にそんな事させられません。私が身代わりになりましょう!」
そして、何故か少し嬉しそうなティアが立ち上がってそう言う。
『シュウ、わかってるわよね?』
『わかってます』
リーシャも事情を知っているのに、そんな事を言ってくる。
すると、
「いけませんティアリス様。もっとご自身を大切にして下さい」
エルミールさんがティアにそう言う。
「エルミールさっき私のこと売ろうとしたわよね!?」
「コレット様は絶好の機会だと思って下さい」
「何で私だけ!!」
エルミールさんの言葉に、絶叫するコレットさん。
俺は、こんなに大きな声で話しているのに、全く起きる気配がないティシール様を見て、リーシャの作った薬の効果に驚く。
その後、ティシール様が起きるまでの間、ティアとコレットさん、エルミールさんの謎の話し合いが続いていた。
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