説得
リーシャの言葉に、俺は質問する。
『どうしてそう思うの?』
『私とシュウからあの男はそこまで年齢を重ねている様には見えなかった。周りの人間にはお年寄りに見えるようだけど。姿を変えるのは、あの男には簡単よね』
『…幻覚魔法』
『その通りよ。それを使えば潜入なんて簡単。そして、その男の影に入り込めば、何も怪しまれる事なく情報収集が出来るわ』
『なるほど』
『後は、ヴィクトルという男が都合が良いからよ。この城に自由に出入りする事が出来、この国の情報を知っている人間とも交流がある。ティアリス様とも話せるほどよ』
『そうだね。でもそうなると、俺が会った事があるヴィクトルさんは偽者だったってことだよね?それじゃあ本物のヴィクトルさんは…』
『…運が良ければ監禁されているだけかもしれないけど、多分…殺されてるはずよ』
リーシャの言葉に、嫌な気持ちになる。
だが、真実を暴かないと更に犠牲者が出てしまう。
「エルミールさん」
「…はい」
「俺はヴィクトルさんが怪しいと思っています。明日にでも真相を解き明かしたいと思っています。でも、エルミールさんは何もしないで下さい」
「…それはどうして?」
「エルミールさんはこの城のメイドです。俺は、ただの冒険者。もしヴィクトルさんが内通者だったら、今度はエルミールさんの姿に変えて、情報を聞き出そうと考えるはずです」
「でも、貴方だけに危険な事は依頼者として…」
「コレット様の事も考えてください。エルミールさんは皆に信頼されて、頼られている」
俺は少しズルいが、彼女の事を考えてコレットさんの事や城にいる人達の事を会話に出す。
「もし失敗したら、犠牲になるのはエルミールさんだけではないんです。…お願いします。俺に任せて下さい」
俺はそう言って、頭を下げる。
それからしばらく、エルミールさんは何も言わず黙っていたが、
「…わかりました。私はいつも通りに過ごします。どうかよろしくお願いします」
エルミールさんが、諦めたような声でそう言った。
それからエルミールさんは、部屋から出て行ってしまった。
怒っている様では無かったが、ショックは受けている様だった。
俺はベッドに横になる。
出来れば、明日には解決したいんだが、そう簡単に向こうも尻尾を掴ませてくれるとは思っていない。
どうしたものか…。
そう思っていると、リーシャが光りだして人の姿に戻る。
そのまま、俺の横に寝るリーシャ。
「シュウ、明日からはあの男のいつもいる場所や行動を監視する様にしましょう」
「うん。でも怪しい行動を取ったら動かないといけないよね?その時俺が偽者のヴィクトルさんを捕まえても信じてもらえるかな?」
「そうね。下手すると私達が疑われる可能性があるわね」
「そうだよね…ティアやエルミールさんは信じてくれそうだけど…」
「下手に上の者が信用無い者の肩を持つと城内が悪い空気になるわね」
「「ん~…」」
俺とリーシャが同時に唸る。
すると、リーシャが突然、
「あっ!!」
何かを思いついたのか、声を上げる。
「もしかしたら、協力してくれる人がいるわ!」
「誰?」
「ある意味シュウの事を認めている人よ」
「…自分で言うのもアレだけど俺、レスティンとしてはあまり城の中で信用されてないよ?」
「上の立場の人だけど、シュウの事妙に気に入ってた人よ。あの人なら、協力してもらって誘導する事が出来るかも…」
そんな人いたっけ?
そう思いながら、リーシャに何度も教えてくれるように言ったが教えてくれず、ベッドの上でリーシャと教えて教えないと言い合いながら、イチャイチャしながら寝てしまった。
翌朝、俺が起きるとベッドはグチャグチャになっており、俺とリーシャは互いにいつ寝たのか互いに分からない程だった…。
多分、リーシャがあんな事をするって事は、俺の事を気遣ってくれたからだろう…。
俺は、いつの間にか隣で剣の姿で寝ているリーシャを見る。
ありがとうリーシャ…。
俺は寝ているリーシャを撫でながら感謝する。
「ぅん…すぅ」
リーシャは撫でられて、寝返りをする。
剣の姿だけど…。
それから俺は、リーシャを起こさない様にベッドを綺麗に直していく。
ベッドを直して終わった後、俺は今日の準備をし始める。
すると、
「ん…シュウ?」
リーシャが目を覚ましたようだ。
見ると、すでにリーシャは人の姿になっている。
だが、
「リーシャ!裸になってるよ!?」
ベッドから起き上がったリーシャは、衣類を身に着けていない全裸だった。
俺が慌ててリーシャにそう言ったが、まだ寝ぼけているのかリーシャは、
「シュウのえっち…」
そう言いながら、シーツを体に巻き付けて、体を隠すリーシャ…。
その後、リーシャの目が完全に覚めると、慌てて服を身に着けていた。
「ごめんなさいシュウ」
「いいよいいよ。それよりこれからどうしよ…」
俺がリーシャに今後の事を聞こうとしたら、
コンコン
扉がノックされる。
リーシャが俺に触れてきて、右腕になる。
俺が扉を開けると、そこにいたのは、
「おはようございます。ティシール様がお呼びです」
何回か城で見た事があるメイドさんだった。
「あぁ、おはようございます。わかりました、ティシール様はどちらに?」
「訓練場でお待ちしておいて下さい」
「わかりました」
メイドさんはそう言って、行ってしまった。
俺は、メイドさんに言われた通りに訓練場に行こうと、部屋を出る。
廊下に出ると、リーシャが話しかけてくる。
『ねえシュウ、ティシール様に話をしてみない?』
『話?』
『そう。この訓練で自分が勝ったら、1つ協力して欲しいって』
『もしかして、昨晩の協力してくれるかもしれない人って…』
『ティシール様よ』
『…あの人に、何を頼むの?』
『城の人間を一か所に集めて貰えれば、あの男の正体を暴くのに都合がいいでしょ?』
『まぁ、皆がヴィクトルさんの正体が別人だったって知ってもらうには良い事だけど』
『そうしましょう。それが今できる方法よ』
『…わかったよ』
俺は、リーシャにそう言って廊下を歩く。
訓練場に着くが、まだティシール様はまだ来てないようだ。
すると、
「お母様!いい加減にして下さい!」
「私だって動きたい!仕事は終わらせただろう!」
何やら言い争いの声が聞こえる。
声の方を見ると、ティシール様とティアが言い争いながら、こちらに歩いて来ている。
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