見落とし
ケールさんが白なのを確認した俺達は、ケールさんにお礼を言ってその場を後にした。
これで振出しに戻ってしまった…。
そう思っていると、
「レスティンさん、この後は用事はありますか?」
エルミールさんが話しかけてくる。
「いえ、特にこれといってやる事がある訳ではないです」
俺がそう言うと、エルミールさんが止まる。
俺もそれと同時に止まると、
「では、この後お付き合いしてくださいませんか?」
エルミールさんが俺にそう言ってくる。
「どこか出かける用事でもあるんですか?」
「はい。メイド服を新調したいと思いまして。城下町に行くので、マドロラさんの情報収集とルリィさんの様子見も兼ねて一緒に行きませんか?」
「行きます!!」
エルミールさんの誘いに食い気味で答えると、エルミールさんが少し驚いた表情をする。
「では、一旦別れてお昼頃に城門に集まりましょう」
「わかりました」
「ではまた後程」
エルミールさんがそう言って行ってしまった。
俺はやる事がなくどうしようかと思っていると、
『ねえシュウ』
リーシャが声を掛けてくる。
『どうしたの?』
『少し気になった事があるのだけど…』
『何が気になったの?』
『もしかしたら…完全に勘違いをしてたかもしれないわ』
『リーシャ?』
『シュウ…もし内通者が2人の場合だったら、簡単に入れるわ』
『2人…勝手に1人だと思ってたよ』
リーシャにそう言ってから、俺は今人が周りにいる事に気がつく。
何かあったらマズいと思い、一度部屋に戻ろう。
そう思いながら、歩き出し俺は部屋に帰ってきた。
部屋の鍵を閉めて、ベッドに座る。
「戻らないのリーシャ?」
「今は良いわ。それよりさっきの続きだけど、もし内通者が2人なら、簡単に城内に出入りが出来るわ。1人が闇魔法で相棒の影に潜り込んで、相棒の方は普通にこの城内を歩いているだけでいいのよ」
「でも効率悪くないかな?2人でそれぞれ別々に動いた方が良いんじゃないかな?」
「内通者は情報も大事だけど、一番大事なのはその情報をしっかり伝える事よ。効率よりも安全の方を重視するはずよ」
「じゃあ、2人がこの城に侵入していると考えて、どんな人が内通者なの?」
「この城に入れる人間で、しかも立場が上の方の人よ」
「そうなると、意外に多そうだね…」
俺はそう言って、体を後ろに倒して横になる。
「シュウ、あのメイドの子に会ったら聞きたい事があるの。話してもらえる?」
「エルミールさんの事?」
「そうよ」
「もしかしてエルミールさんが怪しいと思ってるの?」
「違うわ。あの子がボソッと言った言葉が気になって…、それを確かめたいの」
「…わかったよ」
俺はそれから、エルミールさんが指定したお昼になるまで、リーシャとの何気ない会話を楽しんだ。
そして昼ごろになり、俺は部屋から出て城門まで歩く。
城門に着くがまだエルミールさんは来ておらず、俺は目の前に広がっている城下町の光景を見る。
こう思うと、サンレアン王国は他の国に比べて貧富の差がない様に見える。
俺はまだ、あまり城下町をくまなく歩いている訳ではないが、それでも城下町には物を売っている人や、地面に座って物乞いしている人も見えない。
俺がそう思いながら、城下町の景色を見ていると、
「お待たせしました」
後ろから声がして、振り返るとエルミールさんが立っていた。
「すみません。お待たせしてしまい…」
「いえ、俺もさっき来たばかりですから」
「いえ、私からお誘いしたのに申し訳ありません」
「気にしないでください。それよりも行きましょう」
「…はい」
エルミールさんが先に歩き出して、俺も慌てて彼女の隣を歩く。
「どこに行くんですか?」
「まずは、ルリィさんの所に行きましょう。彼女も会いたがっているはずです」
「ありがとうございます!」
それから俺とエルミールさんは宿屋に着くが、ルリィは部屋にはいなかった…。
多分買い物に出かけたのだろう…。
部屋の中を見たら、様々な肉や野菜、スパイスなどたくさん整頓されて置かれていた。
彼女が俺との約束をキッチリ守ろうとしているのが感じ微笑んでしまう。
俺は、少しだけ安心しながら宿屋を後にする。
彼女を探しながら、エルミールさんの用事を済ませようとエルミールさんに言うと、
「わかりました。では行きましょう。最初は武具屋です」
そう言って歩き出す。
「武具屋では何を買うんですか?」
「主に城にある騎士の予備の装備です。それと職人の方に城に来てもらい、装備の点検などですね。私のこの短剣もそのお店で作ってもらった特注品です」
エルミールさんはそう言いながら、どこから出したのか短剣を手にしていた。
「前々から思ってたんですが、エルミールさんは騎士兼メイドなんですよね?」
「メイド兼騎士です」
こだわりがある様だ。
「コレット様の側にいなくていいんですか?」
「コレット様はティアリス様と一緒に勉学に励んでいます。その時は私は邪魔になってしまうのでこうして他の事をしています」
「休憩とかは?」
「必要ありません。基本的には動いていたいのです」
「凄いですね」
「普通です」
俺とエルミールさんはそうやって歩きながら会話をしていると、エルミールさんが止まった。
「ここです」
そう言うエルミールさん。
俺は目の前の建物を見る。
建物自体は古そうに見えるが、しっかりとしている。
先に入って行ったエルミールさんに続いて俺も建物に入ると、様々な武具が並んでいる。
武器や鎧の他にも、鍋や包丁まで置いてある。
だが、店主がいないな。
そう思った瞬間、
「…いらっしゃい」
カウンターの奥の扉から厳ついおじいさんが出迎えてくれた。
「珍しいですね。ヤンさんがお店を開いている時に鍛冶場に行っているなんて」
エルミールさんがおじいさんにそう言うと、
「あぁ。なかなか珍しい客が来てな」
おじいさんがそう答える。
「珍しい?」
「あぁ、大切な人に美味しい物が作りたいから良い包丁を買いたいって言う客に、うちに置いてある包丁を
渡したら、1日で折ってきやがった」
おじいさんはその時を思い出したのか、顔をしかめる。
「その人に一矢を報いる為に鍛冶をしていたのですか?」
エルミールさんがそう言うと、
「いや、その客に鍛冶を教えてる」
おじいさんがそう言って、少し微笑む。
すると、
「おじいさ~ん!これどうですか?」
聞いた声が聞こえて、奥の扉から少し汚れた格好で出てきたのは、
「ご主人様!!!」
狐耳がトレードマークのルリィだった。
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