田中と更田
「田中、お前、その手どうした?」
朝、田中は左手を吊って登校してきた。
「おはよう。更田ポテト。いやぁ、不覚にも骨折してしまってな。まだまだ「気」が足りないみたいだ。次は上手くやる。」
グッと親指を立てて、自信ありげに答える。
「いや、待て田中。何したんだお前。しかも俺の名前は、ポテトじゃねぇって言ってんだろ」
「ああ、言っていなかったか。今俺は、舞空術を会得しようと修行してるんだが、ほら、舞空術って「気」を足に集中させて飛ぶじゃないか。瞑想して、自分の「気」を感じた気がしたから、イケる!と思って、窓から飛んだんだよ。そしたらちょっとは飛べたが、すぐに落ちてしまってな…。」
「……。いや…お前…。」
「そんな目で見るなポテト。修行不足だったことはわかっている。」
更田は、はぁ〜と溜息を吐き、目頭をおさえ呆れた声で言う。
「いや、お前が言った飛べたは、落下する過程だ、飛んでねぇ。あのな、どんなに憧れて修行したところで現実には、舞空術は会得できないし、出来た時は、お前の魂自体が天に召される時だ。マジで危ねぇから、もう舞空術を会得しようとすんじゃねぇぞ…。全く、舞空術をできるようになれると思える田中の自信はどっから来ているんだ…。なっ、わかったか?」
諭すような目で田中を見遣ると、更田の話を聞いておらず、スマホでドラ○ンボールの○飯がビー○ルに舞空術を教えているシーンを、イヤホンをつけて熱心に見ていた。
「お前は、毎回毎回人の話を聞けーーーー!!」
机と椅子をガタガタいわせ、勢いよく立ち上がりツッコんだ。
何事かと、イヤホンをとって田中は更田を見る。
「ポテト……お前どうしたいきなり…生理か?あっ、俺イブ○イック持ってるけどいる?」
もう、どっから突っ込んでいいか分からない。
更田は、遠い目をした。
(田中って本当取り返しつかねぇ域の馬鹿なんだな。俺、なんでこいつとつるんでんだろ…)