これはエステです
本日2話目です
「髪色、髪型の変更と目立ちにくいアルパカ毛の装備を見繕ってください」
「あらぁ?まるでここを何度も利用しているかのような注文ね?」
「ええ、ちょっと別世界で」
ゲームの中だけどね。
ゲームのエステサロンは、いわゆるアバターショップのようなもので、体系や顔を除いた、あらゆるコーディネートが可能だった。
アルパカ毛の高級ブランド「アルバート・パッカード」がゲームに提携していて愛用品だったのだが、異世界ではワガママ言ってられないだろう。
「不思議な子ね。カットとカラー、その後に…装備?冒険者の方だったのね」
「冒険者?っていうのは分からないけど、旅人っぽいので、多分そんなもんです」
「すごいフワッとした答えね。予算はどんなものかしらん?」
「……あっ」
忘れていた、お金のことを。
ゲーム時代の通貨ENはあるけど、ここで使えるかは分からない。
インベントリを開いて、額を確認する。
58,925,780 EN
うーん、使えないのはもったいない。アルバートなら100万くらいポンと出しちゃうんだけどね。
ポンッ
「あ、出た」
「キャッ!アナタ今どこから出したの!?」
私もびっくりである。でも今重要なのはそこじゃない。
「これ使えます?」
ジャラ、と10枚のキレイなコインを差し出す。きっと100万ENなのだろう。
「使えるけど...ニセモノではないわね」
「じゃ、これで」
しばし考え込む様子のオネエさん。
「これだけ出せるなら、高級ブランドのアルバートなんていかがかしら?」
「あった!アルバート何者!?是非それで!!」
そうして、エステサロンの時間は過ぎていった。
ゲームのように一瞬で変身完了、とはいかなかったが、いろいろと世間話を聞くことができた。
冒険者ギルドがあり、魔物の討伐などが国から依頼されるらしいこと。
ゲーマー的に非情に興味をそそる内容だった。
魔法の研究機関があり、魔法学校を卒業できればエリートコースが安泰すること。
卒業が難しい上に、お金がかかるらしい。私には関係ないかな。
普通の学校にも行けない人が、冒険者になることが多い、とも聞いた。
遠くの国にはダンジョンらしきものもあるらしい。
そして、ここ最近魔物の動きが活発で、対策が急がれていることと、魔王とアルパカに乗った女神のおとぎ話を聞かされた(知らないの!?とびっくりされた)。
ついでに多数歩き回っているアルパカについて聞き、その扱いに驚愕した。
「アルパカは女神さまの遣いとして尊ばれていたわ。今は数も増えて、人間と対等に暮らしているけどね」
「アルパカは人間の言葉が分かるようなんだけど、あまり意思疎通は図ってくれないのよね」
「アルパカは、ありとあらゆる魔法を意識のままに操れる、と聞いているわ。人間に対しては完全に無害だから、誰も怖がらないけど」
「アルパカって怒らせると、くっさいツバを吐いてくるのよ」
それは知ってる。
「はい、できあがりよ!」
3時間に及ぶエステ(という名の容姿変更)により、銀の髪は、この世界で一般的な金髪に。
アルバートの服も、素材重視の、機能性を兼ね備えた、普通の装備に変わった。
「ありがとうアヤさん。また来るよ」
「またあのお値段のサービスができるか、分からないけどね。アルバートパッカード入荷しておくわ」
手を振って外に出ると、日が落ちかけていた。
「フェー」「ムェー」
「待たせてごめんねー。さて、そろそろ家に......」
家、ないです。
「アヤさん!一晩泊めて!!」
「えぇ!?」
宿を紹介してもらいました。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それはまことか、トラベルよ!」
「トルベンです、団長」
団長室、全力で走ってきたトルベンは、女神についての報告をしていた。周りにいた騎士たちは半信半疑の様子で、ざわめきが起こる。
団長と呼ばれた男は、引き締まった古傷だらけの腕を組み、考えを巡らせる。
「大きな翼で飛来し、大地を削り取るほどの魔法を使い、瀕死の団員を一瞬のうちに回復させ、アルパカに乗ってこの国へ降臨、か。信じ難い内容だが、おまえを信用しよう」
「ありがたく存じます」
「よくぞやってくれた、トルベン。これから派遣される絵師に、容姿の説明を頼む」
ドアに向かって歩きながら、団長と呼ばれた男は言葉を紡ぐ。
「何としてでも他の国に渡してはならない。全力を以て捜索するぞ!!」
トルベンさん、ちょっと走るのが遅かったようですね(ゲス顔)
ブクマ、評価ありがとうございます