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第一章「精霊使いと精霊達」 Page-6

「もう……神様でいいです……」

「おお、女神よ感謝します……」

 それから10分程村長と言葉の応酬という名の一方的な蹂躙を受けた後に、ついに繊月は折れた。

(だって人の話聞いてくれないんだもん……)

 

 おまけに本来なら唯一の味方であるはずのミカーナも、繊月が讃えられているのを見て気分を良くしたらしく、村長を援護し始めたのだ。

 つまり2対1である。勝ち目はなかった。

 ぶっちゃっけ途中で『召喚を解除してやろうか……』とも考えたが、杖を振るって、村長の目の前でミカーナの召喚の強制解除なんて行おうものなら、それはそれでまた騒ぎになりそうだったので止めておいた。

 

「あの……もう神扱いするのはもう勝手にしていいので、せめて女神はやめて下さい……」

『何故ですか?』

 村長とミカーナがきょとんとした表情を浮かべながら全く同じタイミングで、全く同じ角度に首を傾げながら問いかけてくる。

 というか最初は繊月の背後に控えていたミカーナがいつの間にか村長の隣に回っている。

 思わず二人をこの杖でぶん殴りたくなった衝動を必死に抑えながら繊月が言葉を紡ぎだす。


「俺は男ですッ!!」

 ここだけは譲れなかった。

『もう、神様でも何でもいいからせめて性別だけは守らせてくれ』というのが繊月のせめてもの願いだった。


「ワハハ。女神様はご冗談がお上手だ。貴方様が今現界なさっているお姿であるモケノーの種族に男はおりませぬ。そう、謙遜なさらなくても結構ですよ」

(そう言えばそうだった……。というか現界ってなんだよ……)

 言われてみれば確かEDENにおけるモケノーの設定は――

 『モケノーはその全員が兎や猫を始めとした様々な動物の耳と尻尾を持っている。また全てが幼い人間の少女の姿をしており、それは一定年齢まで成長してからは死ぬまで変わらない。さらに非常に長寿であり、平均200年は生きる大自然の守護者たる種族である』

――という感じだったはずだ。

(ってかこの世界にもEDENと同じくモケノーという種族が居るって事か……)

 一応新しい情報が手に入った事に微かな喜びを覚える。

 とはいえ、今までのやり取りで精神的に1万のダメージを食らったのに対し、今ので辛うじて百程度のHPが回復したようなものだが。


「しかし、本当に女神様はお美しい……。もし妻が居なければ一目惚れしていたかもしれません。まさに女神様と呼ばれるに相応しいお姿ですッ!」

「あははっ……ありがとうございます……」

(そりゃ……ゲームをプレイする前のキャラメイクに一ヶ月もかけたからな……)

 その努力がここに来て裏目に出た事に思わず泣きそうになる。

(涙が出ちゃう。だって男だもん……)

 

そんな大昔から続く古典的なネタを内心で呟いて気を紛らわしていると、不意にミカーナが口を開いた。

「そういえば、先程村長様が言っていた、願いとは何でしょうか?」

(よしっ!いいぞ、ミカーナ!)

 中々進まなかった話をミカーナが進めてくれたため、内心でガッツポーズをする。


「ご存知、ないのですか?」

「実は、俺とミカーナは神様の指示でこの世界に転移したばかりでして、いまいち情報が掴めていないのです」

 もう面倒なのでほとんど本当の事を話す。

 普通の状況であれば『女神の力転移した』とか言った所で信じてもらえないだろうが、この状況ならかえってこう言ったほうがいい感じに事態が進みそうな気がした。


「なるほど……。つまり貴方様は女神様の使い……いや神の子という事でしたか」

「え……いや。もう、はい。そんな感じですね……」

――THE・妥協  

 既に『いや、思いっきり勘違いしてるよ!』なんて事を説明する気力も無かった。

 もう何か、何を言っても裏目に出る未来しか見えなかったのだ。


「では改めて説明します。我々の願いとは、この周辺を荒らすクリスタルボアと呼ばれる凶悪なモンスターを討伐して貰う事です。もう既に幾人かの村人が犠牲になっているのです……」

「な……なるほど」

 まさかの返答に自身の心臓が跳ね上がるのを感じた。

(クリスタルボアならさっき倒したぞ……!)

「ちなみに、数はどれ程ですか?」


「えっと、確認されているのは二体だけなのですが、如何せんその驚異的な強さ故に並の冒険者では歯が立たず、依頼を受けてくれた腕利きの『中級冒険者』3名が死体で見つかる始末でして……。おまけにその強さにより近くの森の生態系が乱れたらしく、ゴブリンやオーク、のような下位の魔物やクーガのような猛獣まで村の近く現れてしまい我々は途方に暮れていたのです」

「それはそれは……苦労なさっていたのですね」

(考えろ……考えるんだ。これはチャンスだ。上手く会話を持っていけばこの状況を打破する事が出来るかもしれない)


「ご安心下さい。クリスタルボアでしたら既に先程繊月様が討伐されましたよ」

「なんですとオォォォォ!?」

「ふふっ、こちらがその証。クリスタルボアの牙です」

「おぉ……間違いない、これはクリスタルボアの牙だ……。この王国に出現する魔物の中でも上位に位置するクリスタルボアを、たったお二人で撃破するとは……やはり神の子は凄まじい……」

(もうやめてぇぇぇ!? 話の収拾がつかなくなっちゃうぅぅぅ!)


 そんな事を考えていた繊月の作戦をミカーナの発言が再び木っ端微塵に砕く。

 ふと見れば、まるで村長に見せつけるようにミカーナは先程採取したクリスタルボアを手に持っている。

 どうやらこの世界では精霊と繊月のインベントリは共通の物になっているようだった。なんてこったい。


『救世主だッ!』『英雄だっ!』『女神様万歳! 天使様万歳!』『今日は祭だッ!』『やっぱ幼女は最高だなッ!』『モケノーの古神の伝説が今、この村に再臨しているッ!』『俺! ちょっとモケノー連合国に亡命してくるッ!』

 なんて歓声が背後から聞こえてくる。

「うふふっ、困っている人を助けられたのであれば、それこそが私達天使の喜びです。そして恐らく繊月様もそこまで考えていての行動でしょう」

(考えてねぇよ……)

 ただ単に森に居たら襲われたから、様々なテストを兼ねてシルフと共に倒しただけである。


「なんと……素晴らしいお心をお持ちなんだ……まさに神だ……」

「そうでしょう……。それに繊月様の素晴らしさはそれだけではなく――」

(最早俺はいらないんじゃないか?)

 と繊月が思う程に村長とミカーナは勝手に盛り上がり始める。

 話の内容は言うまでもなく繊月のよいしょ合戦だ。


「……浄化風プリフィケーションウインド

 とりあえずまた胃が痛んだので、最早何度目かもわからないデバフ解除の魔法を静かに唱える。



(元の世界に戻る頃には胃に穴が開いてるんじゃないんだろうか……?)

――そんな不安を抱きながら、周囲の喧騒を他所に繊月は一人頭を抱えていたのだった。




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