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第一章「精霊使いと精霊達」 Page-4

「――しかし、このインベントリの仕組はこちらでも健在とは思いませんでした……」

「確かにな。一体どういう仕組なんだか……」

 ――二人の身長よりも大きなクリスタルボアの牙だったが、今は繊月の管理するインベントリという謎の空間に綺麗に収納されている。

 この仕組みはEDENをプレイしていた時にも疑問を覚えたが、とある仲間の言った『あの大昔から有名な、某ネコ型の四次元ポケットと同じ原理なんじゃね?』という言葉を聞いて、そんな感じか。

 と、それ以来は納得していた。

 ちなみに取り出したり使用する時はそれをイメージして異空間を弄るか、使用宣言ショートカットをすればいい。

 

「よし、それじゃあ村に向かうとするか」

「はい!」

「あー……その前に悪いけど、一度シルフを召喚を解除してもいいか?」

「がーん……」

 そう言った瞬間シルフがまるでこの世の終わりのような表情を浮かべる。


「な、何故ですか?もしや主様の意にそぐわない事をしてしまいましたか……?」

「うっ、ごめんな、シルフ。その君が悪い訳じゃないんだ。ただ……正直陸地を歩くより空から一気に行ったほうが近いから、さ」


「あー……うん、そうですよね。私の力じゃ主様を持ち運ぶ事は出来ませんもんね……。って事はつまり召喚するのは竜族のあのドラコで?」

「い、いや、流石に幼神竜ドラコの飛行形態で村に飛んで行ったら驚かれそうだし、ここは力天使ミカーナの背中に乗っていくつもりだ」

「なるほど……天使のミカーナの姿なら無用な警戒心を持たれる心配も薄そうですもんね。流石は主様……」

 

「……では私は一度、精霊樹わたしたちのいえへ戻ります。何かありましたらすぐにお呼び下さい」

 そう言うとシルフは少しだけ悲しそうな表情のままに召喚された時と同じように跪く。

「うん。ありがとうシルフ。君の事は本当に頼りにしているよ」

「はっ、ありがとうございます。その言葉があれば私は生きていけますっ」 

 直後、シルフの姿が幻想的な光の粒となり徐々に消えていく。

 それからシルフの姿が完全に消えるまで見送ると、繊月は表情を引き締めて前方に短杖イロアス・サヴマを構える。


「さてと……それじゃあ力天使ミカーナを召喚するとするか」

――力天使ミカーナとはその名の通り天使であり、厳密には精霊ではない。

 だが、非常に高難易度で知られるとあるクエストをクリアした報酬に力天使ミカーナを召喚するための特殊な契約を繊月は結んでいた。

 ちなみに召喚スキルとしてのランクはシルフと同じ『第二位』。ミカーナ自身の性能は『第三位』クラスの回復スキルと光属性の魔法スキルを使える代わりに、シルフと違い物理攻撃スキルを一切持っていないといった感じだ。 

 サブヒーラーが欲しいダンジョンや、悪魔属性の敵が出るダンジョンではよく活用した存在だった。


「すぅーはぁー……。よし、召喚サモン力天使『ミカーナ』っ!」

 深呼吸をすると、宣言と同時に短杖イロアス・サヴマを前方へと振るう。すると自身のMPの8割が消失する感覚と共に、天空から一本の光の柱が降り注いでくる。

「っ……!」

 ゲームと違い一切の光量制限がかけられていないらしく、その眩しさに思わず目を瞑ってしまう。


――やがてその光の柱が消滅すると、そこには水色の長髪を持った20代前半の見た目の美女が会釈をしながら佇んでいた。

 まず最初に目を引くのはその豊満な胸だ。一応所々に豪華な装飾の施された青い金属で作られた鎧を装備しているのだが、思わず『防御力とか大丈夫なのか?』と言いたくなるようにへそや太もも、そして胸の一部が露出している上に、会釈によりその体が繊月の方へと傾けられているので、嫌でも目に入るのだ。

 ぶっちゃっけるとめちゃくちゃエロい。

 

――だが  

(シルフに密着された時もそうだけど、ドキドキはすれど性欲はあんまり抱かないな……)

 性別的には女性に分類されるモケノーの種族になったからだろうか。中身は男なのに、そんな格好を見ても性欲のような感情はあまり浮かんでこなかった。

――まぁ実際ほんの僅かには抱くのだが、余裕で我慢出来るレベルだった。


「力天使ミカーナ、繊月様の召喚に応じ馳せ参じました。どうぞ、ご命令を」

 繊月がそんな事を考えていると、ミカーナは澄んだ声でそう言って、背中から生えた4対の純白の羽をバサリッと羽ばたかせる。


(やっぱりシルフだけじゃなくて、他の存在も自分の意志を持っているみたいだな……)

「コホン。えっと、これから北東の方向にある村に向かいたいと思うので、背中に乗せてくれないか?」

「なるほど、お安いご用です」

 そう言うとミカーナは優しく微笑んで、繊月の下へと歩いてくる。

(でかい)

 改めてそう心の中で呟く。こうやって間近で見ると胸は勿論、身長もモケノーの種族となったため、140センチ前後しかない繊月より20センチは高い。


「どうぞ、繊月様」

 そんな最低な事を考えている間にミカーナは繊月の足元で背中を向けると、乗りやすいようにだろう。しゃがんでくれていた。

「ありがとう。ミカーナ」

――スッ

「ん……ではこれより飛行を開始します。振り落とされないようにしっかりと私の羽に捕まっていて下さいね」

「了解ー」


(よし、それじゃあせっかくだし空の旅を堪能してみるか)

 そんな思考と共にミカーナの背中にしがみつく。

 その様子は二人の身長差のせいもあり、まるで幼い子供をおんぶする近所のお姉さん、といった図に見えなくもない。

(これから俺が味わう景色と感覚は同じ空の旅でも、飛行機のように窓越しに見るのと違い生のものだ)

 恐らく中々経験できないであろうそれをじっくり堪能すべく繊月は期待にまな板同然の胸を膨らませ――


「ぷごっ!?」

 次の瞬間、蛙の潰れるような声と共に意識を失いかけた。

(ちょぉぉ! 早い、ってか早過ぎるよミカーナさんっ!?)

 必死にしがみつきながら心の中で抗議をするが、当然通じない。そしてあまりの風圧に当然口も開けない。

 景色が一瞬で彼方へ流れていく。これはどう考えても『空の旅を楽しもう』とかそういうレベルじゃない。

(だって飛び立つ瞬間なんか衝撃波出てたもんっ!? あれ絶対ソニックブーム的なアレだよねっ!?)


――ピタッ

「着きました」

「ぐぼぉっ!?」

 そんな地獄を味わう事おおよそ8秒。突如としてミカーナがピタッと静止する。

 その際に狐耳銀髪美少女の見た目のキャラが決して出してはいけないような声が漏れ出たが、気にしてはいけない。 

 

 真っ青な顔をしながら繊月が視界を真下に向けると、確かに目的地となる村があるのだが、どう考えても人が――いや、正確には人じゃなくてモケノーなのだが――味わっていいレベルじゃない『急加速→急停止』をモロに喰らったせいで繊月はぶっちゃっけ瀕死になっていた。

 それを現すように狐耳もピクピクと痙攣をしている。

 

「どうしました、繊月様?」

 真顔でミカーナが問いかけてくる。

「うっぷ……なん、でもない……」

(天使らしく真面目なんだろうけど……天然だ……)

――天使と人の間には致命的な身体能力や感覚の差がある事をこの日、繊月は学んだ。



(あっ、これやばい――吐く)

 

 


――その日、とある村の一角に謎の雨が降ったのだった。



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