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幕間―四 ケモミミの王女様

「…………ふぅ」

――大陸北部に存在する大森林。そこに様々な獣人や獣種族、そして獣耳少女の姿を持つモケノーで構成されるモケノー連合王国と呼ばれる国家があった。

 

 その首都『レイノール』にある王城の屋根に、月明かりに照らされながらお猪口のような物で酒を飲んでいる一人のモケノーが居た。

 夜風にさらさらと靡く腰まである銀色の髪を持ち、黄金色の狐の耳と尾を持つ少女の見た目は繊月と何処か似ている。

 だがその尾が三本ある事や、瞳の色が紫ではなく淡い赤色な事、そして身に纏う服装や雰囲気が全く異なるため別人だという事がわかる。


「はぁ、城の何処にも居ないと思ったらこんな所にいらしたのですね、ルナ様……」

 ルナと呼ばれたモケノーがお酒のおかわりを注ごうとすると、息を切らしながら背中に双剣を背負った犬耳と犬の尻尾を持ったモケノーが屋根へとあがってくる。

「あら、見つかっちゃったかしら?」

 特に悪びれた様子もなく少女がペロッとイタズラっぽく舌を出す。

「ぜぇ……ぜぇ……このようなお戯れはお止めください。また近衛が血眼になって探していましたよ」 

「あの子たちは本当に熱心ねぇ……。しょうがない、このお酒を飲み終わったら戻るわ。悪いけどリリィ、あの子たち(近衛兵)にはそう伝えておいてちょうだい」

「わかりました。しかしなんでまたこんな寒い日に屋根の上に?」

「…………昔を思い出していたのよ。それに、こんな雲ひとつない夜空に浮かぶ綺麗な三日月――いえ、繊月を見られる機会なんてそうそうないでしょ?」

 

「繊月……確か三日月の別な呼び名でしたっけ……。そんな名前の英雄がエルピディア王国で誕生したという噂を聞きましたが――」

「――綺麗な月が出ている……ならそれを肴にお酒の一つでも飲んであげないとお月様に失礼だわ」

「はぁ……。本当貴方らしいと言いますか、なんと言いますか……。とりあえず体を冷やして体調を崩さないようにして下さいね」

「うふふっ、わかってるわよ。ありがとう、リリィ」

「いえ、これが仕事ですから……。では私は城内に戻りますね、ルナ様……いえ――」


「――古の三英雄の最後の生き残りにして、我が王国の最高戦力である『ルナ・ノワール』陛下」

「あらあら、何処に聞き耳が立っているかもわからないのに私が古の三英雄だという国家機密をそんなペラペラと話してはダメよ、リリィ」

 そう言ってモケノー連合王国の女王、ルナ・ノワールは妖艶な笑みを浮かべる。

 その様子にリリィ・ルーミエルは同性であり、部下としておよそ百五十年前から仕えているにも関わらず、ドキッとしてしまう。


――そう彼女こそかつて繊月が最初に訪れた村でその存在を例えられた、この世界なら誰もが知っているお伽話、『伝説の三英雄』の物語の生き残りだった。

 つまりルナは見た目こそ十代前半の少女だが、その実年齢は五百歳を優に上回っている。

 これはモケノーの平均寿命が二百年前後な事から考えると異常な年齢だ。そのためルナの長寿の理由には様々な噂が立っていたりするのだが、それはまた別の話としよう。



「こんな寒い星空の下に聞き耳を立てに来る物好きなんて居ないわよ。――あぁ、そうそうリリィ。一つ伝え忘れていた事があるのよ」

「っと、伝え忘れていた事ですか?」

 屋根を降りようとしていたリリィがその場で静止すると、ルナの方へと顔だけで振り返る。

「えぇ。私は明日からしばらく旅に出るから。ちょっとエルピディア王国の方まで、ね」

「…………はぁぁああああぁぁぁ!? エルピディア王国って、貴方はご自分の立場がわかっているんですかっ!?」

「王国の皆の希望で大事な大事な王・女・様っ♪」

「わかってるならお止めくださいっ! 貴方に万が一があればこの連合王国は間違いなく崩壊しますっ!」

 全く意図が読めない主の言葉にリリィが素っ頓狂な叫び声をあげる。


「ああ、そうそう。国宝のアレも持っていくから。私が留守の間はこの国をよろしく頼むわね」

「ちょっ、アレまで持ち出すおつもりですかっ!? なんでまたそんな事を急に!?」

「うーん……そうね。しいて言うなら『約束』を果たすためかしら?」

「や、約束、ですか?」

「そう、約束。遠い昔に大事な……とても大事な友と交わした夢と約束を果たすために、ね」

 先程までと打って変わって、優しげな笑みを浮かべたルナはお猪口へ注いだお酒を一気に飲み干し、夜空に浮かぶ三日月を再び眺めたのだった。


「待っていて、――――」


――静かにそう呟いたルナの声は、リリィの『私はどうすればいいんだぁぁぁ』という慟哭と夜風の音にかき消され誰の耳にも届く事は無かった。





 

前話での告知通り、こちらの物語は一旦完結となります。(細かい理由とかは活動報告の方で書くかもしれません)

中編となるあちらが完結次第こちらの続きを執筆しますので、よろしくお願いします。


http://ncode.syosetu.com/n8502db/

こちらが件の新作になります。時間軸や大陸は異なりますが、設定や世界は同じなので良ければこちらも見て頂ければ幸いです。

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