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第四章「決戦・魔将軍」 Page-7

「……朝か」

 王城に用意された豪華な一室のベッドで繊月は目を覚ました。

 陽の昇り具合を見るにまだ早朝だろう。


――あの後、王都に凱旋した繊月を待っていたのはそこに住まう民達の大歓声だった。

 『二度王都を救った英雄』『救国の銀麗姫』『救世主の女神様』――様々な呼び名が一日で付いた。

 そんな中帰還した英雄たちを祝うパレードや式典は当然のように開かれ、繊月はその中心人物として祭り上げられた。

 だが、どれだけの美辞を重ねられてもその心は決して晴れなかった。

 その原因は言うまでもなく――

「リリアンヌ……シルフ……」

 

 繊月の脳裏に二人の少女の顔がフラッシュバックする。

 片やこの世界に来てから相棒のように戦ってきた存在。そして片や劇的な出会いを果たしてから昨日まで共に冒険を続けてきた存在。彼女はこの世界の事をほとんど何も知らない繊月に様々な事を教えてくれた。そういう意味では恩人とも言える。

――そして繊月の頬に口づけを――

「はぁ……なんだよ、ごめんなさいって」

 リリアンヌと最後に視線を交わした時の悲しげな表情が思い浮かぶ。

 あれ以降彼女は式典でも繊月とは碌に口も聞かなかった。

 この分では恐らく今からリリアンヌの所へ出向いても門前払いされるのがオチだろう。


「……このまま旅に出ちまうか?」

 リリアンヌの指示で既に繊月の旅に必要な道具は揃えられ、今は全てインベントリの中に入っている。

 そのため、リリアンヌの言葉通りすぐに旅に出ようと思えば出られるのだ。

 だけど彼女から何の話も聞かないままに旅に出ても、心のなかにモヤモヤを抱えたまま行く事になるだろうと、繊月は考えていた。

「門前払いを覚悟の上でもう一回会いに行くか」

 そう誰にでも呟くと繊月はベッドから身を起こして――

「あら。誰に会いにいくのかしら?」

 突如として扉の方から響いた声に身を固くする。

「おはよう、センゲツ。よく眠れたかしら?」

 繊月が最早聞き間違えるはずもない声の主、リリアンヌ・フォン・エルピディアがそこに居た。



「リリアンヌ……」

「ふふっ、英雄の門出なんだからそんな悲しい顔をしないの」

 リリアンヌはまるで昨日の悲しい顔が嘘のように微笑んでいる。

「お前……どうして昨日は……」

 そんなリリアンヌへ繊月は心の中の疑問を吐露しようとする。

 だが、それを吐露しきる前にリリアンヌが口を開く。


「――本音を言えば私は貴方と別れたくないわ」

「っ……ならどうして昨日はあんな事を?」

「……貴方には主としてすぐにシルフを追う義務があるわ。昨日貴方が言った通り、北部の戦線に情報収集をしながら向かうという形でも構わないから、ね」

「…………わかってるよ、それくらい」

 大事な配下が困っているのであれば、それを探すのは主として当然だ。リリアンヌの言葉は理に適っていると言えるだろう。


「貴方程の存在が私個人という雑事囚われてはダメよ。貴方はこの世界を救う英雄なのだから。――だけど、約束するわ。王都が安定したら、予定通り貴方と合流する、ってね。だから待っていてちょうだい」

「わかった……。待ってるぜ」

――繊月は自身の様々な感情や言葉を飲み込んで言葉を紡ぐ。

 今日ここを発てば王都での情報収集は出来なくなるが、その分北部の戦線に向かえば多くの兵士の命を救い、今ならまだ遠くに行っていないはずのシルフの足取りを掴む事も出来るはずだ。


(リリアンヌは自分の事よりも、王都の兵士とシルフの事を優先しろ、って言っている……まぁ、アイツらしいよな)

 時間が経過すればする程にシルフは遠くへ行ってしまうだろう。

 なら彼女の言う通りここで立ち止まっている時間なんて無いのだ。

 

「……私は次に貴方と会うまでにもっと強くなってみせるわ。今回の戦いでは正直言って私はほとんどお荷物だった。――私は貴方に出会ってから結局今日まで助けられっぱなしだったわ」

「いや、お前は――」

「いいの。それは私が一番よくわかっているから。ふふっ、見てなさい、センゲツ。次に会うときには今度は私が貴方を救ってあげるんだからっ♪」

 そう言うと、リリアンヌはニコッと屈託のない笑顔を浮かべた。

「ふんっ、期待してるぜ、リリアンヌ」

「ええっ!」




───────────────────────────────────────────────────────────




「――それじゃあそろそろ私は行くわね」

「あぁ。さようなら、とは言わないぜ」

 あれから二人は昼になるまで、まるで時間を忘れたかのように様々な言葉を交わした。

 それにはとりとめのない雑談もあったし、出会ってからのおよそ一ヶ月の間の思い出話なんかもあった。

 だが事後処理の件でリリアンヌを呼びに来たザールが部屋を訪れた事でその時間は終わりを告げた。


「ふふっ、私もそのつもりよ。それじゃあセンゲツ――また(・・)、ね」

「あぁ。また(・・)、な」

 フッと微笑むとリリアンヌはその場で踵を返し、部屋を後にした。


「――シルフが居ないのに貴方と二人で居たらそんなのフェアじゃないし、ね」

 その際に小さく何かを呟いた気がしたが、その言葉を聞き取る事は出来なかった。

 




───────────────────────────────────────────────────────────



「いよいよ……だな」

 あれから身支度を整えた繊月は王城を出ると、赤兎に騎乗しながら王都の北門の出口へとたどり着いた。

 そんな繊月の背後にはザールを始めとした無数の見送りの騎士や民達が居る。しかしやはりと言うべきか、その中にはリリアンヌの姿はなかった。

 だが繊月はそれで十分だった。何故なら再会の約束は既にしているのだから。

 ならばこれ以上は何も語る必要はない。


 恐らく彼女は今この瞬間も、一秒でも早く王都を立て直すべくりりセアと共に奮戦しているのだろう。

――やがて繊月と少しでも早く再会するために。


「さて、リフィーリアが来たら出発な訳だが……」

 しかし、どれ程待ってもこれからの旅の相棒となるはずのリフィーリアが来ない。

 それを訝しげに考えていると繊月の下へ息を切らせながらミリアが到着する。

「ど、どうしたんですか、ミリアさん。そんなに焦って……」

「じ、実は……リフィーリア殿へ急に帝国から招集がかかって、センゲツ殿の旅へ同行出来なくなったのです……」

「ま、マジか……。それで待ち合わせの時間になってもリフィーリアが来なかったのか」

「はい……。ど、どうします? 数日の時間さえ頂ければセンゲツ殿に相応しい護衛を冒険者や周辺の騎士から見繕う事も出来ますが……」

「いや、王都がゴタゴタしている時にそんな迷惑はかけられませんし、このまま一人で行きます」

「なっ!? しかし王都周辺と違って北部に行けば行くほど、治安の悪化や強力な魔物との遭遇の危険性が――」

「あははっ、大丈夫ですよ。一人でもそう簡単にやられる程やわじゃありません。それは一緒に戦ったミリアさんもよく知っているでしょう?」


「う……そう言われると私からは何も言えませんね……。確かにセンゲツ殿が魔物に敗北する絵が思い浮かびませぬ」

「まっ、そういう事なので、ミリアさんは気にしないで下さい」

(それにぶっちゃっけた話、精霊を召喚すれば一人旅にはならないし、な)



「よし。それじゃあ、俺は行きます。皆さんいつかまた会いましょう」

「はっ! 王国の兵士一同、センゲツ殿の武運長久をお祈りしておりますっ!」

 そう言ってミリアが敬礼をすると同時に、背後に居る民衆や騎士から大きな歓声があがる。

 繊月はそれに軽く手を振ると一度深呼吸をし、その直後赤兎と共に大地を駆け抜け始めたのだった。




――この日、繊月の新たな旅が始まった。




区切りが良いので多分次で本作は一旦完結します。

次章が始まる前にストーリーや展開上どうしても書いておきたい十万字程度の新作があるので、一旦そちらを執筆します。その後再びこの繊月さんの物語の続きを再開する予定です。

尚、新作は同世界の物語で時間軸&舞台となる大陸が違う感じです。(数百年過去の物語になります)

そのため一部の設定や登場人物が引き続き登場するので、もし良ければ見て頂ければ幸いです。

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