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第三章「崩壊と救国」 Page-7

「――ねぇ、センゲツ?」

「……なんだリリアンヌ」

「私って多分…………いえ、やっぱりなんでもないわ」

「なんだよ、そんな言葉お前らしくないぞ」

「ふふっ、まぁたまにはこういうのもいいでしょう?――それより、そろそろね」

「ん、あぁ。俺の探知が正しければ、この森を抜ければすぐに魔将軍の砦とやらがあるはずだ」

 

――式典が終了してから半日後、繊月とリリアンヌ達は王都に残存していた兵力の半数、及び近隣の城塞から最低限の兵力を残し、抽出した戦力――数にしておおよそ四千――を率いて西の山脈を目指し出撃した。

 それからさらに半日の時が経過した現在まで、はぐれ魔物と呼ばれる存在との極々小規模な戦闘を除けば、これといった問題も無く作戦は進行している。


――いや、強いて挙げるなら問題が一つだけあった。

 現在繊月達が歩みを進めている、山脈の手前に広がる森林地帯にて王都から逃走したと思われるソックやブロドの配下の死体――といっても夥しい数の肉片や鎧の破片が残っている程度だが――や戦闘の痕跡が発見された事だ。

 恐らく、彼らは王家の秘密通路より脱出後、この地点にて魔将軍の配下と思われる魔物に襲撃を受け全滅したのだろう。

 唯一生還した女騎士による襲撃位置の情報的とも一致するため、そう考えるのが妥当だった。


――パーン、パーン、パーン

 不意に三カ所から同時に魔法による青い信号弾が打ち上げられる。

「青……全隊健在。さらに襲撃も無し、の合図だったか」

「その通りよ」

 そう、これは作戦に従い、森林手前で三つに隊を分けた部隊の定時連絡だった。

 彼らには当初の予定通り本命かつ、今の王国最高戦力である繊月やリリアンヌ、リフィーリアを擁する部隊が魔将軍の下へたどり着くための囮として動いて貰っている。


 そのため今現在繊月の周囲に居るのは上述のリリアンヌとリフィーリア、そしてその護衛として選ばれた、ミリアと呼ばれる女性の女騎士が率いる三十名程の騎士達だった。

 彼らこそ、今の王都に居る中で最も忠義に厚く、実力に優れた者達だ。恐らくリリアンヌの危機が迫れば自身の命を顧みず、彼女の盾となるだろう。

 その中でも騎士団を率いるミリア――昨日謁見の間に居たドイル伯爵の配下らしい――は中々の腕を持っているらしい。

 年齢は十九歳くらいだろうか。肩まで届く茶髪のセミロングを持ち、貴族の騎士らしい気品の漂う顔立ちをしている。

 装備は重厚な白金の全身鎧フルプレートと、身の丈以上の大きさを誇る大盾を持っており、白馬に跨るその姿はさながら聖騎士パラディンのようだ。

 ちなみにその騎士の内訳は、前衛と呼べる近接装備を持った者は20名。後衛と呼べる魔術師マジシャン聖職者プリースト付与術師エンチャンターに属する者が10名という具合だ。


「――ヒヒンっ!」

「そうか、敵が近いか赤兎」

 不意に繊月が跨る赤い軍馬――赤兎が警戒心を露わにした鳴き声をあげる。

 EDENではサービス開始以来からの相棒である歴戦の戦士とも言える彼(?)からはっきりと緊張感が伝わってくるのがわかる。

「そのようね……。森の出口も見えてきたわ。総員陣形を再確認し、警戒態勢」

 リリアンヌが馬上から声を発する。 

 それにより、元々周囲で高まっていた緊張感がさらに高まっていくのがわかる。

 そんな中で唯一表情を変えないのはリフィーリアだけだ。


(この人、めっちゃ美人だけどホント冷静……ってか無口だよなぁ)

 横目でリフィーリアを見ながらそんな事を考える。

 ちなみにこの場にはシルフの他にもリリセアやザールのような重要人物は来ていない。

 というか本来であれば王女であるリリアンヌもこの場には来ないはずだったのだが、『この状況下で王女が後ろで旗を振っているだけで、兵や民が安心出来ようか』という一言で無理やり付いてきている。

 そのため、王都を出る際にザールや様々な貴族に、くれぐれもリリアンヌ様の命だけは守ってくれ。と何度も頼まれたものだ。


(本当はリリセアちゃんも来たかったんだろうが、作戦が失敗すれば最悪王家の血筋がここで途絶えるという可能性や、足手まといになるって考えて我慢してくれたんだろうな……)

 繊月の脳内に、笑顔で姉や兵士たちを送り出したリリセアの姿が蘇る。

 恐らく内心には様々な葛藤があったはずだ。

 だが、それを口に出さずに行動出来る辺り、彼女はやはり立派だと思う。

(まぁ、シルフに万が一の時はリリセアちゃんを連れて王都から逃げろって言ってるし、身の安全は保証されてるとは思うけどな……)


「――リリアンヌ様、センゲツ様、森を抜けました。前方に石で作られたと思われる建造物があります。恐らくあれが砦かと」

 そんな思考に耽っていると、数メートル前方を進むミリアが口を開いた。

 敵がいつ来てもいいようにだろう。大盾をしっかりと前面に構えている。

 いよいよだな、繊月が改めて気合を入れた瞬間――


――バーン バーン バーン

「っ……! 赤っ!」

 先程と同じように三箇所で同時に信号弾があがる。

 だが、その色は先とは違い赤。そしてその赤が指し示す物とは――

「同時に襲撃……しかも赤という事は苦戦は確実、のようね」

「……だな。――こっちにもお出ましだぞっ!」


「キシャアアアアアアッ!!」

 繊月が口を開くと同時に森の後方で無数の金切声があがる。


――それが戦いの開始の合図だった。




これにて第三章は終了となります。

いつも読んで下っている方、ブクマや評価、感想を入れて下さっている方本当にありがとうございます。

非常に励みになります。

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