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第一章「精霊使いと精霊達」 Page-2

(し、シルフが喋った……!? そんな事があり得るはずが)

「……主様?」

 そう言うとシルフは跪いた状態のまま顔を上げ、可愛らしく首を傾げながら不安そうな表情を、黙ったままの繊月へと向けてくる。


――シルフの見た目は人間の年齢で言えば16歳くらいだろうか。身長は繊月より約10センチ高く、おおよそ150センチ。瞳の色は鮮やかな金で肌はやや白いが決して不健康というよりは美しい色白の肌、といった具合だ。

 そしてその顔立ちは誰が見ても美少女と言えるレベルだ。

 服装は青緑色のブラウスとスカートで、それは春風のように清楚な雰囲気を持つシルフにとてもよく似合っていた。

 だがシルフが人間ではない事の証左として、エルフのように尖った耳と、背中から生えた二枚の透明な羽があった。


 

(一体……何が起きているんだ) 

――繊月は激しく混乱していた。

 何故なら、精霊はEDENにおいて自分から喋ったりなんてしないのだ。

 一応簡易命令スキルの『待機命令』や手動の操作である程度自由に動かせるとはいえ、このように忠誠を誓うように跪かせたりする事もシステム的に不可能だった。

 『精霊とは自分の意志を持たず、プレイヤーが召喚し、使役出来るNPCである』これがEDENプレイヤーの共通認識だ。

 

(――だが、目の前の存在はどう見ても生きている)

 現によく見ると、僅かな膨らみを感じさせる胸が呼吸により静かに上下し、瞬きをしている。そして背中の羽も時折、ピクピクと可愛らしく呼吸に合わせて動いているのがわかる。


(これは一体……?)

 その原因を探るべく繊月は益々思考の海に沈んでいこうとしたが――

「あの……もしかして私は何か主様の怒りに触れる事をしてしまいましたか……?」

「もし、そうであればこの風精王アネスト・シルフ、この命を持って主様に償いを――」

「わーー!待った!」

 繊月の反応が無かった事を怒っていると勘違いしたらしく、シルフは自身の武器である剣を何もない空間から出現させ、首元へと宛てがったため繊月は慌ててそれを止めに入る。

 

――ぎゅっ

「あ、主様っ!?」

 繊月は杖を素早くその場に置き、シルフが剣を持つ手を両手でしっかりと包み込む。

 直後、シルフが驚きと共に裏返った声を発する。その際に頬と耳が真っ赤に染まっていたが、必死な繊月は気づいていない。

「死んじゃダメだ! 俺にはシルフが必要なんだッ!」

「う、うぇっ!?」

 こんな右も左も分からない状況で頼れる精霊を失うわけにはいかなかった。

 そしてこれからの事を考えればシルフの持つ多彩なスキルが必要になる可能性は非常に高い。それ故の行動だった。

 

「あ、ありがとうございます。主様。その……そう言って頂けるととても嬉しいですっ……」

 そう言ってシルフは剣を消滅させると、目の端に小さな涙を浮かべながらもう片方の手を伸ばし、繊月の両手を優しく包み込んできた。

――手袋越しにシルフの温もりが伝わってくる。


「主様……。このアネスト・シルフ、他の誰よりも貴方をお慕いしております……」

 目の前に居るシルフが繊月へと真っ直ぐに視線を向けてくる。おまけに何処か艶っぽさを感じさせる吐息と、潤んだ目もセットで。

 外見は清楚な美少女であるため、その艶っぽい雰囲気と見た目のギャップが非常に危険な魅力を醸し出している。

 さらにシルフの匂いだろうか。とても優しい良い香りが繊月の鼻腔をくすぐる。

「あっ……」

 そこで繊月はようやく冷静になる。

 

 今の自身は美少女の手を握られ、体を密着させた上で少しでも動けばキスをしてしまうような状況下に居る。

 これは妹以外にろくに女性と接する機会の無かった繊月にはあまりにも衝撃的だった。

(やべぇ……どうしよう……)

「うふふっ……主様の心臓がとても早く脈打っているのがわかります……」

 そう言うとシルフはさらに艶めかしい表情を浮かべ、ピトッと完全に繊月へ体を密着させてくると、さらに片手を夢杏の手から首元へと移動させ、絡みつくように背後からその手を回してくる。

「わかりますか、主様? 私の鼓動も主様のおかげで、まるで早鐘のように脈打っているのが……」

 完全に密着した体からトクン、トクンとシルフの鼓動が伝わってくる。

「私も今……とてもドキドキしています……」

「その……シルフ、やめて――」

「あぁ……私の、私だけの愛しい主様。この御方こそやはり私が忠誠を誓うに相応しい存在……」

(って全然人の話聞いてねぇ!)


「他の精霊《子たち》には絶対に渡さない……私だけの……」

 シルフが段々と小声になっていく。

 さらに心なしか目から光が消えていくような気がした。

「ひっ……!」

 そこに何故かあの女神と同じ気配を繊月は感じ取った。

(こ、このままじゃ色々と危ない気がする。主に俺の貞操とかが)


(……うん、シルフには悪いけど一度スキルで帰還してもらおう)

 そう考えた繊月は空いた片手でこっそりと杖へと手を伸ば――

「主様っ!」

――そうとした瞬間シルフが素早く繊月の前へと回りこみ、剣を木々が生い茂る空間へと向ける。

 その表情は先程と打って変わり、キリッと引き締まった戦士のものだった。

「し、シルフっ!?」


「……主様は下がって下さい。――敵が来ました」

「っ!」

 直後、前方の茂みがガサガサと揺れ動き、5mはありそうな巨大な体躯を持つ猪が姿を現す。

 だがその猪がただの猪ではない事をその異質な大きさと、殺意が篭った血のように真っ赤な瞳、そして水晶で出来た数メートルにも及ぶ巨大な二本の牙が指し示していた。


「……クリスタルボア」

 ――その猪はEDENで出現するモンスターと全く同じ姿を持っていたのだった。






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