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第三章「崩壊と救国」 Page-4

「――バ、ババババケモノめッ!! コノヨウナことをシテラクにシネルとデモっ!?」

 フレイムバードが恐怖に顔を歪めながらそう言った。

「……それはこちらの台詞だ。お前はさっき情報通り、と言ったな?その情報は誰から聞いた? 今すぐ吐け」

 繊月は自身でも驚くほどに冷淡な声を出しながらフレイムバードの首元へと短杖ワンドを突きつける。

 環境が変わったからだろうか。それとも種族や性別が変わったからだろうか。

 元の世界に居た頃と比べると考え方や人格が少し変わってきているような気がする。


「そ、ソンナオドシにクッスルとでもッ!?」

「――氷矢アイスアロー

「グギャアアアッ!?」

 繊月は自身の頭に浮かんだそんな考えを打ち払いつつ、情報提供を拒んだフレイムバードの羽の付け根へと容赦なく氷矢アイスアローを発射する。

 本来であればこの程度のレベルのモンスターを即死させる威力を持った魔法だが、意図的に本数や威力を抑えたため、それはフレイムバードの羽を吹き飛ばすだけに留まる。


「悪いが時間が無いんだよ。死にたくなかったら知っている情報を全て吐け。さもないと次は殺すぞ?」

「あ、主様っ?」 

「センゲツ……?」

 こんな拷問染みた行為は普段の繊月であれば到底思いつかないし、仮に思いついても実行しようとは思わないような行動だ。

 だが、不思議とそれに対する忌避感や嫌悪感は湧いてこない。むしろ情報を突き止めるには、そして王国を救うにはこうするべきだ、という考えすら出てくる。

 それは後ろに居るシルフや、リリアンヌが怯えた雰囲気と声を発しても変わらない。


「わ、ワカッタッ! ハナスッ、ハナスカライノチダケハッ!」

「早くしろ」

 コツっと恐怖心を煽るように短杖ワンドでフレイムバードの首を軽く小突く。

 それによりフレイムバードの目が見開かれる。恐らく繊月がその気になればいつでも自分を殺せるという事実をよりしっかりと認識したのだろう。

「ココニオウジョがイルってマショウグンサマがイッテイタンダッ!」

「魔将軍? そいつは今何処に居る?」

「そ、ソレハ……」

「話さないと……わかるな?」

 繊月が周囲に魔力を滲ませながら、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。

「ヒッ……ココカラニシにハンニチススンダトコロにアル、サンミャクッ! ソコにあるトリデにイマスッ!」

「お、王国領内に砦があるの……?」

「いつの間にそんな物が……巡回の騎士達は何をしていたのだ……」

 それを聞いたザールとリリアンヌが驚愕の表情を浮かべながら口々に呟いた。


「――おい、本当だろうな?」

「ハイッ! ホントウですッ! だからイノチだけはッ!」

「うん……嘘はついていなそうだな。よし、それじゃあ――さようなら」

「エッ――」

 繊月が顔に笑顔を浮かべると同時に背後の空間から数本の氷矢アイスアローが射出され、フレイムバードを串刺しにする。 


「あ……主様」

「――さてと、それじゃあ早速王都を救うとするか」




───────────────────────────────────────────────────────────




「……はぁ、はぁ」

――少女は一人、暗い路地を走っていた。

 年齢は12歳程度だろうか。背中まであるピンク色の髪を持ち、可愛らしい顔立ちをしていた。

 恐らく少女が今浮かべているような悲痛な表情ではなく、笑顔を浮かべていれば、思わず道行く大人が思わず微笑んでしまう程に。


――修道服と似たデザインの法衣や、見事な装飾が施された長杖ロッドを持っている事から祈祷師シャーマン或いは聖職者クレリックの類である事が想像出来る。

 少女は先程までは数えきれない程の人々と共に、王都へと奇襲を仕掛けてきた魔物から逃げるべく行動をしていた。

 だが、恐らく彼らを逃がすために盾となった騎士達が全滅したのだろう。数体のゴブリンがついに逃げ惑う民衆の最後尾へと追いつき、襲いかからんとした。

 

 それを見た少女は咄嗟に神聖魔法――覚えたての第十位に属する魔法である光弾シャイニングバレット――を連続して放っていた。

 それはほぼ無意識の行動だった。

 そう、少女は今は亡き師の教えを守り、ただただ力の無い民衆を守ろうと行動したのだ。

 それにより数発の光矢シャイニングアローを外しつつも二体のゴブリンを仕留める事に成功し、民衆を救う事が出来たものの、すぐに少女は生き残ったゴブリン達の標的ターゲットとなった。

 

 結果として少女の行動により、その場では民衆は救われたと言ってもいい。

 しかし、まだ幼く未熟な少女はそれだけの魔法の行使でMPを枯渇させてしまい、自身を狙うゴブリンからただただ逃げ惑うしかなかった。

――それからおおよそ5分の時が流れた。少女は肺が破れ、足が千切れそうになりながら、それでも細い路地をただひたすらに疾走していた。

 捕まれば殺される事がわかっていたからだ。


「ひ、ひぃっ……!」

――だが、それは唐突に終わりを告げた。

 そう、路地の前方から複数のオークが現れたのだ。その顔には美味しい獲物を見つけたと言わんばかりの笑みが浮かんでいた。

 さらに後ろから追ってきていたゴブリン達がついに少女へと追いつき、口々に仲間を殺した事への罵倒やら何やらを吐きつけてくる。 

――進路も退路も最早なし。それを悟った少女は恐怖に顔を歪め、立ち止まる。

 その直後、体力の限界を超えて走り続けた疲労や、絶望感、死への恐怖が急速にこみ上げて来る。

 さらに急に立ち止まった事により体が悲鳴をあげたため、嘔吐感までもがこみ上げ、少女はその場に思いっきり自身の内容物を吐き出してしまう。

「うっぷ……おえっ、おえぇぇぇ」

 それを見ていたゴブリンやオークから口々に下卑な笑い声があがる。

 周囲に異臭が立ち込める中、少女はただ想った。

 死にたくない――と。



――少女は孤独だった。

 物心が付く前に住んでいた魔物により住んでいた村諸共両親を殺された。

 そこは最前線にほど近い北部にある村だった。故にその村に魔物が現れたのは不運だったと言えよう。

 そして、その少女も魔物に殺されようとした瞬間、全ての魔物が吹き飛んだ。

――驚愕の表情を浮かべた少女の前に居たのは、下手をすればその年齢は九十代にも届くのではないか、という程の見た目の一人の皺まみれの老婆だった。

 

 老婆はかつてこの王国で最高の魔法使いと呼ばれていた存在であり、無数の魔法使いを育て上げてきていた。

 しかし、寄る年波には勝てず現役を退き、人格面に不安を抱きつつも実力的には最も優れた弟子であるブロド・シェイムにその立場を譲り、旅に出た。

 そしてその旅の最中でその少女を助け、ひっそりと王都へ戻ったのだ。そこで老婆は少女を育てる傍ら、魔法や勉学や自身の知識を教えていた。


 だが、時が流れやがて老婆が寿命で死んでしまう。しかし少女は悲しみつつも、老婆の教え通り魔法で人々を助け、守る道を選び進んできた。

 そしていつかは自分も、老婆のように人々に尊敬されるような立派な魔法使いとなり、魔物に滅ぼされつつあるこの王国を救いたい。そんな夢見ていた。

 そんな折に、魔物による王都の奇襲が発生し、少女は逃げ惑う人々を守るべく、行動をしたのだ。


――少女は非常に立派だと言えよう。

 その幼さにそぐわない立派な心を持ち、自身の境遇にもめげない強靭な魂を持っているのだから。

 それでもやはりこうして死の恐怖が目の前に迫った今、少女は涙を流し、恐怖にその身を震えさせてしまうのだ。

 魔物が一歩、また一歩その命を奪うべくして迫る中、少女脳裏には自身を愛してくれていた両親や、老婆との思い出が走馬灯のように過ぎっていた。


 そして今まさに少女にゴブリンの持つ剣が振り下ろされようとした瞬間――

――薄暗い路地を眩い光が照らした。

「っ……!?」

 少女だけでなく、魔物までもが思わずその手を止め、光に目を細める中少女は辛うじてその光の正体を見る事に成功していた。


「――し、シンシア・ユエル……?」 

 少女が驚愕に目を見開きながら言った名前は、かつてモケノーの国を救ったという古の神であり、大英雄の名だった。

 そう、そこに居たのは昔老婆が見せてくれた絵画に描かれていた神と瓜二つな、銀髪狐耳のモケノーだ。

 モケノーはその絵画と同じように手に持った杖を天空へと掲げると、その瞬間少女がこれまで感じた事のないような魔力の濁流を発した。

 それは偉大な老婆の見せた魔力とは比べ物にならない程に強大であり、思わずその身が恐怖とは別の感情で震えてしまう程だ。

 

『――穢れ無き天空の力よ。この地に存在せし全ての邪なる者を、その神聖なる光で焼き払え。――第二位魔法『シャイン・オブ・リリアンス』』

 

――その詠唱の声は、天高き位置に座するモケノーと相当な距離があるにも関わらず、不思議と少女の耳へとはっきりと届いた。

 次の瞬間杖の先端から数千、いや軽く数万には及ぶであろう光の筋が発射され、王都全域へと降り注いだ。

 その光は建物や人に命中しても何故か一切の被害を及ぼさず、魔物に命中した時のみその命を瞬時に滅却する。

 それは少女の周囲に居る魔物も例外ではなく、数秒後にはまるで初めからこの場に少女以外の存在が居なかったかのように、一切の痕跡を残さず魔物を消滅させていた。


「す……すごい……」

 気づけば周囲から聞こえた足音や、遠くから聞こえてきていた喧騒は止んでいた。

 恐らく、数万という恐ろしい程の数の魔物は今の攻撃で全滅したのだろう。何しろもしあれが幻聴でなければ、先ほどの魔法は第二位という神話級の魔法なのだから。

 

――少女は無意識の内に空に浮かぶ銀髪のモケノーを――救国の英雄を見上げていた。

 今王都に居る全ての人間は間違いなく自分と同じく、あの英雄を畏敬と感謝を込めて見上げているのだろう。

 そんな確信があった。

「あの人……ううん、あの方こそきっと王国を――世界すら救ってくれる英雄なのですっ!」


――少女――エルリット・ルーナは希望を瞳に灯しながらそう、強く夜空へと声を発したのだった。





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