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第ニ章「王国の影と英雄」 Page-9


――朝食を済ませて宿を出た3人は街の中央に陣取る巨大な王城へと向かっていた。

 そんな中、ふと思いついたようにリリアンヌが口を開いた。

「センゲツって意外と抜けている所があるのね」

「な、なんだよ急に……」

「貴方の扱う魔法は言葉じゃ言い表せないくらい凄いし、世界を救おうって志も立派で――殺されかけていた私も救ってくれたわ。……そんなセンゲツは私にとっては英雄ヒーローのような存在だった。だけど、昨日の件とかを見ると貴方も私と同じ一つの生き物なんだなーって思ったのよっ」

 クスッとリリアンヌが微笑む。

「うっ……昨日のあれは反省してるよ」

「ふふっ、貴方に親しみが湧いたから気にしないでちょうだい」

「主様のそういう所を含め全てを支えていくのが精れ――部下である私の勤めです」


――そんなやり取りをしていると、前方に巨大な教会が見えてきた。

 その大きさは村で見たそれの比ではなく、下手をすると教会だけであの村と同じくらいの広さはあるかもしれない。

 ちなみに王城は教会のある通りをさらに奥に進んだ所にある。

「こっちに歩いてくる時にも見えてはいたけど……ホント、こうやって近くで眺めるとめっちゃでかいな」

「はい。しかも何人もの人間が礼拝のために出入りしている所を見るとあそこの神は相当信仰されているのでしょうね」

「ふふっ、良かったら少しだけ中を見ていく?」

「んー、確かに内装とかに興味はあるけど、時間は大丈夫なのか?」

「別に何時までに城に来いとか言われていないしね。ちょっと寄り道するくらい平気よ」

「よし、じゃあお言葉に甘えて少し見ていくぜ」




───────────────────────────────────────────────────────────



――中に入った3人を迎えたのは数十メートルはあろうかという高さの礼拝堂だった。

 左右には複雑な紋様が掘られた石柱や石像、それに絵画等が等間隔で並び、煌びやかなステンドグラスと魔石によって降り注ぐ光が幻想的な光景を奏でている。

 そしてその中に百人以上の人々が椅子に腰掛け祈りを捧げたりしている。


 そんな中でも一際目を引くのは最奥に設置された巨大な女神像だった。

 まるで本物の女神がその場に顕現したかのように思える程の精巧さで作られたそれは、降り注ぐ光と合わさり、ここが天界であるかのようにすら錯覚してしまう。

「これは中々凄いですね……」

「ふふっ、そうでしょう?――あら、センゲツ。なんだか顔色が優れないけど、どうかしたのかしら?」

 中々表情を崩さないシルフですらその壮観な光景にあっけにとられているというのに繊月の表情は優れなかった。

 いや、よく見るとガクガクと体が小刻みに震えているのがわかる。


「な……なぁ、リリアンヌ」

「なに?」

「あ、あの奥にある石像の女神の名前……まさかエルピダとか言わないよな?」

 ギギギ、とまるで油が切れたロボットのような動きでリリアンヌの方へと振り返る。

「あら、知っていたのね。その通りよ。あの女神の名はエルピダ。エルピディア王国民が一般的に信仰している、エルピダ教の神よ」


「…………」

(くされ女神いいいぃぃぃぃぃ!!)

 心の中で繊月は全力で絶叫する。

 何故ならその女神こそ、繊月をこの世界に飛ばした元凶だからだ。

「せ、センゲツ……?なんか顔が物凄く怖いけど……」

「なぁ、リリアンヌ~? あのむかつく石像ぶっ壊していいよな~?」

「あ、主様……頬が引き攣っていますよ……」

「そ、それは流石にまずいんじゃないかしら……。本来私はあまり神とか信じないんだけど、一応大昔は本当に現界していたらしいし40年前に魔物との戦争が始まった時にも北部で目撃証言があったりするし、敬虔な信徒も相当多いのよ……?」

 全身から怒りのオーラを出す繊月を、二人が小声で窘めてくる。

 あれを破壊したら色々とまずいのは頭ではわかるが、当然と言うべきか中々怒りは収まらない。 


(つーか女神像あれ美化されすぎだろっ!?)

(実際に見た時の三割増しくらいになってるぞっ! 主にボディラインとかがっ!)

 繊月が出会った時も性格を除けば見た目は非常に美しい女神だったのだが、石像はそれをさらに美化していた。

 特にそのボディラインがよりボン・キュッ・ボンと強調されている事で、キュッ・キュッ・キュッなボディな繊月と脅威で胸囲の格差社会が生まれてしまっている。

(べ、別にボン・キュッ・ボンボディがうらやましい訳ではないけどなんか腹立つぅぅぅ!)


【――あら、数十年振りに私と対話可能な存在が訪れたかと思えば貴方でしたか】

「…………」

【無視は良くないと思いますよ?】

「……なぁ、シルフ、リリアンヌ。なんか喋ったか?喋ったよな?喋ったって言ってくれ。いや、言ってくださいっ!」

「い、いえ、私は何も喋っていませんが……」

「私も何も喋っていないわ」


【ふふっ、そのピンクのローブ、可愛い貴方にとてもよく似合っていますよ、繊月】

「…………なんか幻聴が聞こえる」

「だ、大丈夫ですか?」

【この女神の声は幻聴なんかではありませんよ?証拠の代わりに像を輝かせておきますので】

「いや、これやべぇよ。なんか幻聴が神とか言っているよ……。なんか石像も光って見えるしさっさと病院行かねぇと」

「……女神像が光った。センゲツ、女神の声が聞こえるのね?」

「あぁ。どう考えてもやばいよなこれ? 朝食になんか幻覚と幻聴を誘発するやばい薬でも入っていたんじゃねーのか……」

「センゲツ実はね……今から40年程前にも女神の言葉が聞こえる存在が居たのよ」

「…………え?」

「凄い存在なのは知っていたけど、まさか女神の声が聞こえるなんて本当に凄いわね」

「流石は主様っ! 神の声すら聞こえるとはっ!」

「待てっ! こんな奴、女神じゃなくてクソめが――」

 不穏な方向に進み始めた事態を止めるべく、繊月は否定の言葉を紡ごうとするが


「神の声が聞こえる存在じゃとっ!?」

「女神像がっ! この子は神の子だっ!」

「美しい……まさに神の子に相応しい存在だ……」

「おい、あれ昨日噂になっていた銀髪のモケノーじゃないかっ!?」

「間違いないっ!白銀の魔術師だっ!」

「女神像が光っておるぞ!」

「40年前の奇跡がもう一度!」

「知ってるぞ!昨日市場で国宝級のアイテムを大量に量産して天に昇っていたんだろっ!?」

「おお、幼女神よっ!」


(おいいいぃぃぃ! なんか事態がおかしな方向に進んでんだけどおおぉぉぉ!?)

 時既に遅し。会話を聞かれていたらしく、周囲の礼拝に訪れていた人々が口々に賛美の声を浴びせてくる。

 中には昨日の事件を知っている者も居たようだが、どう考えても盛大に尾びれが付いている。

(いや、大量に量産はしてねーからっ! しかも天になんか昇ってねーからっ!)

【ふふっ、流石は私の天使。既にその存在を知らしめているようですね】

(うっせぇ! つーか俺の装備とアイテムを返せっ! あれがないせいで色々と苦労してるんだよっ!)


【そこは安心してください。 既に繊月の装備を地上に送る準備はしていますので。二日後に教会に来てくださればお渡しします】

(あ、そうなんだ……案外迅速に動いてくれるんだな……)

【あの件は私も非常に申し訳なく思っているので、謝罪します。すみませんでした。繊月よ】

(まぁ……それなら……本当は許したくはないけど……少しだけ許すよ)

 女神が心底申し訳無さそうな声で謝罪してきたので、繊月の中の怒りのメーターが急激に低下していくのがわかる。

 実にちょろい。


【……少しだけ貴方が心配になりますね】

(え?)

【いえ。それでは二日後にまたここで】

(わかった。しっかり頼むぞ)

【お任せを。あ、それと恐らく数日中に、早ければ明日の夜に魔物が何らかの手段でこの王都を襲う可能性があります】

(え、マジか)

【はい。あくまで可能性ですが。とりあえず各門や周辺の警備を強化すれば被害は抑えられると思います】

(あー……今の門の警備とかガバガバだもんな……。つーかそういうのを教えてくれる辺り本当に女神なんだな)

【うふふっ、これでも人間や貴方の事を愛していますからね。おっと……そろそろ時間切れのようです。それでは警備の件と二日後、よろしくお願いしますよ?】

(わかった)

 そんなやり取りを終えると女神像の光が収束し、女神の声も聞こえなくなる。

「……はぁ、疲れた」


――それから若干げっそりした状態の繊月を出迎えたのは、目を輝かせた人々だった。

 3人はその後礼拝に訪れていた人々にもみくちゃにされ、結局王城の一室に通された頃には正午を過ぎていたのだった。




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