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第一章「精霊使いと精霊達」 Page-1

「――森だ」

 転移先で意識を取り戻した繊月が見たのは陽の光に照らされ、青々と光り輝く無数の木々だった。

 こんな大自然の溢れる光景はEDENの中、或いはかなりの田舎の方へにでも行かない限り現実ではまずお目にかかれない。

「今から100年くらい前なら都市部から少し離れればこんな風景が見れたんだっけ……」

 そう。繊月がつい先程まで居た世界――2120年の日本にはこういった自然の景色はほとんど見ることが出来なくなっていたのだ。

 それをどうしても見たい場合は国が指定した保護地域に行くか、VRMMOのような仮想現実世界に行くしかない。

 

「綺麗だな……」

 故にそれから10分ほど繊月が、生まれてからほとんど見たことのない大自然の香りや雰囲気を堪能するために立ち尽くしたのは仕方がない事だろう。



「さてと……とりあえず状況やら何やらを確認するか」

 そう言うと、まず繊月は自身の格好を確認する。

 左手にはとあるボスからドロップしてから繊月が長年愛用してきた短杖ワンドが握られている。

――名前は神造霊杖『イロアス・サヴマ』。

 杖の先端には淡く光り輝く10cm程の赤い結晶が鎮座し、持ち手を始めとした様々な個所に金や多種の宝石で煌びやかな装飾が施されている。

 それは一目で一流とわかる逸品で、EDENにおいてもその見た目に相応しく、『十等級』から『一等級』まであるランクの内『一等級』という最上位のランクが与えられている。


 その性能は現環境では間違いなく最高峰の一角に数えられ、回復性能こそ同じボスがドロップする神造聖杖という装備に劣るが、その分『魔法攻撃力増加Ⅵ』や『キャストタイム《詠唱時間》短縮Ⅵ』、『リキャストタイム《待機時間》短縮Ⅵ』を始めとした無数の強力な固定オプションを持っている。

 さらに繊月はそれに莫大な金額をかけ『+10』というEDENにおいて最高の強化を施し、『上位バイザン』と呼ばれる、ランダムで追加オプションを付加する特殊な石で、これまた莫大な金額をかけて繊月のEDENでの職業である『エレメンタルマスター』に最適な物が付加されるまで厳選し、付加している。

 

 ちなみにエレメンタルマスターとは最初に選択可能な職業の一つ『エレメンタリスト』の召喚系の最上位職であり、分類としては後衛職にあたる。

 この『エレメンタルマスター』の最大の特徴は自身のMPを消費し、精霊を召喚出来る事にある。種類や性能はプレイヤーに応じて異なるが、少くても10種類程度の数の召喚スキルを保有しているだろう。

 ちなみに繊月は20種類と『エレメンタルマスター』の中でも非常に多くのスキルを所持している。

 さらに『エレメンタルマスター』は召喚スキル以外にも、精霊の力や魔力により敵を弱体化させる豊富なデバフスキルや複数の回復スキルに数々の範囲攻撃スキル。

 そして味方のステータスを上昇させる無数のバフスキルを持ち、謂わば万能後衛職とも言える性能を誇っている。


――ただしその高性能に対しプレイヤー人口は非常に少ない。

 その原因として、固有の精霊召喚スキルを除けば、デバフスキルや回復スキル、攻撃スキルやバフスキルといった物はそれぞれに特化職がおり、操作難度やスキルも、特化職の方が扱いやすく、強力なためだ。


 例えば毒のデバフスキルを使用する場合、特化職は対象を視界に収めて発動させると自動で命中するのに大し、『エレメンタルマスター』はそのスキル効果を持つ精霊弾を杖から発射し、直接対象に命中させなければいけない。

 互いに激しく動きまわる戦闘中にそれを実行するのは至難の業である事は想像に難くないだろう。そして同じ効果を発揮できる場合手軽な方と難しい方がある場合、どちらが良いかというのも。


 おまけに『エレメンタルマスター』の持ち味である精霊召喚スキルも使いこなせば非常に強力ではあるのだが、簡易命令スキルである『攻撃命令』や『待機命令』のみではその性能の真価を発揮する事は難しく、性能をフルに発揮するにはプレイヤーが自身の操作と平行して精霊にも同等の動きをさせる必要があったのもその原因だった。

 それには簡単に言えば『召喚数に応じて2つ又はそれ以上のキャラを同時に操作し続ける』という行為が必須であり、状況に応じて様々な情報を脳内で並列処理出来なければ不可能だ。


 さらにはHPや防御力といったステータスが80レベル前後になるまでは極端に低いため、多くのプレイヤーのレベル上げの手段であるソロ狩りの性能が全職業で一番低いというのも人口の少なさに拍車をかけていた。


 だが、反面高レベルになりキャストタイムを短縮するような装備やスキルの性能を引き上げる装備を身につけ、プレイヤースキルにより回復、支援、妨害、そして精霊の行使。これら全てを十分に熟す事が可能な場合、『エレメンタルマスター』は1枠で複数の後衛の仕事を全て遂行できるという事にほかならなかった。

 故に高い実力を誇り、レベルがカンストし100へ到達した『エレメンタルマスター』は引く手数多だった。


「『ブレッシング』発動」

 そう言って神造霊杖イロアス・サヴマを振るうと体を一瞬だけ緑の光が覆い、次いで力が込み上げてくるのを感じる。

「なるほど……ゲームと違ってショートカットが視界に浮かばない代わりに、スキルをイメージして発動モーションを取ればオッケーなのか」


――今繊月が試したのはスキルにおいて最も下位にあたる『第十位』と呼ばれるランクの攻撃力を上昇させるバフスキルだ。スキルは第十位から強力になる程数字が小さくなり、『第一位』が最高ランクとなる。

 ただし、例外がありEDENにおいて200程ある職業で、それぞれ最も優れていると判断された一人だけが『天位』と呼ばれるユニークスキルを獲得する事が許されている。

 天位スキルは例えば回復職であれば回復系統、大剣を持った前衛職であれば攻撃系等といった具合で職業に応じて内容が異なり、繊月の職業のエレメンタルマスターであれば『精霊召喚』のユニークスキルを持つことが可能となっていて、繊月はそれを獲得している唯一のプレイヤーだ。

 

 当然天位スキルはその名に恥じぬ圧倒的な性能を持っているのだが、その分リキャストタイムが10日間あったり、発動に非常に高価なアイテムが必要だったり、発動と同時にレベルダウンしたり、といった具合に代償もそれなりに大きいため、ここぞという場面で使うプレイヤーが多い。


「――なら次は……全てを護りし盾を皆に。広範囲聖盾ディヴァインシールド

 次いで皐月は確認のために第五位スキル広範囲聖盾ディヴァインシールドを発動させる。

 その効果は自身と周囲の味方に盾の効果を付加し、一定の数値までのダメージを無効化するといったものだ。


「やっぱり装備が整っていないとMPの最大値が大幅に下がっているな」

 繊月は先程のスキルと今のスキルの発動で自身のMPのおおよそ3割が消失したのを感じ取る。

「とりあえずゲームと違ってHPとかMPのバーは視界に出ないけど感覚でわかる……か」

 

 本来であればこの程度のスキルを撃った所でMPは全然減らないし、仮に減っても手袋グローブに付加されたオプション『MP自然回復量増加Ⅵ』やイヤリングに装備された『MP消費量減少Ⅵ』の効果によりすぐに回復するはずなのだ。


「なら、ここは装備を整えるのが最優先、だな」

 繊月はそう言うと自身の体を見下ろす。

 そこにあったのは女神との会話の時まで身に着けていた最上位の装備一式ではなく、ゲーム開始時に配布される初期装備の質素な単色の薄紫色の布のローブと手袋、そして短靴シューズを身に着けていた。

 つまり今は辛うじて持ってくる事に成功したこの神造霊杖イロアス・サヴマだけが頼りだ。

 

 何しろ繊月はまだこの世界の事を知らないのだ。

 つまり、この世界居る全ての人間や動物、そして女神の言っていた魔物の強さが、フル装備で固めた繊月と同等。或いはそれ以上の存在という可能性も大いにある。

 故に装備を整え、スキルを始めとした自身の様々な状況の確認を取るのは最優先事項の一つだった。

 

「しかし……本当にこの姿でこれから生きていくのか……」

 自身の体の状況を確認した事で、その現実を再度突きつけられてしまう。

 この姿で生活し、人と接していかなくてはならないであろうこれからを考えると少し……いや、かなり憂鬱だった。

 何しろ今の繊月の姿は成人男性のそれではなく、黄金色の狐耳と尻尾を生やした銀髪の幼い少女の姿なのだから。


「こんな事になるなら最初に種族を決める時に『モケノー』じゃなくて人間を選べば良かったな……」

 繊月はEDENのプレイを開始する時にモケノーと呼ばれる、種族を選んだ自身の選択を少しだけ後悔する。

 

――EDENはその自由度の高さから派生先を含めれば千近くの職業、二百もの種族から自身の分身と生るキャラクターを生成出来る。

 そんな中から繊月はあの時は純粋に『見た目が可愛いから』という理由と、モケノーの設定にある『獣耳を生やした、大自然の守護者』という設定から来る、モケノーの初期スキルが精霊を使うエレメンタリストと相性が良かったため選んでしまった。

 

「まぁ後悔しても遅いか……。とりあえず行動を開始する前に最後に一つ確認だな……」

 そう誰にでも無く呟くと、時間経過でMPを回復させるスキルを手早く詠唱し、繊月は再び神造霊杖イロアス・サヴマを構える。

 その目的は繊月にとって、そしてエレメンタルマスターにとってこの状況下では最も有効かつ有能になるであろうスキルの確認だ。


召喚サモン、風精王『アネスト・シルフ』!」

 スキル名の宣言と共に短杖を天空へと掲げ、召喚魔法を発動する。そのランクは第二位と非常に高い。

 そのため、このスキルの消費MPは非常に大きく、装備の整っていない繊月のMPを一時的とはいえ8割も消費してしまう。

 だがこれはまだ繊月がこの世界の事が何もわからないため、万全を期した結果だ。


 仮に微妙な性能の精霊を召喚したはいいが、とんでもなく強い敵と遭遇して為す術もなく惨殺される。なんて結果はごめんだった。

 その点このアネモスト・シルフという精霊は非常に優秀であり、数ある精霊召喚スキルの中でもトップクラスの攻撃力と手数を持っている。そして個体としてのレベルも90と申し分がないため、幾度と無くお世話になった精霊だ。

 反面HPや防御力はあまり高くなく、壁役や囮としてなら他に優秀な精霊が多く居る。


「……来た!」

 繊月の視界の先に召喚時に発生する見慣れた旋風が巻き起こり、周囲の大地が抉れる。

「いたっ!いたたたっ!」

 だが、ゲームと違い抉れた地面の破片やら何やらが勢い良くこちらへ飛んで来るため思わず目を瞑り、手で顔を覆ってしまう。

 それから10秒程の時間が経過し、旋風が止まったのがわかった繊月は、恐る恐るといった具合でゆっくりと目を開く。




「――お呼びでしょうか、主様」

 

――そこには絶対的な主に忠誠を誓うように頭を垂れた、緑色の髪の少女が跪いていた。



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