幕間ー1 逃走劇
――クソクソクソッ!
少女は深い森の中を走りながら心の中で何度も罵倒をする。
自身を陥れたであろう貴族を。そしてその策略を見抜けなかった自分自身を。
少女が先ほどまで居た場所には無数の死体がある。
そこに居る彼らを死なせてしまったのは自分の責任だ。
両親が死んでしまった後も、変わらずその娘である自分に忠義を尽くしてくれた、父親のような白髪の副官はもう居ない。
――自分を庇って死んでしまったからだ。
数少ない味方の貴族の三女で、自分を姉のように慕ってくれた年下の少女はもう居ない。
――騎士団に入ったばかりの彼女の腕はまだ未熟で、あっという間に捕縛され、糞豚共に容赦なく犯され、殺されていった。
女ながらに誰よりも優れた武力を持っていた騎士はもう居ない。
――最後に見た時にはちょうど槍で腹を貫かれていた。あれではもう生きてはいないだろう。
――今日までにたくさん、たくさんたくさんたくさん未熟な己のせいで死んでいった。
それでも、この腐りきった国を救うためなら、父と母、そしてこれまで国と大陸のために死んでいった者達の仇を取るためならそれも我慢できた。
だけど、今日のこれは違う。
全て、自分の力不足のせいだ。
国のためでもなんでもない。
それで彼らは散らなくてもいいはずの命を散らしていった。
悔しさで噛み締めた唇から血がダラダラと流れるが知った事じゃない。
本当なら今すぐにでも泣き叫んでその場で彼らと共に死にたかった。
だけどそんな資格は自分にはない。
それが許されるのは全てが終わった後だ。
「……ッ!」
――後ろから追いついてきた糞豚を一閃し、両断する。
もうどれだけの数を倒したかわからない。
だけど、奴らの数は一向に減る気配がない。
いや、むしろ増えているくらいだろう。
つまり、それだけ奴らの本拠地に近づいている、という事なのかもしれない。
既に体力は底をついている。
何しろほぼ丸一日飲まず食わずで戦い続けているのだから。
本来であれば剣を持つことすら出来ない程に肉体は疲弊し、悲鳴を訴えている。
それを見抜いたのだろうか。
周囲に居る無数の糞豚が表情を歪めて笑うのが感じ取れる。
お伽話であればこんな時に救国の英雄が現れて全てを救ってくれるだろう。
だが、これはお伽話ではなく現実だ。
何処までも残酷な現実なのだ。
「――それでもッ!」
こんな所で諦めるつもりだけはなかった。