ハゲ - セカンドインパクト
夜7時半過ぎに私は家を出た。コンビニに晩飯を買いに行くためだ。外はもう暗かった。駅前を通り過ぎると電車が着いたところで後ろから高校生たちががやがやとついてくるのがわかった。「なんで夜なのに帽子かぶってんだ?」「どうせ取ったらハゲなんだろ?」「アハハハ!」盛り上がってる最中すまんがその通りだよ君たち。それにそんなことどうでもいいじゃないか田舎者諸君! 感染するわけじゃないんだから。感染? そう、見たら感染する。これは私の君たちへのささやかな善意なのだよ。私はわざと帽子を取り頭をかいてやった。「ほうら、やっぱり、な?」「アハハハ!」私は後ろを振り向かずとも彼らが大人になった時ハゲてしまったのを呪わしく思いながら帽子をかぶりスーパーで買い物をしているところがありありと見えた。すまんな諸君。しかし感染源は私じゃない。私も誰かにうつされた。中学の時の英語の先生や数学の先生、それから高校の時は物理の先生、大学の時は異文化コミュニケーションの教授、それから親父や政治家なんかも。誰かはわからない。見たことによってうつされた。これは私の罹患しているもう一つの病気にも同じことが言えた。コンビニに入った私は牛丼とビールを取りレジへ。「あっためどうされますか?」お願いします。「年齢確認お願いします」はい。それからコロッケを二つください。「お箸何膳ご要りようですか?」1膳ください。一日一善じゃないほうの1膳ね。あ、スプーンはキレてないほうのをください。「すみません」いや、こちらこそ。──字面では今のやり取りの意味がわからんだろう。つまり私は一言も声を発していない。向こうは私が言っているのだと思っている。だから会話は成立する。このもう一つの病気も感染症の一種だ。私にはもうさっきのレジの彼女の幸運を祈るしかない。夜道を歩きながら私にはありありと見えた。「どうせ、押し倒そうとでも思ってるんでしょ。あたしナイフ持ってるから、折り畳み式の」ゴミ袋を持ってカウンターから出ようとしたもう一人の若い男の店員は反応した。「え?」? 「今何か言った?」「いいえ? なんだよ、ぶっ殺すぞ」「おい、殺すってなんだよ」「は? あたし何も言ってないけど。ふん、一歩でも近づいてみろ、どてっぱらに思い切り突き刺してやる!」「言っとくがお前みたいな不細工誰が抱くか!」「は?」──私は思った。みんな口が動いていないことに気付くだろうかと。
いつもジャンル選択で迷うのだが今回ホラーということにした。怖さの度合い的にはそうでもなかったでしょ? コワイ? 「ハゲ」はブログのほうに上げておりますのでご興味のある方はぜひ。全然違う話です。