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あたしが生まれ変わるきっかけを持った時の話

 何か一つの言葉を持って人は生まれてくるというならば、あたしが持って生まれて来た言葉は『不幸』で間違いないと思う。

何故、いつもあたしだけ。

何か悪い事が起こればそこにあたしが存在している。

そんな気持ちを持ち続けたくないのに持ち続けている。

どんどんと膨らみ続ける風船を渡していき、破裂した人がアウトなゲームで常に風船を渡されているような感覚だ。

誰かは言う。

人は皆、それなりに不幸なのだと。

だから一人だけ不幸ぶるのはやめろと。

皆、同じぐらい辛いんだ。

同じぐらい辛くてそれでも我慢しながら人に優しくしながら生きているのだと。

詭弁だ。

あたしからしてみればそれは自分の家の庭の池しか見たことない人が海の広大さを語っているようなもの。

筆箱に入るようなものさしでピラピッドを遠くから測って、ピラミッドの雄大さを力説されているようなもの。

そんなのちっともフェアじゃない。

嘘っぱち。

なにもかもがいや。

ほんとうにいや。


 いつからだろう。

あたしは世の中の価値だとか意味だとかがどうでもよくなった。

あるものはただあるもの。

物体だとか空気だとかそういうことじゃない。

ただ、そこにあるもの。

そう思うと何か気持ちが楽になった。

人から頑張りなだとか、物語ってのはだいたい最後に急展開があって幸せになるんだよとか言われるよりも、ただあるからあるだけって思うこと。

全ての事は約束されていて、ただそれをなぞる行為が人生。

そう思えば不幸だとか、なんだとか、どうでもよくなれる。

そして、あたし自身さえもどうでもよくなる。

本当にどうでもよくなる。

何をしようが一緒だもの。


 でもある時を境にあたしは救われた。

そんなどうでもいい全てが意味を持ちだして、全てのものが輝いて来た。

この世界は美しいとか俗っぽい事は言いたくはないけど、本当にあたしは救われた。

あの人との出会い。

そしてあの人の為に尽くす幸せ。

それを知らなかったあたしは生きてはいなかったのだと思う。

あの人を知って私は自分の中に流れる血の血流を感じたし、全ての物の存在に意味があって、それが素敵でどうしようもないって思えるようになった。


 あたしとあの人との出会いを話そうと思う。

あれは大学に入学してすぐの頃だった。

その時はまだ息はしているけど、生きてはいなかったあたしは何の目的もないまま漠然と大学生活を送っていた。

本当にただ無味乾燥な大学生活。

なんだか浮かれてる男と女しか周りにいなくて、浮かれてなかったとしても、それはただ駄目で浮かれたいけど浮かれられないだけのダサい連中。

そんな時に出会ったのがアツシだった。

アツシとあたしはお互いに大学内に居場所がなくて、気がついたら二人で居るようになっていた。

アツシは他の有象無象な大学の連中とは違って一本芯が通っていて、いつでも夢を見ているような素敵な人だった。

いつでもニコニコしていて優しくて、あたしを大事にしてくれた。

あたしの言う事にも全て同意してくれて、あたしが傷ついた時もいつも優しく抱きしめてくれた。

あたしはアツシと出会って本当に物語というのは終わりの方は幸せに向かっているんだと感じた。

図書館の本棚に入っている全ての物語はハッピーエンドで終わるのだと思えたほど。

ただ全てのポジティブな人の感情に流されながら生きていきたいと感じていた。

全部の物に色を塗るのは私、全ての人に感情を植え付けるのも私。

だって、そうすればどれだけ幸せに満ちていて、嫌な事なんて何もないと思っていたもの。


 でもやっぱり私は不幸だった。

思い返せば今ならおかしい事だらけだった。

デート代もホテル代もいつもあたしが払っていた。

アツシがあの素敵な笑顔でお金ないんだよねと言われるとどうしてもあたしが払わなければならないというように感じたし、アツシには夢があってその為にはお金が必要なのだと思わされていた。

あたしもそこに何の疑問も持たなかった。

あたしはただ幸せだった。

アツシの為に必死にバイトもしたし、生活も切り詰めるだけ切り詰めた。

でもあたしは幸せだった。

アツシの笑顔があればそれで全て幸せだった。

でもその幸せも終わった。

アツシの中であたしはただの体とお金目的の女だった。

図書館にある本も実は全部上巻で、下巻は身も震えるようなおぞましいバッドエンドなのだと悟った。

皆、臭いものには蓋をしたいから、下巻を隠しているのだ。

本当にくだらないと思う。



 アツシの心変わりを知ったのは大学で同じクラスのサキのくだない妄言だった。

普段はそんなにプライベートな事で関わる事はない関係で、大学内での事務的な事やグループ作業で関わる程度だったのに、ある日あたしが一人で居る所に急にサキはやって来てあたしにアツシの人間性は最低だと言って来たのだ。

もちろんあたしはそんなもの信じなかった。

あたしはすぐに閃いた。

この女はあたしのアツシの事が好きなんだろうと。

だからあたしとアツシを引き剥がしてアツシを自分の物にしようとしている。


でも事実は違った。

アツシがサキの事を口説いていて、そのやりとりの通話履歴やメールをあたしに見せて来た。

最初は偽装だと思った。

すぐにアツシに問いただしたら、アツシのあのニコニコとした顔が豹変して、

「うるせえな、このカネヅルクソメンヘラビッチが」

ってあたしに言葉を吐き捨てた。

もう何もかも見えなくなった。


だから、あたしは憎い。

アツシをあんな風に変えたサキがあたしは憎い。

サキさえいなければアツシはあたしを利用しようとせずに、ずっとあたしに幸せを感じさせてくれてただろうし、サキがしゃしゃり出てこなければ、アツシがあんな風な冷たい人間に変わる事も無かった。

全部サキが悪い。


あたしはサキを絶対許さない。


そう自分に誓った。


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