私とトウドウのユートピア創世記な話
「探してましたよあなたをね」
最初のトウドウの一言はよく憶えている。
トウドウは真っ直ぐに私を見てきた。
その目からは何の濁りも感じなかった。
人がただただ純粋に真っ直ぐに子供から大人へと変わる事などほぼ不可能だ。
もし、そんな奴がいるとするならばそれはひたすら社会から隔離されてきた存在か、相当の幸運の持ち主だろう。
だが、このトウドウの目からはまさにそんな純粋さを感じた。
これまでに何も汚いものも何も見ていない、そんな目だ。
「何故、私を探していた?」
私はトウドウに応えた。
私も真っ直ぐにトウドウを見据えた。
私に純粋さなどは微塵もないだろう。
あるのは野心や野望や狂気だ。
だが、私はそこに何も悪さを感じない。
それでこそ私であり、それが私の純粋さだ。
だからこそ何も臆する事はない。
私の眼差しをトウドウは受け止めると少しホッとしたような笑顔を見せた。
「思った通りの人だ。なにもただむしゃくしゃしてやっているんじゃないんでしょう?その族狩り」
トウドウは私に期待しているようだ。
私をひたすら大きいものに感じているのだろう。
それはトウドウの純粋さ故の素直さか。
少し揺さぶって、この男を試したいと思った。
「いや、何も別の目的などない。ただうるさい蝿を叩くようにむしゃくしゃしていたからやっただけだ。何の他意もない」
私がこう言ってもトウドウの私への期待は何も変わっていないようだ。
一瞬でも期待はずれ感を出すものだが、トウドウの私への期待感はどんどん膨らんでいっているようだ。
「いいや、違う。解りますよ。解るんですよ。俺には解るんですよ。そういうのも何か裏があって言っているだけなんだ。そうに違いないんだ」
なるほど、確かにこいつは純粋だ。
純粋というのはある意味思い込みの力も強いという事なのだ。
「じゃあ、そうじゃなかったとしたら、お前はどうするのだ?」
そう言われるとトウドウはここ一番目を輝かせながらこう言った。
「あなたに付いていきます」
トウドウには何の説明もいらないようだ。
私がこれから何をして何を成していくのか、そんな事は関係ないようだ。
ただただ、私に付いてきさえいれば、自分の高みへといけると思っているのだ。
いいだろう、連れて行ってやる。
こうして私に一番弟子が出来た。
思えば昔の私にはほとんど人望というものがなかった。
気がつけばいつも一人で、大勢と戦っていた。
私がこうやって人を引きつけれるようになったのもあの椅子の力なのかもしれない。
その日から私とトウドウは二人で夜の街の静寂を取り戻していった。
トウドウは私と同じような境遇で天涯孤独の身で一人で旅をしていたらしい。
そこで私の噂を聞きつけ、私に興味を持ち、私と対峙し、この人に付いて行こうとすぐさま決めたらしい。
本当におかしな奴だ。
だが嫌いじゃない。
私は今や一人ではない。
私の野望の為にはトウドウを利用するし、それがトウドウの高みにつながるというのならば、私は努力を惜しまない。
そんな日々を続けていると、私とトウドウの噂は瞬く間に闇の人間の間に広がって行った。
そうすればこれまでの日常にはない事が日々、多々起こる。
当然といえば当然の事、私達が相手にしているのは霊的な無機物なものではない。
しっかりとした血の通った人間なのだ。
だから私達を中心に人の輪の調和が乱れ始める。
私達にすがり仲間になろうとする者。
徹底的に交戦をしてくる者。
どこからか勝手に現れ食料などの物資を援助してくれる者。
烏合の衆ではあったが、私とトウドウを中心としたちょっとしたグループが出来ていた。
私達は義賊となった。
活動資金も徹底的に族から回収し、奴らのバイクも分解しパーツを買い取ってもらえるルートも手に入れ、潤沢な資金も得ていた。
しかしながら敵は族単体という単純なものでは無かった。
予想外でもなかったが、一番の敵は国家権力なる警察だった。
この騒がしい夜を私達が静かにしているというのに、その仕事を放棄したのであろう警察が私達に牙を向いている。
確かに法に照らせば私達がやっている行為は違法という事になるだろう。
だが無力な警察には出来ない事をやっているだけで、称賛などは求めないが、見て見ぬふりぐらいは出来ないものだろうかと思うかもしれない。
だが、そういう訳ではないのだ。
警察というものは結局自分達のメンツを保つというのが重要なのだ。
どこかからやって来た自警団のようなものが自分達の仕事を勝手に取って市民の支持も取ろうとしている。
それでは面白くないのだ。
警察がやりたいのは最後に私達をも取り締まり結局の正義は自分達だと主張したいのだ。
まったく、くだらない。
こんなものもいずれ潰してやる。
今はまだ多勢に無勢なので地下活動を展開するしかないが、いずれ私に平伏すだろう。
次に厄介なのが暴力団だ。
こんな事をやっていれば絶対にどこかでかち合う事は間違いないと思ってはいたが、私のその考えは杞憂にはやり終わらなかった。
族を使って、違法な薬の売買やケツ持ちなどを持ちかけての集金と称した小遣い稼ぎをしていたチンピラ共が私達を当たり前だが、邪魔に感じたのだ。
そして本当一番厄介でどうしようもなく腐敗した事を見せつけられたのが、この警察と暴力団が裏で繋がっているという事実だ。
考えてみれば単純だ。
族があって暴力団が儲かり、それを取り締まらないという条約を契り賄賂を受け取り、黙認する事で警察もまた儲かるのだ。
メンツなんていう事もそうだが、結局の所そういう力が生じている。
賄賂が行き渡らない末端のものにはメンツとかこつけながら、その上層部は正義を踏みつけておいしい賄賂という蜜を吸っている。
結局、こういう関係の一番根っこにあるのは金銭の損得勘定なのだ。
一番根っこにあるはずの正義だとか義侠なんてものはもはや存在しない。
だから警察は族も暴力団も取り締まらず、一番の正義に近い私達を取り締まろうと躍起になっている。
暴力団も警察の黙認を得て、やりたい放題といった所だ。
そんなこんなで一瞬大きくなろうとした私とトウドウの活動におけるグループは様々な妨害を受け、空中分解に至った。
私を支援してくれた人もその所為で被害を受けたし、とても残酷な目にあった人もいた。
何も感じないわけは無かったが、何も感じないようにした。
私はこの事実を知りそれを確認すると活動を一切停止し、身を隠した。
私の野望はこんな所で潰えてはいけないし、終わってはいけない。
そもそも正義なんて小さいものは私の野望の中には特に入ってはいない。
今、正義は失われ、汚れきった世の中に私のようなカンフル剤が必要だなんて説くつもりは更々ない。
私はただ私の描く私を中心とした私の世界を作りたいのだ。
それに協力する者には惜しみない称賛を送るし、それを邪魔する者は徹底的に排除するしかない。
そしてもっと大きく強くならなければならない。
そう、もっとしっかりとした組織を作らなければならない。
私の体と脳、そして権力の椅子さえ無事ならばそれは問題がないのだ。
私とトウドウはひっそりと闇の表舞台から身を隠すと、地下活動で信頼出来る仲間を増やしていった。
裏切り者には制裁をという堅い掟も作り、トウドウを表のリーダーとし、組織は白いポロシャツを目印と組織員の証とし、活動を広げて行った。
組織を運営する上で必要なものは資金と人望だ。
まず私はその指針となるような本を書いた。
簡単に言えば、いかにこの世界が汚れていて、腐敗しているかを説き、どうしようもないこの世界において、どうしようもない日常を送っているのも全ては今の世の中の腐敗のせいだ。
ならば、私が新しい世界を作る事を約束し、その先に希望と幸福がありそれを実現するもしないもそれはそれぞれ個人の意思であるとする内容だ。
トウドウが連れてくる世間で言ういわゆるはみ出し者達に私は徹底して本の内容を埋め込んだ。
私にも気がつかないうちに私の口は饒舌に言葉を喋り、選び出て来る言葉も悪魔に憑かれたかのような危険さを漂わせながらも強烈な甘美な魅力を与えた。
聞いている側もまるで私を本当の救世主のように崇め始め、心酔していった。
資金の方はこれはかなり苦労しそうだったが、何も心配はいらなかった。
私が私の思う正しい方向へ歩を進み続ければ、全ての要素が私の思い通りになるような感覚だ。
ある日私達の活動を知ったとある財団からアプローチがあった。
私達の活動を無償で支援するというものだった。
とてつもなくきな臭い話ではあった。
だが、私はそれを快く受け入れた。
財団の目的など知った所ではない、全てのチャンスに私は飛びつき、その先に何かしらの思惑があったとしても私はそれすらも喰い尽くす。
ただ、それだけだ。
そこから暴力団対策として、我々に敵対する暴力団に敵対している暴力団との繋がりを持った。
敵の敵は味方というやつだ。
暴力団からすれば我々がやっていた行為は黙認出来ないものであったであろうが、それよりも目の上のたんこぶである、敵対する暴力団を少しでも弱体させる事が出来るのならば、それをしてから我々を潰しても遅くないと考えたのだろう。
だが、我々はもちろん潰される気はない。
寧ろこちらがそちらも喰うつもりでやってやるだけだ。
最後に私は組織の目的を示した。
『私によってこの腐敗した世界を変え、私によって新たな時代と幸福を作る。その為に諸君らは全力で血を流せ』
組織員は嬉々としてこれを受け入れ、皆、目を輝かせた。
そしてここに私のユートピアは完成した。
続く




