~城本 氷 編1~
~氷 編1~
「あっ・・・城本さんだわ!」
駅を降りての通学路・・・毎日必ずあるこの声。
(・・・俺だから何なんだよ・・・)
なるべく人と目を合わせないように眼鏡を外した。そして聞こえる第一声・・・
「キャー!素顔もかっこいー!」
(・・・いい加減にして欲しい。何で毎朝ジロジロ見られなきゃならないんだ・・・)
そう思いながらなるべく下を向いて歩いた。
俺の名前は 城本 氷。蝶蘭高校二年弓道部主将、授業では理系を学んでいる。
ふと時間が気になって携帯を開いた。八時まであと8秒・・・そろそろだ。
「3,2,1・・・」
「シーロもっちゃーん!!!」
ずっしぃっ・・・後ろからでっかいものが巻きついてきた。巻きついてきたものは・・・俺のことを「しろもっちゃん」などと呼ぶ幼馴染ロン毛の優雷(通称・ゆう)。いつもなぜか8時ぴったりに俺の背中に乗ってくる。正直、かなり重たい。ゆうは太ってる訳じゃないが、身長が高い。俺は173センチだが、あいつは185センチだ・・・。その上小さいころからやってるバスケのおかげで体脂肪率は10%以下・・・ますます重たい。
「ゆう、お前いい加減でかさ考えろよ。俺と身長の差いくつあると思ってんだよ。」
「十センチも無いぐらい?でもまー俺のがでっけーな。」
(・・・10センチ越してるっつの・・・。)
こんな計算さえ出来ないのかと呆れながら背中に乗ってるゆうが落ちないように支えて歩きはじめた。するとゆうは俺の背中からするりと降りた。
「?どうしたんだ?」
いつもなら放れろって言うまで放れないのに・・・変に思ってゆうを見た。振り返った時、ゆうの顔が真近くにあった。
「なっ・・・」
ゆうのやつ・・・!!
「ゆうっ!からかうのやめろってっ・・・はなれろっ!」
俺はゆうを思いっきり突き飛ばした。その反動で、ゆうはしりもちをついた。
「いってぇよー!・・・つか、俺はほんきだっつのー!俺はマジでしろもっちゃんの事好きなのにー!」
「バカガキッ!!!」
そういってゆうの頭を思いっきりグーでどついた。ゆうはどついた部分を押さえて
「いってえええぇぇ!!何もグーでどつくことねえだろぉ!!いってぇなぁ!しろもっちゃんのばかー!」
「誰がバカだこのくそがきっ!!あーもう知らねぇ!!先行くかんな!」
「やだ!やだやだやだ!まってよーしろもっちゃーーーん!!」
ゆうを無視して小走りで学校に向かうと、背後からゆうがものすごい大声で叫んでる声が耳に響いてくる。無視して歩いていても周りの視線が痛い。思いっきり近所迷惑だ・・・
「・・・あぁもう!!」
俺はUターンしてゆうの方に小走りで向かっていき、頭を押さえているゆうの手を取って引っ張り起こして駆け出した。
「お・・・?しろもっちゃ・・・」
「遅刻すんだろ!速く走れっ!・・・全くお前は・・・いい加減成長しろ、ガキ!!」
「・・・やっぱしろもっちゃんはやさしいな。こーいう所も好きなんだけどな^^」
「だっ・・・だからお前なぁ、そゆう事言うなっつってんだろ?!」
「じゃあ愛してる?」
「・・・それ次言ったら殺してやっかんな。マジで。」
そう言いながら繋いでるゆうの手を全力で締め付けた。ゆうは「いでででっギブギブ!!ごめんごめんごめん!!」と痛いのを笑い堪えた顔であやまっていた。その顔が面白くて、つい口元を緩めて笑ってしまった。
「くっ・・・ははっははははっ!ほんと、バカかよお前は・・・ほら、学校遅れんぞ!もっと速く走れ!おせえよ!」
「なんだと~っ?!みせてやる~!優雷様の本気ダッシュ!!」
そうゆうが言ったと思ったら、俺の体が足元から急にふわっと浮いた。
「おわっ?!おまっ!!なにしてんだよっ!!」
ゆうは俺をお姫様抱っこして学校に向かって急な坂道をダッシュし始めた。女子たちの声は「キャー!かっこいいー!!」「優雷君と城本さんよー!」・・・。
(もうちょっと気持ち悪がるとかしろよ・・・つうか・・・!!)
「降ろせっつーの!!バカゆう!!はずかしいだろーっ!?つかあっぶねーだろーー!!」
そう言って俺はゆうの頬をつねった。ゆうは
「いっひゃっひゃっひゃっ!!ろれんろれん!(いったったったっ!!ごめんごめん!)」
と言いながらも走るのを止めない。ゆうを説得するのはやめて、周りを見渡した。向かってる方の正面に、俺たちの幼馴染の吉岡 拓海と星野 鈴薇がいた。この二人も幼稚園からの付き合い。・・・なのにいまいちまだ理解できない所がある。あいつらの人生の中心は・・・「本」だ。
「・・・たっ・・・たくみぃー!!すずぅー!!助けてくれたら本おごるからー!!」
こうやって本をエサに誘えば、・・・ほら。二人同時に足を止め、同時に荷物を肩から地面にすべり落とし、こちらに走ってきた。
「お?やる気か吉拓、吉鈴!!だがなあ、しろもっちゃんはやらーん!」
自慢げに優は言い放ち、走る速度を上げた。
俺はもう消えてしまいたい気持ちでいっぱいになり、手で顔を覆い隠した。
(ありえね・・・こいつマジありえねぇ・・・/////)
そう思っていると、体がふわりと宙に浮いた感覚と同時に「うわあっ!!」という優の声が聞こえた。
「・・・え?」
優の手が俺から離れていく・・・
このとき俺は、胸が締め付けられる感覚がした。
「ゆ・・・」
(待てよ・・・俺から・・・離れ・・・)
;オレカラハナレナイデ;
「氷おぉぉーーっ!!」
・・・優の声が聞こえたと思ったら、目の前が真っ白になった・・・