第九話 囚人と楽しい戦争生活、面接
人間には善意という名のストッパーがある。それがある故に犯罪に走らずに普通に生活が出来、殺人が起こらない。
だが稀に、ごく稀にだがそのストッパーが外れている人間が居る。
フォロリスは昔読んでいた漫画の台詞を、脳内で再生させる。
目の前の囚人もそうだ、善意のストッパーが無かったからこんな場所に居る。ほかの囚人もそうだ。
中には免罪の人も居るだろう。だがそれは、疑われる人間が悪いのだ。
そしてこの監獄に居る囚人は、四百人程度。全ての人間を開放すれば、簡単に兵士の数を元に戻せるどころか更に多くなる。
では何故、殺し合いをさせ人数を減らしているのか? それは簡単な理由だ。
いくら悪意が強くとも、戦闘で地形を利用出来なかったり、現地の武器を使えなかったりした場合
逆に足でまといになるからだ。
故に殺し合いをさせ、一番兵士に相応しい人材を発掘する為だ。下手に仲間意識をして、助けて殺されるという最悪な状況も打破出来るだろう。
そしてもう一つ、それは戦場での非情さを鍛えるというのもある。
つい最近まで一緒の屋根の下で寝ていた間柄の人間同士殺し合う、これによって氷の心を創りだす。
そして、一番最初にそれを行った人間がフォロリスの目の前にいる。笑みをせずにはいられない。
「……ヒッヒヒヒ、あんがとよ。お前のおかげで、またシャバの空気が吸えるんだ。煙草もなぁ」
「そうか、それなら残念だったな。九年前から煙草は製造中止となったぞ」
「チッ」
囚人が血に濡れた手を払い、紅い雫を散らした。
「まっ、侵略が成功すれば、もしかしたらあるかもな」
「仕事をすれば、手に入るって事か」
「ドロップするかも、という事だ。
囚人は静かに笑うと、ほかの囚人を見て回った。
フォロリスは囚人の名が気になったが、それは後で聞く事にした。
どうせなら、全員を開放してからでいいだろう。
「次は……お前か」
さっき開放した囚人の隣の牢に入っている、太った男。血に塗れ、息が無い。
死体が壁となり、生き残っている奴の姿が分からないのだ。
フォロリスはさっきの囚人に、あの死体を退けれるか聞いてみた。
「俺の名前はエドワン・カプテットだ。次囚人と呼んだら、殺すぞ」
「へいへい、んじゃ頼むわ。エドワン」
エドワンがデカい死体に手を翳すと、死体が巨大な紅い炎に包まれた。
檻の中から悲鳴のような声が聞こえたがすぐに炎が消え、死体は灰となった。
「び、ビックリしたー。炎なんか出さないでよ本当に……」
中から気弱そうな声が聞こえてきた。
緑の髪の青年、やはり体は血に塗れていた。
フォロリスの第一印象は弱弱しい、と言う物だった。
そいつが何故、この殺し合いで生き残ったのか。それが一番の疑問だった。
そんな疑問を持ちつつ、フォロリスは鍵を開けた。
中から申し訳なさそうに青年が出てくる。
「んじゃまあ、そこでエドワンと一緒に待っててくれ。あと八人くらい解放しなきゃいけないからな」
「は、はい。了解です」
囚人が申し訳なさそうに了解の意思を示した。
エドワンは無言で、床に座り込んだ。石の冷たい感触が、服から伝わる。
気弱そうな囚人の隣の牢、今度は一人を除いて全員がミンチになっている。
こういう光景を見てまともな人間はあまり居ないだろう。だがフォロリスは、それを見ても何も感じなかった。
あくまでそれは死体に対しての話で、生き残った囚人に対して、殺り手であろうという期待は感じていた。
フォロリスは鍵を開ける。隣の牢も、一人を除いては全員が死滅しているようだ。
次々と開いていく牢屋、解放されていく囚人たち。一人でも外へ出たら、世界を混乱で覆い込むような悪意が、牢獄には満ちている。先程までは、何も感じなかったのにだ。
「おい、こいつでほかの牢も開けてきてくれ」
フォロリスは、同族をミンチにした囚人にほかの牢屋の鍵を渡すと、エドワンの居る所へと戻った。
道は一本道、エドワンたちが居る場所以外は何処からも出る事は出来ない。
薄暗く肌寒い牢獄に、悪意の満ち足りた囚人たち、40名がフォロリスの目の前にいる。
常人ならばこの悪意によって、吐き気を催し、気絶するだろう。
だがフォロリスにはとてもここが、心地いい場所だった。普段日常では感じ取られなかった徹底的な純悪、むせ返るような悪意。頭がクラクラする程だ。
「さて諸君、自由を手に入れたいか? 村・町・街を侵略し、住人を殺しまくり、毎日毎日絶望の淵へと落としまくりたいだろう? もちろん、貴様らが望むのならば、侵略した街に静かに暮らす事も出来るぞ?」
フォロリスの少しばかりの演説によって、一部分に集められた殺人者達が雄叫びを上げた。
フォロリスは肌で感じ取った、士気が上がっていくのを。
「フォロリス君は上手くやってくれたかな? あっ、3カード」
石の壁、あの酒場の地下だ。床も石で出来ており、石の壁を隠すように樽が置いてある。
中は薄暗いが、文字が見えない程ではない。そんな場所で、アンドロイと一人の兵士がカードゲームをしていた。
アンドロイは、木で出来た机の上に同じ数字の書かれたカード3枚と、2枚数字の違うカードを出した。
兵士は同じ数字が2ペア出来ているカードを机の上に置くと、懐から銅色硬貨を4枚机の上に置いた。
アンドロイはそれを持つと、椅子から立ち、
「もう終わった頃だろうし、そろそろ失礼するよ」
と言った。
その言葉と同時に兵士が剣に手をかけた。
「待てよ、勝ち逃げする気か?」
「ギャンブルは二回勝てば終わった方がいいよ、兵士君?
そして僕なら、五回負けたら諦めるけど君は降りなかった。つまり自業自得じゃないか」
「知った事か!」
兵士はそう叫ぶと、剣を引き抜き、素早く薙ぎ払った。
そこに転がっている筈のアンドロイの死体は無く、代わりに生きたアンドロイが剣の上に乗っていた。
アンドロイは剣を伝い兵士に勢いよく接近すると、顔に思い切りパンチをお見舞いした。
倒れていく兵士の後ろに素早く回り込み、、蹴りの追撃を背中に三発。
背骨の砕ける音が聞こえたが、気にせずに兵士から剣を奪い取り、柄の部分で腹を思い切りどついた。
その衝撃によって、兵士の口から血が噴き出た。
「あッ……あっ、あっ」
その衝撃によって肺をやられたのか、息が絶え絶えだ。
アンドロイはそんな状態の彼を置いて、酒場の地下を出た。しっかりと、鍵を閉めた。部屋は暗闇に閉ざされた。
「そうそう、そこには魂食霊が出るから、生きては出られないよ。
まあでも安心しなよ、そこは防音機能があるから、全部食べられちゃうまで誰も来ない。つまり君の無 様な姿を誰にも見せずに済むよ。感謝してね」
アンドロイはそう独り言のように呟くと、指を鳴らした。
すると暗闇には、顔と首がくっ付いたような土色の肌をした、灰色の布を纏った怪物が現れた。
アンドロイは心の中でほくそ笑むと、フォロリスの待つ城へ向かった。
酒蔵には、痛々しい悲鳴が響いた。扉の近くに居れば聞こえるが、今は誰も酒場にはいない。
その悲鳴が、アンドロイ以外に聞こえる事は無かった。
急に小説の大部分を削除してしまい申し訳ありません。
実は作者の手違いによって、九話と十話が何故か12話になってしまいました次第であり、故に急遽削除いたした次第であります。
バックアップも取っておらず、急遽九話を執筆しましたがストーリーが思い浮かばずにこんなに遅くなってしまいました。誠に申し訳ございません。
今回出た魔物の紹介は次回とさせて頂きます、次回、大部分的に関わる事となる予定ですので。
もっとも、やっと出発といったところです。
では、誤字誤植、ご指摘などがありましたら感想覧に