第八話 囚人と楽しい戦争生活、初日
朝日とは何故、こうまで体力を奪うのだろう。と、フォロリスは思う。
そして、こんな朝早くに外から、兵士の訓練する声が聞こえる。
フォロリスは爆破してやろうか、と思ったが思いとどまり、普段の服装に着替える。
着替えが丁度終わったあと、扉が勢い良く開かれた。
そこには、アカマイが腰に手を当てていた。
「フォロリスさん、いい加減その服洗濯してください!」
フォロリスの服を引っ張りながら、アカマイは叫ぶ。
フォロリスの服はもう、大分と洗ってはいない。
普段洗わないフォロリスにとって、洗濯はただの面倒事なのだ。
「それじゃ、これを洗濯してる間何を着ればいい?」
フォロリスは、頭をかきながら言う。
アカマイは顎に手を当て、少し考えたあと、
「折角ですから、この国の服でも着てみればどうですか?」
「却下だ、村を侵略した時に、適当に持って来とくよ」
フォロリスのその言葉に、アカマイはため息をつきながら、
「分かりました、もう勝手にしてください」
「ああ、勝手にさせてもらう」
フォロリスは欠伸をしながら、床に落ちてあるワイヤーで繋がれたナイフと剣を持ち、部屋を出た。
外の訓練が終わったのか、廊下には兵士で溢れかえっている。
その中に一人、フォロリスは独りでパンを齧った。
パンくずが机とナイフに落ちたのを見て、前に座っていた一人の兵士が突っかかってきた。
「おいテメェ、なに汚い食い方してんだおい!」
フォロリスは机の上に置いてあるジャム瓶を開け、紫色のジャムをパンに垂らす。
パンの上には、ジャムで山が出来た。
フォロリスはそれに齧り付く。
ジャムが数滴ほど机とナイフに落ち、ナイフの柄にシミを作った。
兵士がまた突っかかってくる。
「てめ、なに垂らしてんだゴルァ!」
「騒がしい、唾を飛ばすな」
フォロリスはパンを齧り付きながら、悪態をつく。
兵士は腰の剣を抜き取ると、フォロリスに突き付けた。
フォロリスは眠そうにパンを齧ると、兵士はさらに突っかかってくる。
それを他の兵士は、「やめとけ」と静かに止めるが、フォロリスはそれを手で止めた。
「この食事のあとで、戦争が起こるというのに脳筋は大変だな。いや、呑気と言うべきか……」
「貴様……!!」
兵士はフォロリスの襟首を掴むが、兵士の一人がその兵士を止めた。
「後で首切られるな」
「やめとけ、こいつは姫様のお気に入りだぞ」
「チッ」
兵士はフォロリスの襟首を離す。
フォロリスは眠そうな眼で、図書室へ向かった。
フォロリスは棚から、“怪物”と書かれた本を手に取り、開いた。
その中で“イス国周辺~廃墟パンドラ”と書かれたページを読む。
フォロリスは記されている魔物の名前で、一つの魔物の名前で、目が止まった。
“吸血鬼、集団で森の中・廃墟などで生活をする。血を吸われると吸血鬼の体内に存在するとされている ウィルスに感染し、吸血鬼、またはグールとなる。
数は少ないが繁殖期(数百年に一度)に大量に繁殖する。その数は空を埋め尽くすほどとされる。
ただし、吸血鬼が生まれてから最初に行うのが同族を食す、という者。生まれたばかりの吸血鬼は抗体が少なく、ちょっとした細菌で死亡する。
よって同族を食す事で体内に抗体を増やすと考えられている。
素からの吸血鬼は真祖と呼ばれ、日光や流水の影響を受け付けない。ただし、聖水に異様に弱く、一滴でも触れると死亡するとされている。
吸血鬼の大半は知能があり、神話には彼らと契約をし、無限の富と力を手にしたとされている。
神話などでは銀でなければ傷を付けれないとされているが、獣の爪痕が残った遺体も発見された。
一般的にはにんにくなどが効果的とされているが、目撃証言によると効果は無いようだ。
最後に、このページに記されている文章はいくつか虚説が含まれいるが、苦情等は一切受け付けない。”
「生息地は……全国、か。確か、イス国周辺では空を飛ぶ女が目撃されてるとか言ってたな」
フォロリスはニヤリと笑うと、“怪物”と書かれた書物を棚へ戻した。
金は苦労して手にせよ、と人は言う。
だがフォロリスは違う。金は楽しんで楽に確実に得よ、手段も犠牲も問わぬという独自の持論を持っている。
それゆえに、楽に侵略をする為の作戦を提案した。
「少しばかりいいか、姫様。ほぼ確実に勝てる作戦があるんだ」
隊長さんはふんぞり返りながら、
「ふん、ろくな作戦ではなかろう。所詮子供の考える事だ」
フォロリスは隊長さんをあざ笑うかのように一睨みすると、顔に笑顔を浮かべながら言った。
あまりにも残酷、そしてあまりにも無謀とも思える作戦を……。
「なに、簡単ですよ。イス国周辺に住む知能を持つ魔物、吸血鬼との契約をするんです。
作戦はこうです、まず真祖との契約をするのです。村の教会を壊す、そうすればすぐに乗ってくるはずです。
あとはイス国の侵略を手伝ってもらう、それだけです」
「だが、どのようにして教会を壊すのだ? 全く、だから青二才は……」
隊長さんは苦笑しながら、そうフォロリスに言う。
他の隊長も嘲笑っている。フォロリスはそれを見渡すと、ゲームを楽しみにしてるかのように説明を続けた。
「簡単ですよ。実に簡単で、あまりにも非情な作戦ですよ。吐かずに聞いてくださいよ?
まず、生まれて二ヶ月ぐらいの赤子に爆発物を仕込み、教会の前に置いときます。
次に、教会内に入ったところで起爆、それだけです。出来るでしょう? 民家程度を壊すくらいの物なら」
「で、ですがそれはあまりにも……それに、赤子はどうするのです? そう簡単に譲り受けてくれる者でもないでしょう」
「ええ、譲るならね。奪えばいいんですよ」
隊長さんは机に手を思い切り叩きつけ、立ち上がる。
「貴様、人の心がないのか!? こんな作戦、俺は反対だ!!」
他の隊長も隊長さんの言葉に、同意する。
それを見フォロリスは両腕を上に上げ、叫ぶ
「戦争に道徳心なんぞ必要なし、無駄、邪魔なだけ。そう言うのなら貴様ら、他に作戦があるのかね!? 批判ばかりの使えない脳筋隊長諸君?」
「だが、それでは作戦に使われる赤子はどうなる!?」
「何を当たり前の事を……犠牲になってもらうに決まってるじゃないですか」
その言葉に、隊長達はブーイングの嵐をフォロリスに浴びせる。
フォロリスはそれを無視し、静かに姫様を見つめ、
「では姫様、ご決断を」
「仕方ありません、他に作戦が無いのなら……」
隊長達は、フォロリスを強く睨みつける。
フォロリスは隊長達を興味なさそうな眼で、虫を眺めるように睨むと、姫様に一礼をし、部屋を出た。
「で、どうだった? 僕の変わりは?」
「面倒な事この上なかったぞ、アンドロイ」
木で出来た床に、無数の樽が転がっている。
フォロリスは、真ん中に樽を移動させると、樽に座る。
アンドロイの姿は、酒蔵の何処にも無い。
「しっかし、なんでお前は姿を見せないかねー」
「あはは、昔の癖でね」
フォロリスは座っていた樽を思い切り蹴りつけ、穴を開ける。
穴から紅いワインが出るが、気にせずに穴に手を突っ込む。
「あっはっは、ごめんねフォロリス。武器庫の鍵をワイン樽に隠しちゃってさー」
「全く、慎重者も度が過ぎればダメだな」
「だから、ごめんって言ってるじゃん」
フォロリスはワインの付いた手で頭をかく。
ワインの紅い色が髪に付く。髪の毛から酒の香りが染み付いた。
もっとも、酒蔵にはアルコール特有の臭いが充満しており、臭いに気付かなかった。
上から、フォロリスが話しかけてくる。
「で、どうだった? 君の話と、僕の提案した作戦は」
「大ブーイングだけど、明日まで何もなかったらその作戦で行く事になりそうだね」
「本当かい? 僕が早朝に思いついた作戦が通るとは……思いつきでも言ってみるものなんだね」
「思いつきであの作戦が考えつくとは……アンドロイ怖い」
「君には敵わないよ」
アンドロイは上から降りてくると、床に零れた酒が飛沫を上げ、フォロリスの服にかかる。
フォロリスは頭をかきながら、アンドロイに言う。
「一応、俺も作戦が思いついてたんだけどなー」
アンドロイは言ってみろ、とフォロリスに言う。
フォロリスは少し咳払いをして、口を開いた。
「まあ、上手く行く確率はアンドロイのよりは少ないけどな。
子供に油を散蒔かせる、金とかでも持たせてね。そうすれば捕まり処刑される可能性はほぼ0だ」
「なるほど、確かに使えそうだね。でも流石に無茶じゃないかい?」
「うん、俺も言ってみてそう思った」
フォロリスはアンドロイと一緒に、笑いあった。
数秒ほど笑いあったあと、アンドロイは言った。
「それじゃ、次は減った兵士の補充の件なんだけど……」
「何を言っている、この国には適役が沢山居るじゃないか」
アンドロイは疑問に思った。適役とは誰なのか、検討も付かないと。
フォロリスは笑っていた、実に楽しそうに、狂気を含んだ笑いだった。
フォロリスは城の中で、床に敷き詰められた絨毯に座っていた。
巨大な椅子に座っている姫様にフォロリスは、少しばかり遠慮がちに言う。
「姫様、我が第四十四独立前線部隊の兵力の被害が予想以上でして、少しばかり人為補給をお願いしたい」
そうフォロリスが言うが、姫様は、
「と、言われましても……我が軍自体が人的資源の不足に陥ってるのですよ……ネクロマンサーの能力は長時間使えないですし……」
姫様のその言葉に、フォロリスはニヤリと笑う。
彼の癖だ。常人では到底思いつかない、また思いついたとしても決して口にしない予想外の考えが彼の脳内に浮かび上がった時、自然と笑ってしまうのだ。
フォロリスは、笑いながら口を開いた。
「問題ありません。囚人を使えばいかがでしょうか?」
「囚人、ですか。果たして約にたってくれますかね? この国、殆どの囚人が反抗軍ですし」
姫様のその言葉に、フォロリスは数枚ほどの書類を取り出す。
「問題ありません、姫様。勝手ながら見せてもらった囚人の中で、役に立ちそうな人材をリストアップしましたので、お暇がありましたらお眼をお通しください」
「いえ、今見せてもらいます」
姫様はフォロリスから書類を受け取ると、目を通す。
そこには、数人ほどの名前が記されていた。
フォロリスがアカマイに読んでもらい、役に立ちそうな、否、自身の役に立つ犯罪を犯した侵略欲望者をリストアップしたのだ。
主に構成は殺人者、空き巣、密造、違法魔術所持者などだ。
どのように扱うか、またどのように選ぶかも重要となってくるのだが、今のフォロリスの軍隊にそのような贅沢な欲求は許されていない。
「なるほど、空き巣以外ならOKですよ。実際、いずれ戦争で使おうと思い取っていた人材ばかりですから。これで私にも踏ん切りが付きます」
「感謝致します、姫様」
フォロリスは姫様の許可を得ると、すぐさま牢獄へと走る。
水の落ちる音とフォロリスの足音が、暗い暗い牢獄に響く。
牢獄の中には、十人の人が詰まっている。
そのフォロリスの姿を見て、牢の中の囚人が叫ぶ。
「頼む、俺を出してくれ! 俺は何もしていないんだ!」
フォロリスはその叫びを無視し、見張りに此処へ来た理由を話した。
「はあ、まあいいですけど……それじゃ、A-2とS-3、X-9にT-12に行ってください」
「見たところ、そこまで広くないと思うんだけど……」
「いや、結構広いんですよ。御蔭で毎日足が痛くて……それじゃ、後は頼みましたよ。処分の方」
フォロリスは兵士に同情の言葉を一つ投げかけると、大声で叫んだ。
「貴様ら! シャバへ出たくば殺し合え! 一人になるまでな!」
フォロリスのその言葉と同時に、牢獄の中から雄叫びや断末魔、頭蓋骨などが軋む音が聞こえる。
フォロリスは牢獄を歩いて見て回る。
牢獄の地面には、死んだと思われる血に塗れた死体が大量に転がっている。
フォロリスは、牢獄から漏れた血を踏みながら、早くも一人となった牢獄の囚人の牢を開けた。
「おめでとう、青年。君は確か……数百の家を燃やし、数百の人を焼き殺した殺人者。素晴らしい人間の屑だ」
牢獄の中で、血に塗れた青年はニヤリと笑い、
「オメェが言うなや……」
と、地から響くような声が牢獄から響いた。
フォロリスはニヤリと笑い、そうこなくっちゃと言った。
投稿が遅れて申し訳ありません。実はゲームやら体育祭の踊りの練習とかで・・・。
まあ、言い訳はこの程度で終わりまして・・・。
取り敢えず謝罪をさせてもらいます。低クオリティのクセに更新が遅れてしまい、申し訳ありません。
あ、そうそう。今回の話ですが、彼は一応フォロリスを知っています。
まあ、噂程度ですが・・・。
あと、フォロリスは非人道的な行いしかしないとだけ言っておきます。
では皆さん、今回もグロ表現があると思った? 残念、クリーンでした!