第七話 望まぬ戦争、望む惨劇
普段は活気溢れる城下町の真ん中で、城の軍隊に親しい友人に話しかけるように、アンドロイは一人の兵士と話していた。
会話の内容は、「勇者の首は討ち取った、後は国を制圧するだけだ」という内容だった。
だがその会話を聞き、フォロリスの心に不安が芽生えた。
その不安とは、数日前のあの戦闘だ。
勇者の力は強大だった、勇者の力━━恐らく、剣の力かとも思える。その力によって受けた被害が、あまりに大きい。
今残っている戦力では、村一つを制圧するのがやっとという程度だ。
それと、勇者の首を持っていると人々の目線が痛い。
そのような事を考えていると、フォロリスの肩を兵士の一人が叩いた。
「お前凄いな。でも、あんま調子乗んない方がいいぞ」
フォロリスは兵士の手を払い除け、アンドロイを放っといて城へ向かった。
アンドロイは話に夢中で、フォロリスが居なくなっていた事に気付かなかった。
そして、あのスパイも居なくなっていることに……。
木々が生い茂る森の中、木の枝や地面には少し腐敗した死体が散らばっていた。
その真ん中に、似合わぬ格好で死体などを観察している少女が一人……。
容姿は黒いゴスロリの服に似合わぬ、禍々しいほど紅いナイフを取り付けたライフル、俗にいう銃剣と呼ばれるものを背負っていた。
それだけでもはや異端であると伺えるが、更に彼女が異端である事を伺う事が出来る特徴があった。
血に濡れた銀の髪、更に背後には動く骸が大量に、少女を護るように少女の跡を歩いていた。
少女は銃剣の先、ナイフの部分で死体に傷をつけないようにつつきながら、死んでいるかどうかの確認をした。
もっとも、個々にある死体の殆どが心臓、首を切られ致命傷。生きていたとしたらそれはゾンビか身体の構造が左右反対になっている者くらいであろう。
もっとも、たとえ左右反対であったとしても出血多量で死亡。良くて後遺症が残る。そうなれば少女にとって殺すのは容易い。
「使えそうなイス国の骸が、まさか私をこうした勇者くらいとは……軍事レベルも落ちてきたわね。イス国」
少女は死体に話しかけるように呟く。勿論返事など帰ってくるはずがない。
新たな死体の心臓部分に、銃剣を突き刺す。反応が無いのを確かめると、その死体を調べだした。
普通の人間の感覚であれば、死体を触れる事どころか、見るだけで吐き気を催す物を難なく触る少女。
死体の腹の部分を軽く蹴ると、腐った肉がドロリと崩れ落ちた。
その中に、蛆虫が大量に詰まっている。少女はそれを抵抗無く手で払い除け、金色の通貨を見つけると後ろに使えさせていた死体の口の中に突っ込んだ。
「中々、いい収穫じゃない? 私」
死体から引き抜いた手を振り、手についた液体を落とす。
飛び散った液体をなんとなく見てると、少女は動かない死体の一つを見つめた。
そこには、かつて少女を迫害し、勇者が勝手に追加した法律によって自らの人生を破綻させた、勇者の死体があった。
そこには首が無く、少女が見たかつての勇者の面影はない。
少女はその勇者の死体を思い切り蹴りつけ、骸に向かって大声で蔑みの言葉を発した。
「どんな気持ちだよ勇者、私の人生滅茶苦茶にしていけしゃあしゃあと笑って貴族の豚どもと笑っていた勇者様よお!?
気持ち悪い顔して、何が正義だゴミクズが! ただの器の小さい糞餓鬼が!!」
死体特有の腐った液が、首から少女のふくらはぎにかかる。
「……ふぅ。まっ、死んだら可愛いもんだね。あの勇者も」
少女は深呼吸を数回すると、勇者の死体を使えさせていた死体に運ばせる。
少女は、勇者の死体をチラリと見ると、森の奥へと入っていった。
城内の下には、死体安置所があった。
もっとも死体安置所とは仮初の姿であり、実際は賞金首やネクロフィリアなどを売ったりする場所である。
死体安置所には、そこらに人一人入れそうな穴がいくつもある。
フォロリスはその中の一つに首を一つ放り込むと、アカマイに向かいある言葉を言った。
「時にアカマイ、この剣はなんだ? ただ魔宝石を埋め込んだだけとは思えんが」
「それが、まったくもって不明であります。血液検査の結果、勇者の使う魔法は動体視力の上昇でしたし……」
フォロリスは、手に持っている剣に埋め込まれた宝石を見つめた。
その宝石は、燃えるような紅い色をしている。フォロリスはその宝石から眼を逸らすことが出来なかった。
まるで、魔宝石に縛られているかのように……。
アカマイはそれを、興味深そうに観察していた。
「あ、そう言えばイス国に世界を救った伝説の宝剣が二本あると聞いたことがありますね」
「いや、そんな事より、これ、目線外せない」
「そう言えば、一つは理性を持ち聖なる炎で世界を救い、もう一つは秩序を守り何人剣へ封じるという伝説、イス国にありましたね」
━━伝説の剣、面倒な物を持って買ってきちゃった。と、フォロリスは呟いた。
恐らく、この宝剣は理性を持ち世界を救う、そのような剣だろう。
そのような事を考えていたら、突如宝剣に埋め込まれた宝石が輝き始めた。
《汝、我を持つ資格あらず。我から手を離せ》
「アカマイ、頭ん中に声が聞こえんだ。これ不気味だから処分しといて」
「処分するのは勿体ないので、初期化しときます」
《貴様ら、我を気持ち悪いだと……我を愚弄するか、無礼者共が!》
「だってさ、理性持つ剣とかぶっちゃけ邪魔」
「ですね、よくこんなの国宝にしてたなーってレベルですよこのウザさ」
フォロリスとアカマイのこの言葉、あながち間違いではない。
事実、イス国の城では「うざい」という理由で誰も使わなかったぐらいだ。
「おい、処分されたくなかったら、お前何が出来るのか言ってみろ」
《ふん、聖なる炎で悪しき魂を浄化する事が出来るが、貴様では無理だ》
「なるほど、使い道無し。うしアカマイ、初期化っての頼む」
《待て待て待て、頼むからやめてくれ!》
だったらなにかあんの、とフォロリスが聞くと、剣は言った。
《火花を普通の剣より長い間散らす事が出来るぞ、貴様程度でもな》
フォロリスは少し考えた。
火花とは、鉄と鉄が激しくぶつかる事や、火を起こす時に散る火の粉の事である。
勿論それには発火する程度の熱を持っており、油に火の粉が一つでも散ると途端に燃え上がる。
それが長い間散る、つまり相手に少ないが確実にダメージを与えられるのだ。
アカマイが初期化をする準備をしているのを、フォロリスは止めた。
「うし、貴様を特別に使ってやろう」
「いいんですか? まあ、フォロリスさんがそう言うならいいですけど……」
フォロリスは剣を持つと、試しに剣を思い切り壁に切りつけてみた。
すると火花が、地面に落ちるまで全て消えなかったのだ。
これにはフォロリスも驚いた。そして利用方法を思いついたのだ。彼が予想してたより多く利用法が見つかるという嬉しい誤算と共に……。
フォロリスはアカマイに、次に侵略する予定の場所を聞いた。
するとアカマイは何処からか取り出した地図を地面に広げ、しゃがみ込むと一つの草原を指差した。
「先ずですね、イス国周辺の村を拠点として徐々に侵略していく予定です。
先ずは白い羊の旗がかかっている場所を攻めてもらいます」
「なるほど。で、何人生かしとく?」
「全部駆除しちゃってください」
アカマイとフォロリスの言葉に、フォロリスの手に持っている剣が喋りだした。
《貴様ら、何の罪もない人間を殺すというのか!!》
「そこに生まれたのが罪ですよ」
「暇を他人の死で潰せるならいいだろ。あっ、そういやあいつ忘れてた。拷問中の……」
「あー、貴方達が来るちょっと前に死んじゃいましたよ」
フォロリスは少しばかり残念そうな顔をするが、すぐに気味の悪い笑顔に戻った。
残念そうな顔をしたのは、もう虐められないからという理由で、笑顔が戻ったのは人を殺せるからである。
剣はそれを知っていて、先ほどの質問をしたのだ。彼らの中に、少しでも人間らしい心が残っているのを願って。
だが、剣の願いは儚く消える。そして恐怖する、罪もない人々をこの身体で殺すという恐怖に……。
「んじゃ俺もう寝るわ、今日は飯要らん」
「あっ、天井裏にネズミ出ましたけど……」
「心配ない、動物は好きだ」
剣はその言葉に、またもや希望を持った。
もしかしたら、彼ならまだ引き返せるかもしれないという希望を……。
だが現実は非常である。剣の願いは永遠に届かぬだろう。
フォロリスは剣を引きずりながら、死体安置所を後にした。
無機物に感情があるってよくあるけど、その無機物が所持者の思考を拒絶するのは無いよね。
とまあそんなのは置いといて、この小説、遅れてしまい誠に申し訳ありません。
どうも執筆が進まず、ついついニコニコ動画でMADやらゆっくり実況プレイやら他の小説やらで時間がいつの間にか過ぎてゆくというので・・・・・・。
とまあ謝罪はこのくらいにして、秋になりましたね。
秋といえば体育の秋、読書の秋、秋姉妹の秋ですね。
体育祭の踊りで初めて、自分が屈伸出来ないというのを知ってしまいました。
正直、ちょっとばかりショックです。
では皆様、また次回、この時間にお会いしましょう。
もっとも、次回は何週間後かはお楽しみ・・・・・・・ですよ。