第六話 死体任せの高速殺人
緑色の草原に、数個ほどの茶色の布のテントが夕日によって紅く染められている。
そのテントの天辺には、蛾のよなモノに鳥の羽が生えたようなペナントが付けられていた。
そのテントの中で、一回り大きなテントから黄金の額当てを付けた青年が出てきた。
その青年の手には大きな剣を持っている。
その剣を掲げながら、あたりの人間に叫ぶように言う。
「みんなー、晩飯を狩りに行くぞー!」
その声で、全てのテントから人がゾロゾロと出てきた。
その数、ざっと三十人程度。
「うーし、みんな居るな。んじゃ、A班は俺と一緒に狩り、B班は……木の実とか採ってきてくれ。C班は水だ。では、各自解散!」
そう言うと、数十人の人が森の中へ入っていった。
それを追うかのように、フォロリス達も森へ入った。
森は何故か必ず、物語の世界では薄暗かったりする。勿論この世界でも、そのように森は不気味に薄暗い。
遠くから野獣の雄叫びが聞こえ、それを追う人間の足音も聞こえる。
突如獣の声と共に人の断末魔のようなものをBGMとして聞きながら、アンドロイは兵士の一人に命令した。
「ちょっと偵察に行ってきてね~。ボーナスあげるからね」
「了解いたしました、アンドロイ隊長」
そう言い姿が見えなくなると、断末魔が聞こえた。
その声を聞くとアンドロイはフォロリスに向かい言った。
「とまあ、大体こんな感じで命令していけばいいよ。副隊長のフォロリスくん」
「了解した。うし、皆各自拡散しイス国の兵士を殲滅せよ」
紫色の茸を踏み潰しそう命令するフォロリス。茸から出た汁を草で拭うと、鉤爪を適当な場所に向ける。
魔石が鈍く赤と紫を混ぜたような色を発すると、鉤爪を向けた場所の木々が全て真っ二つに引き裂かれた。
木片と粉が幻想的に舞う。
フォロリスは満足そうに爪を下ろすと同時に、独立部隊は散り散りに拡散する
「なるほど、中々の威力だな」
「君の世界じゃ、こんな物無いだろうからね~。まっ、十分に満足したのなら……早速活躍してもらおうか」
アンドロイがそう言うと、木々から急にイス国の兵士が五人、アンドロイに斬りかかってきた。
アンドロイはそれを難なく避けると、何処かへ走り去っていった。
兵士は次の標的にフォロリスを向く。
が、既にそこにフォロリスは居らず、瞬時にフォロリスは兵士の後ろへ居た。
右腕にある爪を胴体に突き刺すと、もう二人の兵士がフォロリスに斬りかかる。
瞬時に絶命した兵士から爪を引き抜くと、溢れ出た血が地面を紅く染め、血溜まりを作る。
「次、冥府へとご案内っと」
爪に埋め込まれた魔石が鈍い光を放つと、兵士の首が三つ、地面に転がった。
首を蹴り飛ばすと、木に当たり草木の掠れる音が鳴った。
その音を聞きつけ、魔物が姿を現した。
巨大な牙がある四足歩行の猪が、フォロリスに向かい突進してきた。
骨の砕ける音と、肉と骨の破片があたりに飛び散る。
更に、その猪を追いかけるかのように敵兵が姿を現した。
敵兵に気付いたときは、フォロリスの身体は木に当たっていた。
「グッ……チッ、敵まで出てきやがった」
「貴様、仲間を何処へやった!?」
猪のような魔物の首を掻っ切ると、敵兵に向かって転がっていた首を蹴り上げた。
敵兵はそれを受け取ると同時に、フォロリスは姿を消した。
敵兵はそれを抱きつくように持つと、その首に語りかけるように言った。
「必ず、お前の敵は取るからな・・・」
アンドロイは敵の頭を見つけるため、森の中を探した。
あたりに死体が大量に蠕いている。
「やっぱ魂を創るのは疲れるねぇ……。まっ、これで給料を多く貰えるなら安いもんだよね~」
敵兵がアンドロイに斬りかかるが、それを死体で受け止める。
血が、敵兵の剣と身体を汚した。
死体ごと敵兵を蹴ると、死体は敵兵の顔を食いちぎる。
水たまりのような音を鳴らしながら、死体は前進していく。
途中、敵兵の死体に足を取られ転ぶ者もいたが、前進をやめない。
その軍隊のような光景にアンドロイは満足しながら眺めてると、後ろから声が聞こえてきた。
「おい、貴様」
アンドロイが振り向くと、そこにはあのイス国の勇者が居た。
勿論アンドロイは勇者がどのような格好をしてるかは知らない。
だが直感で、命の危機を感じた。
冷や汗がアンドロイの髪を濡らす。
「貴様、覚悟は出来てるのだろうな?」
「おやおや、死ぬのは御免被りたいよ」
アンドロイは冗談を言うトーンで答えると、瞬時に距離を取り、死体に勇者を殺すように指示した。
七個のしたいが一斉に襲いかかる。
死体は手に持っていた剣、腕を振り下ろすが、勇者は手に持つ剣に埋め込まれた宝石を光らせると、襲い来る死体を一瞬で灰にする。
その光景に唖然とするアンドロイ。
「“神の炎”とか、反則だよ……」
「悔い改め、浄化されろ!」
勇者が炎を出すと、アンドロイはナイフを投げた。
ナイフが炎に当たると、ナイフは跡形もなく蒸発してしまった。
それを確認すると、アンドロイは姿を消す。
「全く、あんなのが相手に居るとか聞いてないよ本当に……。
まっ、こっちの勇者様に期待しますか」
「勇者? 貴様の国の勇者なんぞ、ただの子供だろう!
俺のような神の加護を持つ者には無力に等しい! さあ来い、グリードの勇者!」
勇者は声を大にして叫んだ。すると勇者の肩を何かが切り裂いた。
肩の肉は削ぎ落とされるが、飛び散った肉が肩へ戻り、再生する。
勇者は攻撃の来た方を睨むと、落ち葉を踏み鳴らす音が聞こえた。
ナイフとナイフが擦れ合う音が聞こえ、その音の正体の姿を見せる。
勇者はその姿を見て唖然とする。
落ち葉を踏み鳴らす音の正体は口を開く。
「久しぶりだなぁ、パシリの晋也くん……だったかな?」
「貴様が何故、この世界に居るんだ!? 日下部!」
「残念、この世界ではフォロリス=スターコーストと名乗ってるんでね。便所飯の晋也」
「だ、黙れ!!」
晋也はフォロリスに斬りかかるが、それを難なく避け腹に二、三発殴る。
晋也はそれを気にせずに剣に埋め込まれた魔石を光らすと、勢い良く炎を出す。
フォロリスはそれをあたりに転がっていた敵兵を盾としてやり過ごした。
敵兵の骸の後ろを思い切り蹴り上げると、敵兵は前進するかのように晋也へ飛んでいく。
それに気を取られているのをいい事に、フォロリスは斬殺魔法を唱えた。
敵兵の胴体と共に哲也の胴体も飛ぶ。筈なのだが、惨殺魔法は炎によってかき消されていた。
「チッ、厄介なもん持ってんだなおい!」
「黙れ! 俺はお前に殺された、その恨みを今晴らす!」
勇者がそう言い切った時には、フォロリスの姿は無かった。
背後からの気配に振り向きながら切りつけるが、それは死体だった。
死体から吹き出た液体が勇者の目に入り、視力を潰す。
「簡単な水魔法を封じだ魔石、まさかここで役に立つとは」
「き、貴様、汚いぞ! 何処だ!」
フォロリスは死体の背後から出てくると、哲也の首を爪で切り裂く。
森が血の赤色で染められ、フォロリスも血で汚す。
フォロリスは哲也の持っていた剣を持つと、哲也の首を切り落とし、手に持った。
剣を持ちながら、大声で叫んだ。
「任務は完了した、ただちに撤退せよ!」
そう叫ぶと哲也の首を手に持ち、森の中をあとにした。
その頃には、日も落ちていた。
首を手に持ったフォロリスの背後に、アンドロイが現れた。
「え、マジで殺しちゃったの!? ちょ、君強いんだね!」
「ちょっとばかり身体能力が高いだけだ。あんな加護とかいうバカバカしい小細工なんぞに負けるわけ無いだろう」
「あっはは、言うねー。僕も頑張ったけど、傷一つ付けることできなかったよ。あ、その手に持ってる剣は戦利品かい?
んじゃ、それが君の最初の報酬でいいね? 売るなり使うなり好きにするといい」
フォロリスは何か忘れている気がする。
まあ忘れる位のものなんだろう、と思い、気に求めなかった。
その二人の姿を追いかける独立部隊は、ひどく数が少なくなっていた。
やばい、チートがちょっとどころじゃない。
と書いてから思ってしまったナムです。
どうでもいい話ですが、自分は最近ポケモンにはまっています。
もしクチートを使ってくるトレーナーが居たら、それはもしかしたら自分かもしれませんね。
では皆様、また次回