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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第三章~新たな悪魔~

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第五十四話 ポーカーフェイス

 大理石を敷き詰められた床を、緑の服を着た人間が忙しく行き交う。

 誰もかれも金十字の刺繍が施されており、かなり高い位置に居る人間だと判断できる。

 前日、アンドロイの部屋が突如爆発したから、その原因を突き止めるために。

 当然アンドロイが意図して行ったものだが、誰もその証拠を━━帝領伯守護隊でさえ掴むことが出来ずにいる。

 だがそれも致し方ないと言えるだろう。

 まだ姫にしか公開していないプラスチック爆弾『ゼリグナイト』、その全貌を知る者はアカマイとアンドロイ、そして第四十四独立前線部隊しか居ないのだから。

 そんな迷宮入りした事件を追うような人々を、誰も登ることが出来ない筈の天井高い窓から見下げる人間が一人。

 レモンイエローの髪にルビーとエメラルドのような瞳、そしてナチス親衛隊のような服。

 胸にはハーケンクロイツが記されたネクタイをしており、結び方は首吊りのロープと同じ結び方をしている。

 四十二小隊長ジャック・カッツェは、忙しそうに動く人間を眺めながら朝食を取っていた。

 膝の上にはバスケットが置いてあり、ドクロとクロスさせた骨の模様が記された布で蓋をされている。

「大変そうだねー、みんな」

 バスケットからベーコンとレタスとトマトを挟んだサンドイッチを取り出しながら、独り言ちに呟く。

 日の光は、この人間の身体が被さり影となっているがこの城ではよくある事なので、誰も気にしない。

 ジャックはサンドイッチにかぶりつきながら、行き交う人々を眺める。

 レタスに塗った粒マスタードの粒をかみ砕き、少し顔をしかめた。予想以上に辛かったようだ。

「……粒マスタードを買うのはもうやめよう、やっぱりバジルこそが志向だね」

 涙を赤いハンカチで拭きながら、呟く。

 今朝アンドロイの部屋からこっそりくすねてきたものだ。

 賞味期限は一日過ぎてしまっているが、別にジャックはそのようなもの多少は気にしない。

 流石に半年も過ぎていたら少しは戸惑うが……。

「食欲失せちゃったなー、適当な人のそばにでも渡しとこうかな」

 ジャックは前に体重をかけ、窓から飛び落ちる。

 窓から差し込む光の影が無くなると同時に、ジャックは姿を消した。

 あたかも、最初から何もなかったかのように。


「アンドロイさん、ゼリグナイトを仕掛けすぎですよ」

「いやー、面目ない」

 山一つは入るのではないかというくらい大きな空間、鼠色の壁には大砲や機銃等、部品がかけられている。

 グリードの兵が奴隷に鞭を打ち、動かない奴隷を無理矢理動かす。

 蟻のように装甲を、戦艦の天井に貼り付け溶接していく。

 戦艦製造工場、イス国を大陸ごと神の杖で破壊し、強引に海と繋ぎ建築された非公式な工場だ。

 イス国出身の奴隷には、勿論そのことを伝えておらず『いつか国に帰れる』という一生叶わない希望を持ち続けている。

 この案を持ち出してきたのはフォロリスで、アカマイはその案を即採用した。

 もう既に大部分は出来ており、完成はあともう少しだ。

 その様子をしっかり見れるように増築された、戦艦を製造するところから見れば小さな一室。

 ちょっとしたロジックのようなそこそこ広い部屋。

 絨毯は紅く、ハーケンクロイツの模様が記されている。

 壁も同じ鉄製なのだが、製造工場とは違い白く塗り直されており、あの特有の冷たい感じは無い。

 ただ、やはり触れば冷たいのだが、そんなのに触るのは猛暑の時くらいである。

 奴隷が働いてるか見渡す為の強化ガラスを背に、アカマイは少々ご立腹であった。

「おかげで上の連中が騒がしいったらありゃしないですよ、私に責任擦り付けようとしてくるし……」

 正座させられているアンドロイの前で仁王立ちをしているアカマイ。

 その後ろでフォロリスとベラがポーカーをしている。

「いや、本当にすまないとは思ってるんだよ? でも仕方ないじゃん、殺らなきゃ殺される状況だった訳だし」

 アンドロイが必死に弁明を求める。

 確かに彼の言う通り、あの状況ではああしなければ殺されていたのは明白である。

 だがフォロリスもベラも、ああいう風に大きな被害を出さずに解決してきたのだ。

 いつの間にか、アカマイの中での基準が化け物染みてきたのも仕方ないと言えるだろう。

「確か、帝領伯守護隊は全員貴族なのよね?」

 アカマイの後ろでベラが、ダイヤのKのツーペアを出しながらアカマイに尋ねた。

 帝領伯守護隊は、穀潰し、いわゆる何処にも就職出来ず何の能力も無いカスの最終就職地である。

 一応穀潰しは世間体として非情に悪いので、取りあえずこの帝領伯守護隊に就職させるのだ。

 そのくせ下手にプライドが高いので、王族達も扱いにほとほと困っている。

 一応、第一帝領伯守護隊には選りすぐりのエリートばかりが募っているが、使えない奴らも同じくらいプライドが高いのだ。

「つまり、そいつらを殺したって事は貴族共に眼を付けられるって事か。ご愁傷様だなアンドロイ」

 クラブのKのツーペアを出しながら、フォロリスが笑った。

 ベラは悔しそうに舌打ちし、銀貨を三枚、フォロリスに差し出す。

 銀貨をテーブルからポケットに移動させた瞬間、ジャックが天井から下りてきた。

 腰につけたアイスピックが、着地の衝撃でぶつかり合い金属音を出す。

 構造上、誰も上に上がることは不可能なのだが、ジャックの登場に誰も騒ぎはしない。

「あら、ちょうどよかったわ。私たちの代わりにカードをシャッフルしてくださる? さっきから負けてばっかで……ね?」

「五分五分だろうが」

 フォロリスの方が、勝率が二回ほどいいだけなのだがベラにはそれが、とても悔しいようだ。

「まあいいけどさ、通常の掛け金は銀貨……ちょっとした貴族の豪遊だよねこれ」

 そう呟きながらジャックはカードを数回シャッフルし、五枚ずつ配る。

 それを両者とも同時に手に取り、不必要なカードを場に出していく。

 フォロリスは三枚、ベラは二枚を交換した。

 新たなカードを受け取ると、二人は同時に一枚の銀貨を場に出す。

「さて、と。Jのワンペア以上の役を持っていますか?」

 二人は無言でうなずく。

 ここからは駆け引き、シャッフルはジャックにやらせた為フォロリスもベラも不正は不可能。

 当然そのような能力は両者とも持ち合わせてはおらず、運は同じくらいかなりいい。

「三点追加だ」

 フォロリスが銀貨を三枚、追加した。

 それと同時にベラも銀貨を三枚、場に出す。

 貧民では絶対に見ることが出来ないような金額だが、第四十四独立前線部隊は金貨数十枚分の銀貨を所持している。

 たかが一個大隊にそれほどの資産があるのは異例だが、そのほとんどを国の為にという建て前で使っているので無駄に摂取されることは無い。

 当然その資産を狙おうとする兵士は居るのだが、ただでさえ化け物揃いだったのがフォロリスの勧誘で約六千人の吸血鬼大隊が完成したのだ。どのような自殺希望者であろうと、この大隊に逆らおう等とは到底思いはしない。

「なら、私は十七点追加」

 銀貨の塔が、小さなテーブルにそびえ立つ。

 イス国侵略を成功させた軍人は、毎月銀貨七十枚ほど受け取っている。

 これは一生豪遊出来るくらいの金額であり、事実イス国侵略を共にしたエドワンはこの給金を受け取るや否や軍を辞め、上流社会で豪遊しながら生きているのだ。

「さあ、どうするフォロリス。降りるかしら?」

「……いや、このまま続行しよう」

 あっさりと銀貨を十七枚出した。

 これまで出た掛け金は、両者とも二十一枚。王族が一生に使う金額と同じくらいだろう。

 そして二人は、同時にカードを場に出す。

 ベラの手はハートの二が四枚、フォーオブアカインド。

 当然これは中々出ないもので、ポーカーゲームとなったらほぼ必勝と言っても過言ではない。

 だがフォロリスは、それを見て口をいびつに歪ませ、笑った。

「ま、まさか……」

 戦争の時よりも鼓動が速くなり、手足が痺れる感覚になってしまう。

 フォロリスが出したのはダイヤのA四枚とジョーカー、滅多に所ではなく生きてる間に見るかどうかも不明な手。ファイブオブアカインド。

「この勝負、俺の勝ちだな」

「嘘でしょ……あんた、運良すぎよ……」

 がっくりとテーブルに項垂れるベラ、それを笑いベラの銀貨二十一枚を自分の手元にまでたぐい寄せるフォロリス。

 その一部始終を見ていたジャックは思う、どちらも運が良すぎると。

「そういえばジャック、今日は何の用なの? あと赤ワイン淹れて、とびっきりアルコールが高いの」

 ジャックに要件を聞きながら、顎でこき使うベラ。

 よほど悔しいのか、製造中の戦艦を見ながら若干涙目になっている。

 ジャックは適当な酒瓶を何処からともなく取り出し、木製のカップに入れる。

「まあ、ちょいとした暇つぶしに……かな?」

 ベラの側に赤ワインの入ったカップを置き、返答するジャック。

 さりげなくベラの隣に座り、猫のように伸びをした。

 礼を述べながら、上体を起こしカップのワインを一気飲みする。

 もはや風情もへったくれも感じたりしようとしていないが、今のベラは酔えれば何でもいいのだ。

「お前もやるか? カードゲーム」

 頬杖を付きながら、狩りをする獣のような笑みを浮かべながら提案するフォロリス。

 搾り取ろうという魂胆を隠そうともしないのは、彼の性格が出ているのだろう。

「お断りしておくよ、オレは二人みたいに運がいい訳じゃないからね」

 ニシシと笑いながら、自嘲気味に断るジャック。

 人よりは運があると自負しているジャックだが、それも二人の前では霞んでしまいそうな気がしてならないのだ。

 フォロリスは退屈そうに溜息を吐き、アカマイとアンドロイの方を見た。

 今でも説教は継続中なのだが、いつの間にか私的なのに切り替わっている。

「しっかし、二人とも仲いいよな」

 ふと、フォロリスが呟いた。

 フォロリスの言葉に、ベラもテーブルに突っ伏しながら同意した。

「まあ、なんだかんだで長い付き合いなんじゃないの?」

 ベラが木製のカップを指で回しながら、適当な予想を言う。

 ベラ達の会話は二人には聞こえてないのか、まだ説教が続いている。

 ベラの指からカップが外れ、床に落ちた。

「俺の記憶が正しければ、二人が絡むようなったのってここ最近だぞ?」

「そうなの? にしても仲がいいわよねー、異常なほど」

 そう、アンドロイとアカマイが絡むようになったのはフォロリスがこの世界に来てから。

 それまでも一応面識はあったのだが、今のような関係にはなっていなかった。

 こういう風な友達のような関係になったのは、同じフォロリスを抱える苦労を知っているからなのだろう。

 つまるところ、フォロリスが良くも悪くも原因であるのは明白である。

「しっかしあの二人、ずっぽりしっぽり犯ってるわありゃ」

 ベラが酔ってるのか、さらりととんでもない発言をする。

「マジでか、そりゃ恐ろしい」

 そんなベラの言葉に、大して興味もないといった声で適当に返答するフォロリス。

 いつの間にかジャックが、ベラの背中に毛布をゆっくりかけている。

「ありがとうジャック、あっやばっめちゃ眠い」

「えっ?」

 ジャックが一瞬身体の動きを止めたかと思うと、ベラが素早く毛布の中にジャックを入れ、一緒に暖を取る。

 フォロリスには、まるであまり歳の離れていない姉弟のように見えた。

「イチャついてやがんな何処でも」

「あら、なら恋人にしてあげようかしら?」

 ジャックの頭の上に自分の顎を乗せているベラが、冗談っぽく誘う。

「お前の恋人とか、死んでもお断りだね」

 ベラの言う恋人とは、いわゆる死体の事だからだ。

 彼女はネクロフィリア、人の温かさとは無縁の者しか愛せない。

 別に人肌の温もりを恋しいとは思わず、ジャックを自分の懐に招き入れたのも湯たんぽ替わりにする為だ。

 当の湯たんぽとなっているジャックは、顔を真っ赤にしてもじもじしているが。

「それは残念。そういえばさ、戦艦はいつ完成するのかしら?」

「四日後だ、完成次第ラインハルト部隊が試験運用する予定だから……我々が乗れるのは二ヶ月後ぐらいになるだろうな」

 フォロリスは退屈そうに、指で銀貨を弾く。

 火花が銀貨に映り、黄色く光った。

姫様「……あれ、私置いてけぼりにされてない? まだ恋したい年頃なのに」


副隊長「……(このお茶美味しい)」


 To Be Continued!

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