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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第三章~新たな悪魔~

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第五十三話 可能性

 フォロリスが地下世界を出た時には、既に日は完璧に沈んでいた。

 ラインハルトから貰った淡いグレーの半そで、胸のあたりにサーベルがクロスしてある刺繍がされている。

 ズボンはB.Aやバーテンとの戦闘で血まみれになっており、手には拳二つ分はある袋を持っている。

 中層部、そこそこ立派な建物が立ち並ぶ箇所。

 家の中から明かりが漏れ、くだらない話で馬鹿笑いする男や無駄にやかましい子供の声。はたまた近所迷惑になるのも気にせず喘ぎ声を出す若者……。

 そんな中層部の町を、フォロリスは風化して地表に露出している砂利を蹴飛ばしながら歩いていた。

 あの後━━アンドロイがジャックと出会い話し込んでいた間、様々な手続きや自己紹介を延々繰り返され、既に精神は疲労しきり眠気がフォロリスを襲う。

 ふと空を見上げる、元の世界ではテレビや写真でしか見た事のないように星が煌めいていた。

 だからといって何かを感じるフォロリスではない、そんな人間であれば既に精神を崩壊し廃人にでもなっているだろう。

 彼の美的感覚はかなり狂っていると断言出来る、精神病院に突っ込んだとしてもじわじわと浸食を始めてしまうのではないかと錯覚してしまうくらい。

 フォロリスにとって星とは、方角を確かめる程度の価値でしかない。

 中学の頃友達と馬鹿やりあった時、ふと星を見上げた程度の大したことのない思い出しか持っていない。

 後は祖父と星を眺めたくらいだ。

 感動よりも、祖父が生き生きと方角の確かめ方を教えくれたのを未だに覚えている。

 戦争の記憶、祖父は楽しそうに話していた。

 子供ながらに祖父は狂っていたと思ったが、ついつい今の自分と照らし合わせてしまう。

 人を撃ち、刺し、上官を殺して肉を食べ、政府から逃げアメリカへと亡命……。

 よくよく考えれば、とんでもない人生を歩んでいたのだが、当時のフォロリスは何の疑問も持たずに聞いていた。

「あっ、大隊指揮官~」

 空き家となっている民家の屋根に、一人の人間が足をぶらぶらさせながら座り、フォロリスを呼ぶ。

 左手にはワインの入った瓶を持ち、膝の上に、紙で包んだ生ハムとモッツァレラチーズのサンドイッチを乗せながら。

「ジャックか、わざわざお出迎えとは痛み入る」

 フォロリスの演技臭い台詞に、ジャックはニヤリと笑う。

 左手にワインのガラス瓶を持ち、右手にサンドイッチを持ちながらジャックが屋根から下りる。

 猫のように、着地の瞬間全身を曲げ衝撃を地面へ逃がす。

「お出迎え……ねえ。オレが来たのはそんなんじゃないよ」

 ククッと喉を鳴らしながら、ジャックが訂正を求める。

 フォロリスにも言葉の意味は解らないが、どちらにせよ彼には関係ない。

 その為、来た理由というのに興味を持たずそれ以上追及はしなかった。

 首を鳴らしながら、城の方へと歩いていくフォロリス。

 その後ろをジャックが、サンドイッチを食べながら追いかける。

「今は城に行かない方がいいと思うよ、大隊指揮官殿。巻き添えを喰らいたくなきゃね」

 サンドイッチにかぶりつきながら、城の方を見るジャック。

 フォロリスもつられて、ジャックと同じ方角を見る。

 すると驚くことに、アンドロイの部屋の窓から一人の男が、這い下っているのが見えた。

 アンドロイだ。背中には、フォロリスの着ている服と同じハーケンクロイツのマークが付いている。

「……何やってんだ、あいつ」

 アンドロイが二階の窓を叩くと、見慣れない兵士が窓を覗き込む。

 何だかわからないといった顔だったが、取りあえず外に出しておくのは忍びないのでといった感じだが窓を外し、アンドロイを部屋の中へ入れた。

 アンドロイの部屋から、高級そうな布の服を着た兵士が窓の下を見下ろす。

 第四部隊の人間、素人が見ても解る。

 窓に立てかけてある槍は使った様子が無く、他の兵士もおぼつかないといった感じに槍を持っている。

「やっぱり来たか、賭けはオレの勝ちだね」

「へいへい」

 フォロリスは袋から銀貨を数枚出し、指で弾く。

 ジャックが瓶を上へ放り投げ、落ちてくる銀貨をズボンのポケットを広げ中に入れる。

 そして一度身体をターンさせ、落ちてくるワインの瓶をキャッチし、そのまま飲んだ。

 ジャックが喉を鳴らすと同時に、アンドロイの部屋が爆発した。

 闇を縫うように、熱の塊が太陽のように輝く。

 紅い煉瓦と木、そして本が外へ、城を削ったかのように爆散する。

 爆風がフォロリスが居る場所からでも感じられ、爆熱が両隣も巻き込んで気球のように紅く膨らむ。

 煉瓦の破片が上層部の民家に飛び散ったのか、悲鳴が夜風にこだまする。

「うん? この銀貨、ちょっと酒臭いけど……」

 巨大な爆発から目線を下にずらし、フォロリスから受け取った銀貨に鼻をこすり付けて臭う。

「そりゃそうだ、俺のじゃねーからな」

「ふーん。まっ、いいけどさ」

 フォロリスがジャックに渡したのは、酒場からくすねてきた金なのだ。

 その額、約金貨四枚分。

 銅貨二千枚で銀貨一枚と同じ価値となり、銀貨六千枚で金貨一枚分となる。

 金貨七枚あれば、国を一つ買える。この大陸では金が出ないので、そういった計算方法が根付いたのだ。

「そういや大隊指揮官、こんな話知ってるかい? 第一帝領伯守護隊隊長の話なんだけどね」

「……だいたい予測は出来る、貰っていいか?」

 どうぞ、とジャックがサンドイッチを一つフォロリスに渡す。

 ジャックのサンドイッチに使われているパンにバジルが混ざっているのか、緑色の葉をすりつぶしたような模様が付いている。

 一口食べると、口の中でモッツァレラとトマトが混ざり合い、美味みを引き立てる。それを引き立てるように、バジルが程よく自己主張を出す。

「これ、手作りか?」

「正解、家庭的な人は男女問わずにモテるんだよ」

 にしし、とジャックは笑う。

 フォロリスも一応料理は出来るが、ジャックの歳には包丁しか握ったことが無かった。

 味だって、悔しいことにジャックに負けている。今のフォロリスでは、恐らくだが追いつけない。

 彼の意外な特技に、フォロリスは心底関心した。

「話を戻すとしようか、隊長。

 十年毎に製造する予定の戦艦製造に眼が付いちゃった第一帝領伯守護隊隊長が言うには━━」

 そこまで言ってジャックは、サンドイッチにかぶりついた。

 口の端から、トマトの果汁が妖艶に垂れる。

 腕で果汁を拭い、言葉を続けるた。演技のように、心底楽しそうに。

「━━重巡洋艦プリンツ・オイゲン、巡洋戦艦シャルンホルストとグナイゼナウ。そしてビスマルク。

 隊長が戦果の褒美として受け取る予定の、グラーフ・ツェッペリン空母は別として、他の戦艦の製造中止命令。これがもし通ったならば、大陸に攻め込むというオレらの目的が消えてしまう。実に一大事だと思うんだよね、オレ」

 ジャックが言った戦艦は、どれも社会主義国家ドイツ━━故・ナチスの戦艦の名称である。

 この国の技術力では、それらを造るのが限界と判断したのと、ただ単にフォロリスの趣味によって製造されている。

 だがこの世界の技術力は、中世ヨーロッパ程度しかない。

 だとしたら、第一次世界大戦で製造された戦艦であろうとかなりの最先端兵器と言えるだろう。

 当然、この大陸だけが中世ヨーロッパ程度の技術力しか無いのかもしれない確立が無いとは言い切れない。

 どちらにせよ、製造して別の大陸へ確かめに行かねば判明も付かないのは明白である。

 ジャックが言った、第一帝領伯守護隊隊長の命はそれらを確かめるチャンスを奪うものである。

 もっとも、それらでさえフォロリスの━━第四十四独立前線部隊の軍を挙げての、ちっぽけな目的の前には霞むのだが。

「だが俺らは、女王に太い繋がり(パイプ)がある。故に一隻は確保出来るだろうな。

 だとしても、グラーフ・ツェッペリン空母一隻しかないのなら世界征服は無理だ。流石に戦艦一隻では第一次異世界大戦も難しい」

 フォロリスは忌々しそうに舌打ちをした。

 人は新しい物を目の敵とし、難癖をつけるのはフォロリスが一番理解している。

 事あるごとにマスコミは老害の言葉を優先して放送し、昔の面倒な作業を美学と持つ。

 その程度ならいいのだが、それを押し付けてくるのだ。

 それも下手な権力を持っている相手ならなおのこと恐ろしい。

 そういった目に合わない為に、フォロリスは人を殺し金を設ける道を歩むことを決めたのだ。

「じゃあどうする? 一帝領伯守護隊隊長殺してもすぐバレるだろうし」

「国を落とすのも面倒だし、スポンサーが居なくなるのは不味いな」

 顎に手を当てながら、フォロリスは考える。

 どうしたらバレずに、面倒な人間を葬り去れるか。

 フォロリスはバレずに殺すのが、あまり得意ではない。

 これまでのは偶然、誰にも目につかなかったりしただけだ。

 元の世界でも出来る限りバレないようにして、警察上層部や極道との繋ががあり、そこに頼んで判明してしまった罪を強引にもみ消してもらっていた。

 故に誰にも気づかれずというのは、これまであまりやったことは無い。

「こっちからちょっかいをかけて、決闘を申し込ませるとか?」

 ジャックの提案に、フォロリスはすぐさま首を横に振る。

「まずそうした場合、難癖付けて俺の首が物理的に飛ぶだろうな。受け入れた場合でも、俺は長い得物を使うのは苦手なんだ。副隊長にも負けるさ」

 フォロリスは自嘲気味に言う。

 ナイフを扱うのに長けるフォロリスは、逆に長い得物は使いづらいのだ。

 ナイフにも長い物は存在するが、だとしてもロングソードやらよりは軽い。

 そういった得物は、副隊長の方が上手く使える。

「あっ、アンドロイ隊長連れてかれた。でもまあパイプあるからなー、死なないだろうねー。残念」

「いざとなりゃ煙玉やら使って逃げそうだもんな、あいつ」

 フォロリスは笑う。

 アンドロイはなんだかんだで、フォロリスと共に行動して生き延びてきた猛者である。

 その実力はともかくとして、しぶとさだけならゴキブリと並べてもいい。

「どうする? 副隊長にでも━━」

 ジャックの言葉は、後ろから来た人によって遮られる。

 副隊長が、左手にクッキーと何かの丸まった紙を持ってジャックの後ろに立っていた。

 背中に、一メートル三十センチほどの長さを持つ太刀を背負っている。

「あっ、いいところに来たね副隊長。君、決闘とかやってくれない?」

 フォロリスにクッキーを渡してから、副隊長は首を縦に振る。

 ジャックはそれに嬉しそうな顔をしながら、副隊長の背中に飛び乗った。

 少し体勢を崩したがなんとか整え、額の汗をぬぐう。

「いやー、ありがとう副隊長!! さあさあ早速老害どもを皆殺しだー!」

 ジャックが、副隊長の頭をなでる。

 副隊長はされるがままで、目線でフォロリスに助けを請う。

 だがフォロリスはそれを楽しそうに眺めていた。

「……ん? 副隊長、その紙見せてくんない?」

 副隊長は言われるがままに、ジャックに紙を渡す。

 ジャックは軽く礼を言うと、丸まった紙を広げた。

 そこには、巨大な戦艦がいくつも描かれている。

「副隊長、これ何処で見つけた?」

 フォロリスが聞くと、副隊長は自分の後ろ━━上層部が住む町を指さした。

「どうやら戦艦の方は、心配しなくてもいいようだな」

「だね、これだけ宣伝していれば今さら中止するのは不可能。それも上層部が完成を楽しみにしているとしたら」

 国とは、住民が税を払うおかげで成り立ってると言っても過言ではない。

 それはつまり、住民の殆どが仕事をボイコットした場合、城内の食糧・武装・衣服が十分に行き渡らなくなる。

 それは城が飢餓状態となることを意味する。

 フォロリスはそうなったとしても困りはしないが、贅沢を覚えた権力者は違う。

 今の生活を維持し、更に上を目指そうと思っているのであれば住民から出来るだけ反感を買わないようにするだろう。

 故に、戦艦完成を士気として働いてる住民に製造中止と発表したら、ボイコットが起きるのは目に見えてる。

「……勝ったな」

 フォロリスは、残虐そうに笑った。

姫様「副隊長さんの声聞いたことのある人ー?」


アカマイ「ゼロですね、まあ予想通りですけど」


姫様「どんな声なんだろうねー?」


アカマイ「意外とフォロリスさんみたいな声だったりして」


姫様「それはないと思うなあ」


 To Be Continued!

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