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魔石と殺人狂  作者: プラン9
第三章~新たな悪魔~

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第五十一話 化け物の奥の手

 命の危機にさらされてしまうと、条件反射で身体が動いてしまうことがある。

 今、B.Aの目の前から、危険が走り迫ってくる。

 野獣のように鋭く濁った瞳、黒い髪の毛とそれにこびり付いた赤黒い血、そして獲物を襲う時のような、恐怖しか覚えない張り裂けたような笑み。

 B.Aは混乱した状態で何とか対処しようと試みるが、上手く頭が働かない。

 走馬灯が、過去がミキサーにかけられたようにぐちゃぐちゃになる。

 兄貴と出会い、一緒に酒を飲み、弟と一緒に近辺の村を襲い、フォロリスをここへ案内し、そして殺される。

 彼のこれまでの、実に三十数年分の記憶が一気に蘇っていく。

 走馬灯、人が死ぬ直前に見るという過去の記憶。

 迫りくる刃渡り二十二センチ、ウェンガーグランシリーズのナイフ。

 右手に一本、左手には何も持たずに来る。

 咄嗟的に、無意識のうちに身体が動いた。

 一歩前に踏み込み、身体を沈め、ナイフを持っている右手を掴み、右肘をフォロリスの右肘に当て、肩越しに投げる。

 偶然、習っても居ない背負い投げの型となった。

 当然正しいやり方は習っていない為、フォロリスは頭から落ちていく。

 だが、素早く左手を地面に突き刺し、直撃を避ける。

 皮膚の肉が、B.Aの身体と地面に向かって飛び散った。

 そして素早く自らが突き刺した左手の骨を折り、B.Aから距離を取る。

 地面に、肘から下の腕が生々しく突き刺さり、白い骨を露出させる。

「驚いたぞ、この世界にも柔道が存在するとは」

 フォロリスが受け身を取らなかったのには、二つの理由がある。

 一つは、隙だらけになる為マウントポジションを取られる恐れがある為。

 もう一つは、柔道という競技を行わなかった為である。

 高校生時代、師範に河津掛けという禁止技をやり植物状態にまで追いやった為、柔道を行うのを禁じられた。

 受け身を習う時も、必ず先手を取り禁じ手を行使し、体育教師全員を植物状態、もしくは脳死状態にした。エアパッキンを潰すように、なんてことのないと言わんばかりの顔で。

 その為、受け身の取り方など覚えておらず、そもそも普段から一撃必殺で殺してきた為、覚える価値が無いと判断し練習も、観察さえもしていなかった。

 だからこそ、このような無茶な脱出方法が出来たのだ。

「だが、そのような流儀流儀等ほざく武術で、俺に勝てると思うか? ん?」

「……仕方ない、ちょいとばかし情が移ってたが━━」

 先ほど自らが動いた奇妙な動きに対する驚きから立ち直り、右腕の右側に落ちているナイフを拾い、右手で構える。

「殺さなきゃ俺が殺される、容赦はせんぞボウズ」

 眼には、もう迷いが無い。

 殺す覚悟。フォロリスとは違う、冷酷な機械のような瞳。

 その眼を見てフォロリスは、つい笑みを浮かべてしまう。

 永らくないだ、ぬるま湯のような殺しばかりで飽き飽きしていたのに、かなりの使い手が獲物となってくれる。

 フォロリスは殺人鬼である前に、殺人狂である前に、戦闘狂だったのだ。

 だからこそこの世界に来た、だからこそ戦争に乗り気になった、だからこそ━━アカマイを殺したりしなかった。

 戦闘の為に、戦争の為に、殺人の為の隠れ蓑。以前ならばそのようなことも考えずに殺していただろう。

 変わったのだ、フォロリスは。日下部は。

「クックククク。面白い、面白いぞ人間!!」

 フォロリスが右袖から取り出したのは、かなりの大型チェーンソー。

 総重量約四十七キロ、化け物のような大きさを誇る機械。

 本来は木を切る為の代物だが、サスペンス映画等では殺人道具としてよく使用される。

 チェーン状になっている外刃を動力によって回転させることで、引く事無く木を切り倒すことが出来る。

 リコイルスタータを勢いよく引き、トリガーで回転数を最大にまで上げる。

 普通のチェーンソーとは違う、大型バイクのような稼働音を辺りにまき散らす。

「おらああああああああ!!!!」

 狂ったような笑みを浮かべ、雄叫びを上げながら、チェーンソーを地面にこすりつけながらB.Aに突進する。

 砂が回転する刃によって空中へと持ち上げられ、煙を巻き起こし、石が手榴弾の破片のように、フォロリスの足に突き刺さっていく。

 だがそのような事は意も課さず、B.Aの、ナイフを持っている右手めがけて振り上げた。

 砂煙が巻き起こり、B.Aはつい右手で眼を押さえてしまう。

 そのままチェーンソーを振り下ろそうとしたが、チェーンソーの力を押さえきれないのか、B.Aのすぐ右手側の地面に突き刺さる。

 チェーンソーは唸り声を上げながら前進し、ラインハルトの居る場所の向かい側の建物を縦真っ二つに切断した。

 木くずが空中に飛び散り、フォロリスの視界が少し霞む。

「力は申し分ないが、コントロールがうまくいかない……か。アカマイに報告せねばな」

 チェーンソーから手を離し、フォロリスが独り言をつぶやく。

 吸血鬼の手という枷から外れたチェーンソーは、大地を砕きながら何処かへと消え去って行く。

 顎に手を当てながら何かを考えていると、後ろから衝撃が走る。

 右胸に、血に塗れたナイフが突き通っていた。

 地面に血が流れ、紅く染まる。

 だが、その刃を右手で何てことのないように掴み、前へ引っ張る。

 予想外の行動に、B.Aの身体はフォロリスの背中に当たる形となった。

「不意打ちとはこれまた、中々卑怯ではないか。人のことを言えた義理では無いが……」

 背中にナイフを突き刺したまま、身体を百八十度回転させ回し蹴りを、B.Aの顎に食らわせる。

 吸血鬼の力によって威力が増大されたその蹴りは、B.Aの顎を砕き、引きちぎった。

 B.Aの服が、顎から吹き出す血によって紅い染みを作る。

 フォロリスは体制を立て直すと、背中に突き刺さっているナイフの柄に手を伸ばす。

 中々届かないのか、B.Aに隙を見せた。

 フォロリスの腹を蹴って、一気に距離を離す。

 空中で一回転し、地面に右手を付け着地するB.A。

 フォロリスは前方からの衝撃に体制を崩し、後ろへと倒れ込む。

 背中にナイフが、より深く突き刺さる。

「……チッ、またか」

 口から血を垂れ流しながら、地面に手を当てゆっくりと立ち上がる。

 口から血の塊を吐き出し、お腹と背中から血があふれ出る。素人目に見ても解る、致命傷だと。

 だからこそ、これが異様に見える。噂通りだとしても、彼の事をよく知っていたとしても。

 誰しもが、必ず恐怖を覚える。

 邪魔だとばかりにフォロリスは、血によって肌に密着してしまっている服を破り捨てた。

 それを見B.Aは、ラインハルトも目を見開き、つい口を押えた。

 胸には無数の傷跡が、鎧のように重なりぶら下がっているナイフに陰からでも解るくらい茶色に腐り、蛆虫が腐った肉に蠢く。

 バーテンにショットガンを撃ち込まれ、腹の肉はごっそり削り取られたのか白いあばら骨が露出している。

 見るからに神話に出てくる、フィクションに出てくるゾンビその物。

 吐き気を催す、最恐最悪の化け物。誰も彼もが口をそろえ彼をこう蔑むだろう。今のB.Aのように。

「ば……化け物!! 化け物だ、気持ち悪い、気色悪い化け物だ!!」

 建物の影で戦闘を観覧していた野次馬が、立ち上がるフォロリスを罵る。

 B.Aも同じことを思い、同じ━━━━否、それ以上の恐怖を持った。

 致命傷どころか水死体、腐乱死体にしか見えないのが喋り、動き、意思を持つ。

 今までこのような化け物と親しげに話してたと思うと、吐き気が込みあがり、恐怖で身体が震える。

「はあ、オリジナルだと再生能力とかあったりすんのかね? だとしたらこの身体、かなり不便ってことになるな」

 腹から抉れている肉を引きちぎり、不満そうにそれを見た。

 粘着性の高そうな糸が、肉と肉のわずかな隙間で絡み合い、どくんと鼓動している。

 肉からは血が、湧き水のように溢れ流れ出で続け、血だまりをフォロリスの足元に作った。

「さて、と。仕切り直しといきますか」

 後ろにその肉を放り投げ、新たな得物をナイフの鎧からワイヤーを引っ張り出し、取り出す。

 ジャラジャラと、人口太陽の光に当てられ銀色に輝く無数のナイフ。

 まるで銀色に輝く羽、銀色の鳥。鉄の鳥。

 その中からスペツナズ・ナイフを一本右手で引き抜き、B.Aに刃先を向ける。

「来いよB.A、化け物さんが手加減して相手してやるよ」

 スペツナズ・ナイフのトリガーに手をかけながら、いつまでも来ないB.Aを挑発する。

 自分から動くとは、相手にかなりの隙を見せ、次の行動を予測をする時間を与えてしまう。

 それは戦場で、殺し合いでの勝敗に大きな差をつけるのだ。

 もっとも、それは同じ力量を持つ相手同士での話。

 先に動いた方が負け、というのはB.Aだけであり、フォロリスの方から動いたとしても決して負けはしないだろう。

 だが、そんなB.Aでも恐れるものはある。そして、その恐れを実行してしまうのがB.Aなのだ。

 リスクは決して高くない。むしろ低い方だが、だとしても最小限に抑えられたことにこしたことは無い。

 だからこそ、挑発しているのだ。B.Aを武人だと予想して、予測して。

 フォロリスにとって吐き気すら失せるくらい気色の悪い、美学・流儀・敬意を重んじる馬鹿だと。

 そしてやはり、フォロリスの予想通り事は運んだ。

「手加減だと? ふざけるな貴様、だったらお望み通り殺してやる!!」

 B.Aが一直線にフォロリスへと突っ込んでくる。

 フォロリスは、スペツナズ・ナイフのトリガーに指をかけた。

 片目を瞑り、狙いを付け、トリガーを押す。

 強力なスプリングを押さえつけるリミッターが外れ、ナイフの刃がB.Aの左肩に突き刺さる。

「ぐ、うぅ」

 うめき声をあげ、地面に血を流し、刃が刺さった箇所を思わず押さえるB.A。

 スペツナズ・ナイフの柄を捨て、ナイフの鎧から新たなナイフを取り出す。

 匕首(あいくち)、日本の短刀。よく極道映画で出てくるドスのようなもの。

 だがフォロリスが持ってるのは特注品なのか、(つば)が打ってあり、ひどく不釣り合いに見える。

 だがこれにもちゃんとした理由があり、鍔の後ろ部分にトリガーが備え付けられている。

 これを押すことによって、スペツナズ・ナイフのように刃先を射出することが出来るのだ。

 更に刃先にはフグの卵巣を塗っている。

 フグの卵巣には、テトロドトキシンという猛毒が蓄積されているのは有名だろう。

 テトロドトキシンは元々、海中の細菌が持っている毒であり、それを植物プランクトンが食べ、それをフグが食べ長い間蓄積されていく。

 フォロリスはそれほどこの毒について詳しくは無いが、使えば即死させられるということだけは知っている。

 故に、この匕首に、日本の武器に使ったのだ。

「さて、と。多分即死するだろうから、ありがたく思えよ? B.A、踊らされたピエロさん」

 フォロリスはうずくまっているB.Aの眼に、ナイフを突き刺した。

 瞼を斬り、瞳を突き通し、脳にまで貫通させる。

 絶叫が響き渡ったかと思うと、すぐに泡を吹き、白目を向いて絶命した。

 短刀を引き抜き、B.Aの服を剥ぎ取り血を拭う。

 引き抜かれた短刀の後に、B.Aは涙のようにラインハルトの方を見ながら、血を流す。

 ラインハルトは一瞬、怪訝そうな顔をしたがすぐに興味を失い、フォロリスに拍手を送った。

「いやー、素晴らしい。一切の躊躇も無く殺してくれるな、化け物。……おい」

 奴隷に何か指示を出すと、奴隷の一人がそくさくと店の中へと入っていく。

 フォロリスは肩の力を抜き、椅子の上に深く座り込む。

「約束通り、君に我々の力を貸そう。ちょうど我ら兄弟も、退屈していたところだ」

「そうか、なら早速で悪いが━━二ヶ月後に、早速仕事をしてもらおう。それまで何をするにも自由だ」

 フォロリスがラインハルトにそう命じると同時に、奴隷が服を持ってきた。

 淡いグレーの半そで、一市民が着そうな服。

「弟のお古ですまない、それしか残っていないんだ」

 ラインハルトがすまなさそうに言うと、フォロリスはそんなことを気にせずその服を着る。

 袖を通すと同時に、服を持ってきた奴隷の首を刎ね、溢れ出る生き血を啜った。

姫様「ヒロインじゃないって……どういうことなの」

アカマイ「ヒロインは━━」

ベラ「私よ私、腐女子だし強いしツンデレ描写あるし……こりゃ私がヒロインでしょ!!」

アカマイ・姫様「「あんたみたいな腐女子がいるか」」


……To Be Continued!

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