第四十八話 楽に死ぬという幸福
グリードの城下町、寂れた裏路地にフォロリスは居た。
茶色い煉瓦で造られた壁と壁が日の光が差し込むのを邪魔しており、常に湿っている。
その為地面はかなり湿っており、こければ服を汚しアカマイに怒られることだろう。
このような場所に何故フォロリスが何故わざわざ来たのか。理由は一つ。フォロリスが所属し、隊長を務めている第四十四独立前線部隊の人材補給の為である。
中層部はそこそこ治安が、下層部よりはいい為フォロリスの求める人材は少ないと思われがちだが、実のところは違う。全くもって違う。
下手すれば下層部よりも始末が悪く、あくどい事をバレずに平気ですることに関してはこの大陸一と豪語してもいいくらいだ。
全く持って誇れることではないのだが、フォロリスにとってはそれが一番素晴らしく、それらを一番求めている。
この世で一番恐ろしいのは、犯罪を悪と理解しない人間ではなく、犯罪を悪と理解する人間だと、フォロリスは思う。
犯罪を隠そうとしない人間はいつも追われており、すぐに悪事がバレ警察に捕まるか銃殺される。もしくは殴り殺されたりコンクリートに詰めて海に放り込んだりされるだろう。
だが犯罪を悪と感じる人間は、それが悪だと知ってるがゆえに必死に隠そうとする。
そういった人間はだいたいが容量よく仕事が出来、人付き合いがよく、ちょっとした組織を束ねる程度のカリスマがある。
下層部にはそういった人間が全く存在せず、上層部は金で事件をもみ消そうとする屑ばかりだ。
軍隊を形成するのなら城の兵士を適当に補充すればよいのだが、フォロリスは実際のところ正規軍ではない。
そもそも国籍を持ってない為、この国では居ない事になっている。
故に本来ならば、上層部との直接交渉さえ出来ない立場だというのに、これ以上の物を望めば確実に内部で反乱が起きることは想像に難くない。
もし反乱が起きてしまったとしても、フォロリスは勝つ自信があるが、肝心な足と資金を失ってしまうのは、かなり痛い。
国が潰れてしまっては、別の大陸へ渡る船も、装備を作る金も人材も失ってしまうから。
「取りあえず適当に見つけなきゃな……」
フォロリスが面倒くさそうに、首の皮に自らの指を忍ばせて、首の骨をかく。
ふと上を見上げてみると、見慣れない酒場が目についた。
この街の地形は、だいたい覚えていると自負するフォロリスだが、それは最下層の地形だけであり、中層部・上層部の地形は全く頭に入っていない。
それもそのはず、中層部に用があることはただでさえあまり無いのに、このような裏路地を通る事などほとんど無いからだ。
上層部の方は、アカマイが『フォロリスは危険だから』という理由で行く許可が下りない。
ここまで信頼がないのは、恨まれることになれているフォロリスにとっても少し傷つく事実だが、自分のこれまでの行いを考えてみるとかなり妥当だと思い、自虐的に笑う。
「酒場……ねえ」
ふとフォロリスは、ズボンのポケットを探ってみた。
中には硬貨らしきものが入っており、それを取り出し見てみる。
銅貨がたった四枚、アカマイから今月分の給料をもらってない事を今さらながら思い出したが、いざとなればバーテンでもなんでも殺して帰ればいいかと思い、店に入ろうとする。
だがそれを、傷だらけの顔をしたスキンヘッドの町人が、フォロリスを押しのけて入店した。
黒いオーバーオールの大男だ、身長はフォロリスより身体一つ分デカい。
ドアベルの、鈴の音がカランカランと、さび付いた音を鳴らす。
「別にあせらなくとも、酒は逃げないだろうに……盗られはするか」
奥からフォロリスを押しのけて入店した、慌てん坊の、カタギには見えない男の声が聞こえてきた。
ふと、盗み聞きをしたくなる。
もし裏メニューなどがあるのなら、それを頼もう。フォロリスはそう思い、気兼ねなく耳を傾けた。
こう見えてもフォロリスは、元の世界では裏メニュー巡りをまとめたサイトを見るのがちょっとした、本当にちょっとした趣味だったのだ。
「刃が使えないようになった」
スキンヘッドの男のであろう、酒やけした声。
酒場だというのにそんな単語を出すなど、フォロリスは共通点があるのか? と思い出してみたが、すぐにあるはずがないと思い、耳を傾けなおす。
「マイナスのお酒が入っております」
バーテンの声であろうか、渋くも軽いといった感じの声だ。
マイナス、ギリシャ神話に出てくる神の名。
わめきたてる者を語源とした、ワインと泥酔の神。
そのような神の名が付いた酒という事は、ひどく泥酔出来る酒という事だろうか? とフォロリスは疑問に思う。
「スピリタスをくれ、あとヒトヨタケ」
スピタリスとは酒の名だが、とてもではないが飲めたものではない。
ポーランド原産のウォッカであり、アルコール度数世界最高の酒。
95-96という驚異の高アルコール度数であり、それを飲めば喉は焼けるとまで言われてるほどだ。
当然用途は『飲む』事に使われるのは、まず無い。
多くは消毒か、果実などを付けて果実酒を造る事に使われる。
そしてヒトヨタケはキノコの一種で、酒と一緒に飲む事で酷く泥酔してしまう。
コプリンというアミノ酸を含む成分が、人体のアルコール分解成分であるアルデヒドデヒドロゲナーゼの作用を阻害してしまうのだ。
故にそれを食べた後にも先にも、アルコールを摂取すれば急性アルコール中毒になるだろう。スピリタスを飲んだらどうなるか、想像するだけでもおぞましい。
「支払いは」
「ナイフで」
何か、木と木がこすれあう音が、ぎぃーという聞こえてくる。
どこかを開けているようだ。
そして先ほど入って行ったスキンヘッドの男が、木を踏む音を鳴らしながら下へと降りていく。
足音が、木の扉を閉める音にかき消され、ガラスを拭く小さな音が聞こえてきた。
フォロリスは二分待ち、店の中に入った。
「いらっしゃいお客さん、この店は初めてかい?」
肋骨のような黒い髪のバーテンが、ワイングラスを吹きながら気さくに話しかけてきた。
バーテンの背には、ショットガンがかかっている。
特注なのかグリップ部分には溝がT字型に掘ってあり、一見して外す事が可能のようだ。
そこそこ銃に詳しいフォロリスも、こういった形の銃は見た事がない。
カウンターの上には牛のはく製と、それを撃ち殺すようにショットガンが置かれている。
こちらのショットガンはごく普通の、市販の型である。
フォロリスは、先ほど盗み聞きしたやり取りを思い出す。
「刃が使えないようになった」
フォロリスの言葉に、先ほどまでの穏やかな顔つきが無くなり、拭いていたワイングラスをフォロリスの前に置く。
人間はここまで表情をすぐに変えられるのか、とフォロリスは関心した。
「マイナスのお酒が入っております」
「……スピタリスをくれ、あとツクヨタケ」
「支払いは?」
「ナイフで」
フォリリスはナイフを出そうとせずに、そう答えた。
ほぼ先ほどのスキンヘッドの男と同じやり取り。
ナイフの音は聞こえなかった、これで行ける筈だ。フォロリスは確信する。
だが、フォロリスは見落としていた。否、聞き落していた。
ナイフが一本では音などするはずが無い、と。普段大量にナイフを持ち歩いているフォロリス故に気付かないミスを。
だがフォロリスはそれに気付かない。気付くはずが無い。
何故ならバーテンは、地下へと続く木製の扉を開けようと身をかがめているからだ。
「お客さん、見たところ余所者ですよね。なのに何故、合言葉を知っているのですか?」
バーテンがフォロリスに尋ねる。
フォロリスはどう答えようかと迷ったが、適当にはぐらかすことにした。
「俺の友達の友達のいとこから聞いた」
フォロリスは世間話をするように、他愛もなく答えた。
バーテンは言葉をかみ砕くように頷きながら、木製の隠し扉を開ける。
ぎい、という音が酷く耳に残った。
フォロリスは地下へ降りていこうと、カウンターに手をかける。
「ところでだ少年、『好奇心は神をも堕とす』そうだ」
バーテンは、常人では考えられない速さで壁にかかっているショットガンを引き寄せ、フォロリスの人体に標準を付け、脇をしっかりと締めて両手で構え、右人差し指で引き金を引いた。
トリガーがスライドし、弾がフォロリスの身体をごっそりと削り取る。
その衝撃によってバーテンの身体は後ろへ倒れ掛かり、撃たれたフォロリスは数メートル吹っ飛ぶ。
空気の抜けたバスケットボールのようにバウンドするフォロリスの身体、血が木製の床に染み込んでいく。
バーテンは身体を起き上がらせ、ショットガンのグリップ部分を外す。
「流石に生きてるとは思わないけど、念を入れすぎて損をする事はあまり無い」
グリップには、小さなナイフが付けられていた。
ほんの小さな、心臓に少し切れ目を入れる程度の長さしか無い刃渡り。
だがバーテンは、これで何人もの頸動脈を切り落としてきた。
バーテンはゆっくりと、フォロリスに近づく。
床がぎしりと軋み、年季の入った音を出す。
「あまり恨みは無いけども」
バーテンはフォロリスの心臓にナイフを突き立て、そして抜く。
服は返り血が少し付いた程度であるが、袖はかなり血が染み込んであり、中途半端に染めたようだ。
血があまり飛び散らないのに少し疑問に思ったが、最初のあれで死んだと思えばまあ当然かと思い直す。
ゆっくりとナイフに付いた血を服で拭い取る。もうここまで汚れてしまったのでは、今さらどこに血が増えようがあまり変わりはない。
血を綺麗に拭き終えたナイフを、ショットガンのグリップ部分にはめ直す。
そしてあくびをしながら、カウンターの裏に置いてある『店じまい』と書かれたプレートを出す為フォロリスの骸に背を向けた。
瞬間、フォロリスの手は鉈型の、元細のブレードが特徴のブッシュナイフを持ち、バーテンの左腕に突き刺していた。
血が噴き出、フォロリスの顔に、傷にかかる。手に持っていたショットガンが、カウンターの奥に落ちてしまう。
バーテンは痛みより先に、驚きを感じた。
確実に仕留めた筈。
ショットガンもしっかりと命中しており、更に心臓を貫いた。
人体の真ん中さえ刺せば、たとえ心臓が常人と反対側にあったとしても生きてるはずがない。
否、そもそもあの怪我で、軍隊のように動く事など不可能だ。
カウンターに身体を預け、砕け散ったワイングラスの破片で指を切りながらバーテンは、フォロリスを否定する。
このような生物存在しない、存在してはいけないと。
「相手が勝ち誇った時、すでに敗北している。俺の好きな台詞だ……こういった状態で俺は勝ち誇っているが、果たして俺はこの状況からどう負けるのだろうな?」
袖からジャグリングナイフを十本取り出し、それで二・三回ジャグリングをするフォロリス。
顔は醜く歪み、唇が人体を超越したかのように異常に吊り上がっている。
血まみれの身体に気にも留めないように、フォロリスはジャグリングナイフを一本、バーテンの左肩めがけて投げつける。
だがバーテンも、右腕で左腕に突き刺さったブッシュナイフを抜き取り、投擲されたジャグリングナイフに当てる。
「ば、化け物……がァ!!」
バーテンはうめき声をあげながら、カウンターの奥に落ちたショットガンを拾おうと、カウンターの裏側に手をかける。
ショットガンの弾はもう無いが、バーテンの装填の速さはかなりものと自負している。
だからこそ、死に物狂いで拾おうとする。
だが、フォロリスがそれを許さない。
許すはずが無い。
ここまで楽しい状況、ここまで楽しい玩具。そして何より、特にやることが無いから。
バーテンの右足、太ももあたりに、動けないようにダガーを突き刺す。
バーテンの悲鳴を聴きながら、ダガーの柄を持ち更に深く、深く貫通させる為に体重をかける。
肉が、血が飛び散る。悲鳴が上がる。だが誰も助けに来ない、だが誰も━━その声に耳を傾けない。
フォロリスはそんな状態のバーテンを、不必要にも踏みながらカウンター側へとジャンプし、とどめにバーテンの眼に指を入れる。
そして、バーテンの耳に自らの顔を近づけ一言、
「これが君の、運命の最終点だ」
意味深に、謎に考えさせる言葉を呟き、階段を下りていくフォロリス。
背中から命乞いの声が聞こえてきたが、鬱陶しく思ったのでペンナイフを眼に投げつけた。
どうも、ナムです。
この章はまあ、仲間集め回です。
あと実力見せです、多分皆納得いく強さです。
ぶっちゃけあとがきのネタが無いとです。どうでもいいですが、ジョジョ三部アニメ放送決定オメデトー!!
さて、また次回、来週お会いしましょう!!
To Be Continued !




