第四十六話 差別のジェノサイド
「ベラ、やつ等の死体は回収しなくていいのか?」
フォロリスが階段の上からベラを見下ろし、尋ねる。
ベラがこの地下世界にやってきたのはドワーフの死体入手の為であり、フォロリスのように狩りを楽しむためではない。
だがベラは、フォロリスの右腕を少し悲しそうな眼差しで見つめながら
「よくよく考えてみたら……この肌は、あまり合わないのよね。合成死体には」
残念そうに返答する。
力は素晴らしく、知能もある。そんな死体の軍勢を築き上げればいとも容易く大陸を、全世界を手中に収める事は容易であろう。
生物には力のリミッターがかかっており、普段は最大の三十パーセントしか発揮出来ない。
だが、ある条件で━━━━例えば催眠術や、子供に危機が迫っていたりするとそのリミッターが外れ、百パーセントの力を発揮できるのだ。
だが、普通の生物が百パーセントの力を常に出していたら、体は限界を超え壊れてしまう。
当然だ。普段使われていない力を急に引き出したりするのは、パンク寸前の水風船に水を追加するようなもの。
自然と肉は裂け、骨は砕け、血反吐を吐きながら土に還ることだろう。
だがベラの能力で死体にさえしてしまえば、いくら肉が裂けようと骨が砕けようと、すでに死んでいる為ほぼ永久に動き続ける。
それがドワーフならば、ただの人間以上の力を発揮出来るのは容易に想像出来るだろう。
否、もしかすると想像以上の力を発揮できるやもしれん。
「んじゃ、こいつらをお前の群像に引き入れちまえば?」
「いや、それもちょっとね……」
ベラは抵抗があった。
白人主義者が黒人を拒絶するように、ユダヤ人がナチスを拒絶するように、ベラもまた生理的に無理なのだ。
これはベラの両親によって、そう教育された為であり、今さら変えようもないのだ。
昔から刷り込まれた、正しいと思ってしまったものは抗うことが出来ない。
何も知らない子供のころから教育されては、それも仕方のないことと言えるだろう。
「フォロリスぐらいの肌の色なら、まだ何も思わないんだけどね……」
「俺、死体みたいな色だけどな」
フォロリスが左腕を見つめながら、自虐的なジョークを飛ばし笑う。
もっとも、その左腕も何処かの誰かから奪い取った盗品。すでにフォロリスの四体は、他人のものと化している。
それがベラにとっては、好意を持てる要素となったようだ。
「アローハー、人間さん!」
不意に後ろから気の抜けるような声をかけられ、フォロリスはほぼ条件反射的に振り向く。
手にはナイフを、逆手に構えながら。
声をかけた主は、金色の髪をした褐色肌の女性。
服は露出が高い、オークの毛皮と思われるもので胸が強調されている。
緑色の瞳に、耳に付いた金色のピアス。そして整った鼻。
フォロリスはすぐに、この女はビッチっぽいと思った。
「ちょっ、ちょっと待ってよ。私、貴方に敵意は無いわ。本当よ!」
女性は慌てて手を上にあげ、敵意が無いことを必死に伝える。
彼女としても、まさか声をかけただけでナイフを構えられたとは思わなかっただろう。
「……貴様も、ドワーフか」
フォロリスがナイフを服の袖にしまい込む仕草をしながら、女性に尋ねた。
すると女性は、指をパチンと鳴らす。仕草の一つ一つが、昔のフォロリスの彼女を思い出させる。
「正解っ♪ 私の名前はレーム、よろしくっ」
妙に高いテンションで自己紹介をするレーム、ひとたび下の惨劇を目にすれば、他人から借りてきた猫のようにおとなしくなるだろう。
まるで懐いてる猫のように、フォロリスに体を押し付けているレームを見て、ふとそのようなちょっとしたイタズラを思いつく。
だが一つ、ここでフォロリスには疑問が生まれた。
ここからでも十分惨劇は見えるはずなのに、何故それに気づかない。
そもそもフォロリスに体を押し付けている時点で、後ろの惨劇は目の当たりにしているハズだ。
たとえ怯えてないという演技だとしても、ここまで軽快なテンションで、無警戒にフォロリスに絡むのか。
ふと、彼女の口の息から甘酸っぱい独特な臭いが漏れる。
これでフォロリスはピンときた。
あのドワーフたちの臭いがきつかったため、すぐにわからなかった独特な、阿片の臭い。
大方ついさっき吸ってきた為、頭がラリってる状態なのだろう。
「ねえねえ、あんたの名前教えてよー」
「……フォロリス、大変そうね」
ベラがフォロリスを、ニマニマとした表情で眺めている。
見ようによっては誘惑されているうぶな青年に見える為、ベラにとっては滑稽なのだろう。
何せ何百人・何千人の彼氏持ちなのだ。死んではいるが。
「別に大変でもなんでもないがな」
レームがフォロリスのうなじに唇を近づけようとした瞬間、フォロリスはレームの、無防備となっている首にナイフを突き立てた。
首から血を吹き出し、倒れていくレームから体を逸らす。
そのまま重力に身を任せ、階段の方へ落ちていくレームの体を、フォロリスは後ろから蹴りを入れ階段の方へ落とした。
「あーあー、可哀想に……多分あいつ、あんたに好意持ってたわよ」
階段を転がり落ちていくレームを哀れに思いながら、ベラが適当に言った。
実際はただラリって、妙なテンションになっていただけなのだろう。
「ベラ、あいつの首持ってこれるか?」
何か面白いことを企んだのか、悪ガキのような笑みを浮かべるフォロリス。
ベラは言われた通り、ワイヤーで大広間で血まみれになりながら倒れているレームの首を切り取り、手元に手繰り寄せる。
「で、これどうすんの?」
手に持ったレームの首を指で回していると、フォロリスはベラの手から首を右手で取り、大きく振りかぶる。
そして血管が浮き出るほど力を入れると、勢いよく首を投擲した。
血が放物線を描きながら、五分ほど歩けばたどり着く距離の街へと飛んでいく生首。
「これで街は大混乱、狩りは逃げる獲物を殺るのが一番楽しい」
「……そういうものなのかしら、全く理解出来ないわ」
腰に手を当て満足そうに頷いているフォロリスに、ベラは溜息を吐いた。
石をくりぬいて造られたのであろう家が何十、何百と並んでおり、煙突からは黒い煙が出ている。
道はドワーフたちが行き交い、楽しそうに話し込む者も居れば、殴り合いをする者、阿片を吸ってる者など様々だ。
不思議なことに、生首を投擲したというのに、あまりドワーフ達は騒いでいない。
フォロリスの当てが外れたのか、若干悔しがるフォロリス。
ベラも流石に、少しは殺気だっているかと思ったのだが、予想外の能天気さに緊張がそぎ落とされる気分だ。
「おい、そこの亜人」
フォロリスが適当にドワーフを呼び止める。
ドワーフは頭をかきながら、フォロリスの方を振り向いた。
「あ? なんだ?」
「さっき、誰かの首が飛んでいくのを見かけなかったか?」
フォロリスの言葉に、周りのドワーフも含め全員が爆笑しだす。
一通り笑い終えると、一人のドワーフが小ばかにするようにフォロリスに言ってきた。
「お前さ、あの草のやりすぎで現実と幻覚の妄想もつかなくなったのか? こりゃ傑作だぜ!」
何故騒ぎが起きないのか、やっと判明した。
ドワーフたちはすでに麻薬中毒者になっており、あのような幻覚を見るのは日常茶飯事だったのだ。
ゆえに実際に起きたことも、幻覚と認識してしまっている。
「ま、初めて幻覚見ちまったときはそんなもんさ! みんなが通る道だって!!」
フォロリスが話しかけたドワーフの目線は、どこか泳いでいる印象を受けた。
事実ドワーフ全員の盲点は合っていなく、どこか虚空を見上げているように見える。
やはり阿片のやりすぎなのか。
「そうか、それならよかった」
フォロリスがドワーフを蔑み笑うと、ドワーフの頭を掴む。
ドワーフはキョトンとした表情でフォロリスを見つめている。
「な、何すんだよ。冗談はよせって」
冗談かと思い笑みを浮かべるドワーフに、無慈悲に拳を、顔面に叩き込む。
後頭部から骨と潰れた脳味噌を付けたフォロリスの拳が飛び出し、あたりに紅い液体を飛び散らせた。
口をピクピクと痙攣させているドワーフの頭から、拳を抜き取り腹に蹴りを入れる。
背骨がショットガンのように飛び出し、あたりのドワーフに重症を負わせた。
「……せっかく、逃げるチャンスを与えてやったのにな」
手に付着した血を気持ち悪そうに払いながら、フォロリスが憐れむような、だが心底楽しそうな邪悪な笑顔をドワーフたちに向ける。
全員、蛇に睨まれた蛙のように、身動き一つ出来ない。
フォロリスはそんなドワーフたちを見渡しながら、ナイフを袖から二本取り出し、最初の犠牲者を決める。
ゆっくりと三人組のドワーフに近づき、一人にナイフをゆっくりと心臓部分に差し込む。
血が飛び出し、うめき声をあげるドワーフ。その顔は苦痛に満ち溢れており、フォロリスの心を満たす。
「フォロリス、早く済ませてね」
ベラがあくび交じりにそう言うと、突き刺したナイフを強引に引き抜き、二本のナイフで残る二人を斬り刻んだ。
正確に、首だけを切り取ると、胴体から落ちていく首を、眺めに来るギャラリーに蹴り飛ばす。
当たった数人は倒れ、床や壁に頭を打ち付け血を流すが、そのようなことを気にもせずにナイフで、次々と血祭りにあげていくフォロリス。
心臓に突き刺し、目玉から脳まで貫通させ、首に穴をあけ紅い泡を吹かせ、頭を何度も何度も壁に打ち付けさせ、腹を斬り捌き胃に直接蹴りを入れる。
しばらく経つと、九個の死体が転がっており、予想外のあっけなさに拍子抜けするフォロリス。
「ベラ、お前もどうだ? これが終わったらすぐに帰るんだ、今楽しんでおかなきゃ損だぞ」
「……そうね、こんな機会滅多に無いし」
フォロリスがドワーフの頭を踏み潰しながらベラの方を見やると、若干乗り気になったベラは手を、ピアノを演奏するように動かす。
フォロリスはすぐに身をかがめ、怪我をしないようにする。
しばらく経つと、石製の家の中から断末魔が聞こえ、石の家が次々と崩れ落ちていく。
石ごと中の人を斬ったのだ。
普段は死体を動かすなどの為に、足は動くように殺しているが今回は違う。
対して興味のない死体というのもベラにとっては珍しい為だ。
そもそもベラが死体を集めるのは戦力増加などが目的ではなくただ単純に趣味と好み。
ゆえに興味のない生物は無慈悲に、バラバラに切り刻む。
そこに一切の躊躇も存在せず、あるのはただ破壊衝動のみ。
だが驚くのは、ベラの、この圧倒的な力。
ドワーフの建築技術は、まるで魔法がかかったように固く造られている。
硬度は大理石より少し脆い程度、ワイヤーで斬るのは到底不可能。
だがそれを、いとも容易くベラは斬り刻んだ。ゆで卵を切るように。
「ヒュー、怖い怖い……さてと」
床に横たわった自らの体を起こし、服を脱ぎ付いた埃を手で払う。
「お前さ、死体無い方が強いんじゃないのか?」
「ロマンと実用性はまた別なのよ」
戦争に私情を持っていくのはもってのほかだが、それでも十二分に戦力になるため、誰も文句は言えない。
フォロリスは笑いながらベラの頭を軽く撫でると、鬱陶しそうに手で払いのけた。
「んじゃとっとと殺って、適当に腕の二本や三本持って行ってやりますかな。アカマイの為に」
フォロリスが腕を鳴らしながらナイフを構え、街の中心部へ向かって走り始めた。
すでにベラによって、この街の四分の一は全滅している。
フォロリスとベラは同じ作業を繰り返し、三十四本の腕と四十二個の頭を無事入手出来た。
あのプレハブ小屋に帰ると、血まみれな二人を見てアンドロイは倒れたそうな。
血を洗濯するのは、中々難しいのだ。
今回は少し短いです、すいません。
取りあえずこの小説は百五十話以内に終わらせる予定です、なので再来年には終わります。多分。
死んでしまい未完で終わるとか、エタるのはちょいと勘弁したいですね。特に前者。
ではまた次回
To Be Continued !




