第四話 酒場に映える紅
先ほどの空き地に数十もの魔物の屍の山が築かれている。
懐からマッチを取り出し、屍に水のようなものをかけ、その魔物の山に火を近づけた。
すると屍の山は、綺麗な火の塔となり、火花をそこらじゅうに散らす。その光景は凄まじく幻想的だった。
燃えている屍の山を瞳に写ながら、フォロリスはアカマイに聞く。
「名前で呪文が決まる……ねぇ。
にしても、なんで魔石をこうも都合良く持ってんだ?」
するとアカマイは、顔をフォロリスに近づけ━━
「そりゃ自分の魔法とかにですよ。まあ、あと残り二個ぐらいもありますから。
凄いんですよ、魔石って。なんせ呪文を数百回まで詠唱無しで使えるんですよ!」
と、興奮した声で説明した。
魔石の聞かされていなかった性能を知り、フォロリスは何故戦争をしてまで手に入れたくなるのかを理解した。
人は一度便利さを覚えたら、それを手放したくなくなるものだ。
そしてそれが今、枯渇しかかっている状況に陥っているのだろう。
だがそれが、フォロリスが求めた世界。
限りある資源を求め醜く争う、その中で何十、何百、何千、何万と殺しても何も言われない。
否! むしろ英雄として語り継がれる、元の追われる世界も中々スリルがあったが、元の世界で威嚇射撃される事はあっても狙って撃ち殺される事は無かった。
故に何か足りなかったのだ。だがこの世界では、誰も彼もが本気で殺しに向かってくる。
あの世界とはまた違う感じのスリル、実に素晴らしい!!
「……戦争が楽しみだな」
「それはそれは心強いお言葉です。では、行きますか。酒場にでも」
「ずいぶん唐突だなおい」
「いや、酒飲みたいんですよ。なんせ城では度数が二十以下が飲めないですよ!?」
フォロリスは、「酒とか久しぶりだな」と小声で呟いたが、その声はアカマイには聞こえていなかったらしく、「早く行きますよ!」とフォロリスの手を握って街へと駆けていった。
勿論、返り血が付いたままで……。
契約する前に通った門の近くにある酒場、何故か扉には刃物で切ったような傷跡がある。
通る前に聞こえていた悲鳴が、今は止んでる。
それに対しフォロリスは少しばかり残念がった。
もっとも、アカマイはホッとした顔であったが……。
フォロリスは扉を開くと、すぐさましゃがむ。
すると二秒あたり経過したあとに、酒瓶がフォロリスの頭を掠った。
酒瓶に残った酒と、瓶の破片が飛び散る。
それに対し少しばかりフォロリスはビビってると、扉の奥から大きな声が聞こえてきた。
「あんたら、ええ加減出てってくれ! うちは族の集まり場じゃないなよ!」
「……アカマイ、これはどういうこった?」
扉の向こう側は、血のついた床にキリストのように貼り付けのされている何処ぞの兵士。
兵士の身体、服には火で炙ったような跡、更に切り傷まで残っていた。
床には血が飛び散っており、指が床に落ちている。
恐らく拷問されたのだろう。と、フォロリスは判断した。だが、フォロリスに解らないことがあった。
それは、兵士の眼にまだ光が宿っているという事だ。
普通なら、見ただけでもどのような事をされたか分かるような拷問を受けたら光なんて無い筈である。
「あー、どうやら拷問の途中で皆さん飽きたみたいですね」
「いや、なんで店の中からあんな声が聞こえてきたのかをだな……」
「そっちですか」
当たり前だろ、とフォロリスは即答で返した。
するとアカマイはそくざま「それはない」と思ったが、言わなかった。
「で、どうする? もう面倒だから帰っていい?」
フォロリスはダルそうな声でアカマイに尋ねる。
「いや駄目です、第四十四独立前線部隊の皆さんは中に居るんですから」
アカマイのその言葉に、フォロリスは「嫌われてんのか?」と思った。
すると数秒後、あの言葉の意味がわかった。あの時のあの言葉……
━━━なんで第四十四部隊達はこんな人ばかりんだろう、という言葉の意味が。
そのような事を知り少しばかり優越感に浸っていたフォロリスは、店の中から聞こえてきた野太い声によって現実へと引き戻された。
その言葉と同時に、アカマイは
「あ、すいません。先に城の方帰っときますね」
そう言いそくさくと店を出て行った。
残されたフォロリスはぽかんとし、とりあえず適当な場所に歩いて行く。
「んなの知るか、テメェのガキ奴隷として売ったろかボケェ!!」
アカマイが城の方へ向かって駆けると同時に、フォロリスは店の中に入った。
するとそこには、綺麗な顔立ちをした青年とご老体のおばあさんが口喧嘩をしていた。
それを数秒眺めてると、ふいに肩を叩かれた。
「兄ちゃん、何見てんだオメェ。見世物じゃねーぞゴルァ!」
ちっちゃい背のデブの男が、フォロリスに向かって罵った。
その言葉を発した時に口から出た唾が、フォロリスの服に小さな染みを作った。
それを一秒睨みつけ、男の顔面に拳を淹れる。
男の鼻から、血がポタポタと垂れ床に染みを作る。
男は右腕で鼻を拭い、懐からナイフを取り出し、フォロリスに向かって斬りかかってきた。
それを難なく避け、腹を思い切り蹴り上げる。するとテーブルと椅子にぶつかった。
テーブルと椅子が粉砕され、破片が宙を舞う。
破片を無視し、フォロリスは男に懐から取り出したペットボトルに入っている液体をかけた。
その液体のかかった男は、テカテカと光っている。
その騒ぎで、先ほどから罵り合っていたばあさんと青年、そしてそれらを取り巻っている人間達もフォロリスと男の方を見た。
ギャラリーからの視線を無視し、フォロリスは懐からマッチを取り出し、火を付ける。
それを見た男は逃げる為、立とうとしてるが光る液体に足を取られ立つ事が出来ない。
そのマッチを男の目の前に落とすと、そこから火が幻想的に男を華麗に彩った。
紅い炎が店内で巻き起こる。
それを見ていたギャラリーの中の一人が、フォロリスに向かって話しかけてきた。
「あんた、まさか新しい副隊長さんか?」
その問いに、冷静な声で答える。
「正解。第四十四独立前線部隊副隊長、フォロリス=スターコーストだ」
フォロリスは、先ほどの男から飛ばされた唾の染みを気にしたように睨みつける。
それと同時に、背後で鐘の音が鳴る。
すると店の中に、男を鎮火する為のバケツを持った人達が、中に入ってきた。
大理石の敷き詰められた部屋に、何十人もの兵隊達が道を作るように並んでいる。
その道を抵抗無く、アカマイは通り姫様のところへと歩いて行く。
そして、ピンクの髪が眩しい、珍しく立って待っていた姫様と向き合うと、アカマイは「アカマイ、ただいま帰還致しました」と言った。
その言葉に姫様は、少しばかり微笑む。だがすぐにその笑みを消した。
「おかえりなさい、アカマイ。おや、フォロリスさんは一緒じゃないのですか?」
「ええ、四十四部隊の皆様に慣れていただくため、置いてきました。
にしても、なにかご用ですか? 帰ってきていきなり『姫様がお呼びです』と兵隊に言われたので来ましたが……」
アカマイのその疑問に、姫様はメイドに宣戦布告した事を伝えた。
するとアカマイは、すぐさま姫様に尋ねた。
「なるほど。では、イス国の勇者様は何処にキャンプを貼っていますか? あと、そのキャンプの数と警備状況を知りたいですね」
「我が城下町周辺の土地に、数個のキャンプで寝泊りしてるようです。
見張り兵は四時間ごとに交代してるとの報告です」
姫様のその言葉に、アカマイはある疑問を生み出した。
おかしい、国を攻め落とすというのには、明らかに少人数すぎるという事に……。
一般的にこの世界で流通しているテントは、中に数人程度しか入らない。それで国や少しばかり大きな村を攻め落とすとなるのならば、テントは数十個ある筈と。
何処かに隠している。という事も考えたが、それでは見張りの意味が無い、そして兵士達の士気の低下に繋がるという結論から無いと考えた。
すると、考えられる結論は二つしか無い。
━━魔宝石の武器を持った人間があの中に居る、か。ネクロマンサーが居るか。それらに絞られる。
すると取られる戦術も限られてくるのである。
魔宝石は一般的に、半永久機関としてこの世界では知られているが、神話の話ではこう記されている。
“異世界から召喚されし異物の生命、魔なる宝を紅に光らせ、悪しき魔の王を紅き炎で三日三晩燃やし続けた。
魔王の魂すら世界から燃やし消すと、その炎が天へと登り、陽となりて魔王により闇に閉じられた世界を照らす。
その光によって、清き魂を持つ者が生き返り、悪しき魂持ちし者を地へと返した。
だが、ある時を堺に闇がまた、訪れた。
その闇の持ち主は、世界を救いし異世界から来た者によって齎されし闇であった……。”
「して、戦闘は何時からに為さるおつもりでございますか?」
「明日の朝、奇襲をかけます。もう宣戦布告いたしましたのでね」
その言葉に、アカマイは思った。
フォロリス、あの武器で生き残れるか? と。
えー、大分と遅れてしまい申し訳ございません!
遅れた理由ですが、ゲームで、ね。分かりますよね?
いやー、最近のポケモンは凄くいい曲が多くてですね。ニコニコでつい聞いてしまいまして・・・。
だってロケット団アジトとシオンタウンとポケモンタワーともりのようかんとNの部屋がいい曲すぎて・・・宿題にも力が入らない焼損でございますはい。
では皆様、自分が言うのもなんですが、宿題やれよー。
ではっ、また次回。
5/17若干描写追加、あまり文字数は増えず……